転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

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復活するオタノート、詩の記憶

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部屋の中は静かだった。机の上には未開封のプリントと、朝のまま放置されたペンケース。それを横に避けると、引き出しの奥にしまわれたひとつのノートが見えた。

手を伸ばしかけて、ほんの一瞬だけためらう。だが、指先がその背表紙に触れた瞬間、記憶が音を立ててよみがえってくる。

黒い表紙に、金色のマスキングテープで飾られたタイトル。

「黒星騎士団・尊死日誌」

誰にも見せるつもりのなかったノート。前世での自分を、すべてそこに注ぎ込んでいた。

静かにページを開く。

その瞬間、息が止まった。

インクの匂い。少し擦れた文字。ページの端に挟まれたポストイット。すべてが、自分が“生きていた”証のようだった。会社から帰って、泣きながら書きつけた日々。現実に疲れ、眠るようにレオ様の台詞を筆写していたあの時間。

ページにはこう記されていた。

「202X年 10月8日(木)  
今日もなんとか帰ってこれた。誰とも会話してない。でも、レオ様の“それでも歩く”って言葉だけで、十分だった」

「202X年 10月24日(土)  
“剣は己のためではなく、守るべき人のために振るう”。  
仕事で失敗した日だった。でも、この言葉があれば、まだ俺は折れずにいられる」

読んでいるうちに、胸の奥がじわじわと熱くなっていく。あの頃、自分は孤独だった。誰にも話せず、ただ作品の中のキャラクターに救いを求めていた。そして確かに、レオ様は自分を救ってくれていた。

手が、ノートの最後のページをめくる。

まだ何も書かれていない真っ白なページ。

しばらく見つめたあと、悠翔はペンを取った。

しばらくペン先が空中で揺れていた。何を書けばいいのか、自分でもわからなかった。ただ、今のこの気持ちを、どこかに吐き出したかった。

呼吸を整え、静かにペンを下ろす。

「“かつての君は、剣を携えていた。  
 今の君は、ノートを差し出す手を持っている”」

書き始めると、言葉は自然に流れ出た。詩ではなかった。けれど、詩のようでもあった。

「“どちらの君も、俺にとっては光だった。  
 この詩は、“推し”へのもの……で、ありますように”」

最後の一文を書き終えたとき、ペン先に込めた力がやけに強かったことに気づく。手首がじんわりと重たい。筆圧が、感情の強さをそのまま表しているようだった。

少しだけ、呼吸を吐く。肩の力が抜けて、ペンを置いた。

目を閉じると、浮かぶのは京橋蒼真の姿だった。ノートを差し出すときの手。教室でふと見せる横顔。髪をかきあげる仕草。レオ様に重ねてしまっている、と何度も思い込もうとした。

けれど、もうそれだけでは説明がつかないことも、わかっていた。

「レオ様の言葉って……あのときの俺を、生かしてくれたんだよな」

独り言のように呟いた言葉が、部屋の空気に溶けていく。

そして今、自分が書いたこの言葉は、誰のためのものなのか。

前世の推しに向けたものか。今、この世界に存在する誰かに向けたものか。

答えは、まだ出せなかった。出したくなかった。名前をつけてしまえば、もう戻れない気がしたから。

だけど、こうしてまた“書けた”ことが、なによりの証だった。

過去の自分と、今の自分が、同じページの上にいる。それだけで、少しだけ呼吸が楽になる。

ノートを閉じると、柔らかくインクの香りが残った。

まるで、その言葉たちが、自分を優しく抱きしめてくれているようだった。
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