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「オタ部ってことで、よろしく」結成宣言
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図書室の一番奥、窓際の小さな四人がけの机。放課後、人気のないそのスペースに、三人だけが集まっていた。春の夕日がガラス越しに差し込み、机の上に長くオレンジ色の影を落としている。
「じゃあ……はい、開会宣言」
阿波座玲奈は、カーディガンの袖をまくりながら鞄から一冊のノートを取り出した。黒い表紙に銀のラインが入ったそれは、どこか記録帳のような厳粛さと、同時に何かが始まる予感を秘めていた。
表紙の中央には、すでに白いマスキングテープで手書きのタイトルが貼られていた。
「創作魂の記録ノート」
その文字を見た瞬間、昭和町紬がきらきらと目を輝かせた。
「え、なにそれ最高……!ノートの名前でもう小説書ける!」
「書かないで。まだ中身白紙だから」
玲奈は、赤メガネを指でくいと押し上げながら、ノートの表紙をぱたんと開いた。ページの一番上には、整った字でこう書かれていた。
「浪速星学園 非公式 創作部(通称:オタ部)
活動内容:創作、観察、妄想、記録、その他オタ的心の浄化
活動場所:教室、図書室、保健室(必要時)
報告義務:なし」
「……え、これ、部活っていうか、もはや宗教じゃない?」
悠翔は苦笑いしながら呟いた。だが、その声は大きくなかったし、本気で否定しているわけでもなかった。
玲奈はメガネ越しに悠翔を一瞥してから、さらりと言った。
「部活って名乗らなきゃ、部活じゃない。だから非公式。管理されないから自由。誰にも見せなくていいから、なんでも書ける」
「なるほど……隠れ家だ」
「そう。心のね」
その言葉に、悠翔は何も返さなかった。ただ、指先が机の縁をそっとなぞった。さっきまで固く握られていた手が、ほんの少しだけ、緩んでいた。
紬は、すでにノートの2ページ目にペンを走らせていた。
「じゃあ、作品タイトルの案、いくつか書いとくね。えっと……“君が隣で息をする季節”とか、“未読スキップされた気持ちの行方”とか、“好き未満、推し以上”とか……」
「多すぎる。あと、最後のやつ多分、今の天満くんの気持ちね」
「やめてください」
悠翔は思わず頭を抱えたが、その表情には苦笑いが混じっていた。笑いながら顔を隠す仕草は、照れ隠し以外の何物でもなかった。
紬はにこにこと微笑みながら、続けた。
「でもね、私、思うんだ。好きって言えないときって、あるじゃん。そういうとき、詩でも妄想でも、言葉にしてみると楽になるよ。ほら、好きって認めなくても、“なんか気になる”ってだけでも、書いていいんだよ」
「……そう、なのかな」
「うん。妄想って、優しさだと思うの」
その言葉に、悠翔の指がまた、机の上をすっと動いた。彼の視線は、ノートの表紙に向けられていた。そこには、“創作魂の記録ノート”というタイトルが、まるで入信者を待ち受けるように鎮座していた。
玲奈がペンを差し出す。
「初期メンバー、三名。一人一ページ。最初のログ、書いて」
「な、なにを書くの?」
「自分が“書く理由”」
「重い……」
「軽くていいよ~。私は、“妄想に出口が欲しかったから”って書いた」
「私は、“世界に言えない本音を置く場所”って書いた」
二人の言葉が重ならずに、すっと心に入ってくる。その自然さが、むしろ恐ろしいほどだった。
悠翔はペンを受け取り、ノートを開いた。最初のページに、自分のスペースがある。名前は書かなくてもいい。誰に見せるわけでもない。なのに、手が震える。
やがて、迷いながら書いた。
「“推しの存在が、まだ俺を生かしてくれてるから”」
書き終えたとき、夕日が一段と傾いていた。オレンジ色が濃くなり、図書室の空気がほんの少しだけ、静寂に染まった。
机の上には、開かれたノート。手の中には、温もりを残したままのペン。
そこには、秘密だけど確かな居場所が生まれていた。
まだ名前のない感情も、言えない気持ちも、この場所なら受け入れてくれそうだった。
そう思えただけで、胸の奥が、すこしだけ軽くなった気がした。
「じゃあ……はい、開会宣言」
阿波座玲奈は、カーディガンの袖をまくりながら鞄から一冊のノートを取り出した。黒い表紙に銀のラインが入ったそれは、どこか記録帳のような厳粛さと、同時に何かが始まる予感を秘めていた。
表紙の中央には、すでに白いマスキングテープで手書きのタイトルが貼られていた。
「創作魂の記録ノート」
その文字を見た瞬間、昭和町紬がきらきらと目を輝かせた。
「え、なにそれ最高……!ノートの名前でもう小説書ける!」
「書かないで。まだ中身白紙だから」
玲奈は、赤メガネを指でくいと押し上げながら、ノートの表紙をぱたんと開いた。ページの一番上には、整った字でこう書かれていた。
「浪速星学園 非公式 創作部(通称:オタ部)
活動内容:創作、観察、妄想、記録、その他オタ的心の浄化
活動場所:教室、図書室、保健室(必要時)
報告義務:なし」
「……え、これ、部活っていうか、もはや宗教じゃない?」
悠翔は苦笑いしながら呟いた。だが、その声は大きくなかったし、本気で否定しているわけでもなかった。
玲奈はメガネ越しに悠翔を一瞥してから、さらりと言った。
「部活って名乗らなきゃ、部活じゃない。だから非公式。管理されないから自由。誰にも見せなくていいから、なんでも書ける」
「なるほど……隠れ家だ」
「そう。心のね」
その言葉に、悠翔は何も返さなかった。ただ、指先が机の縁をそっとなぞった。さっきまで固く握られていた手が、ほんの少しだけ、緩んでいた。
紬は、すでにノートの2ページ目にペンを走らせていた。
「じゃあ、作品タイトルの案、いくつか書いとくね。えっと……“君が隣で息をする季節”とか、“未読スキップされた気持ちの行方”とか、“好き未満、推し以上”とか……」
「多すぎる。あと、最後のやつ多分、今の天満くんの気持ちね」
「やめてください」
悠翔は思わず頭を抱えたが、その表情には苦笑いが混じっていた。笑いながら顔を隠す仕草は、照れ隠し以外の何物でもなかった。
紬はにこにこと微笑みながら、続けた。
「でもね、私、思うんだ。好きって言えないときって、あるじゃん。そういうとき、詩でも妄想でも、言葉にしてみると楽になるよ。ほら、好きって認めなくても、“なんか気になる”ってだけでも、書いていいんだよ」
「……そう、なのかな」
「うん。妄想って、優しさだと思うの」
その言葉に、悠翔の指がまた、机の上をすっと動いた。彼の視線は、ノートの表紙に向けられていた。そこには、“創作魂の記録ノート”というタイトルが、まるで入信者を待ち受けるように鎮座していた。
玲奈がペンを差し出す。
「初期メンバー、三名。一人一ページ。最初のログ、書いて」
「な、なにを書くの?」
「自分が“書く理由”」
「重い……」
「軽くていいよ~。私は、“妄想に出口が欲しかったから”って書いた」
「私は、“世界に言えない本音を置く場所”って書いた」
二人の言葉が重ならずに、すっと心に入ってくる。その自然さが、むしろ恐ろしいほどだった。
悠翔はペンを受け取り、ノートを開いた。最初のページに、自分のスペースがある。名前は書かなくてもいい。誰に見せるわけでもない。なのに、手が震える。
やがて、迷いながら書いた。
「“推しの存在が、まだ俺を生かしてくれてるから”」
書き終えたとき、夕日が一段と傾いていた。オレンジ色が濃くなり、図書室の空気がほんの少しだけ、静寂に染まった。
机の上には、開かれたノート。手の中には、温もりを残したままのペン。
そこには、秘密だけど確かな居場所が生まれていた。
まだ名前のない感情も、言えない気持ちも、この場所なら受け入れてくれそうだった。
そう思えただけで、胸の奥が、すこしだけ軽くなった気がした。
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