転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

文字の大きさ
19 / 67

「オタ部ってことで、よろしく」結成宣言

しおりを挟む
図書室の一番奥、窓際の小さな四人がけの机。放課後、人気のないそのスペースに、三人だけが集まっていた。春の夕日がガラス越しに差し込み、机の上に長くオレンジ色の影を落としている。

「じゃあ……はい、開会宣言」

阿波座玲奈は、カーディガンの袖をまくりながら鞄から一冊のノートを取り出した。黒い表紙に銀のラインが入ったそれは、どこか記録帳のような厳粛さと、同時に何かが始まる予感を秘めていた。

表紙の中央には、すでに白いマスキングテープで手書きのタイトルが貼られていた。

「創作魂の記録ノート」

その文字を見た瞬間、昭和町紬がきらきらと目を輝かせた。

「え、なにそれ最高……!ノートの名前でもう小説書ける!」

「書かないで。まだ中身白紙だから」

玲奈は、赤メガネを指でくいと押し上げながら、ノートの表紙をぱたんと開いた。ページの一番上には、整った字でこう書かれていた。

「浪速星学園 非公式 創作部(通称:オタ部)  
活動内容:創作、観察、妄想、記録、その他オタ的心の浄化  
活動場所:教室、図書室、保健室(必要時)  
報告義務:なし」

「……え、これ、部活っていうか、もはや宗教じゃない?」

悠翔は苦笑いしながら呟いた。だが、その声は大きくなかったし、本気で否定しているわけでもなかった。

玲奈はメガネ越しに悠翔を一瞥してから、さらりと言った。

「部活って名乗らなきゃ、部活じゃない。だから非公式。管理されないから自由。誰にも見せなくていいから、なんでも書ける」

「なるほど……隠れ家だ」

「そう。心のね」

その言葉に、悠翔は何も返さなかった。ただ、指先が机の縁をそっとなぞった。さっきまで固く握られていた手が、ほんの少しだけ、緩んでいた。

紬は、すでにノートの2ページ目にペンを走らせていた。

「じゃあ、作品タイトルの案、いくつか書いとくね。えっと……“君が隣で息をする季節”とか、“未読スキップされた気持ちの行方”とか、“好き未満、推し以上”とか……」

「多すぎる。あと、最後のやつ多分、今の天満くんの気持ちね」

「やめてください」

悠翔は思わず頭を抱えたが、その表情には苦笑いが混じっていた。笑いながら顔を隠す仕草は、照れ隠し以外の何物でもなかった。

紬はにこにこと微笑みながら、続けた。

「でもね、私、思うんだ。好きって言えないときって、あるじゃん。そういうとき、詩でも妄想でも、言葉にしてみると楽になるよ。ほら、好きって認めなくても、“なんか気になる”ってだけでも、書いていいんだよ」

「……そう、なのかな」

「うん。妄想って、優しさだと思うの」

その言葉に、悠翔の指がまた、机の上をすっと動いた。彼の視線は、ノートの表紙に向けられていた。そこには、“創作魂の記録ノート”というタイトルが、まるで入信者を待ち受けるように鎮座していた。

玲奈がペンを差し出す。

「初期メンバー、三名。一人一ページ。最初のログ、書いて」

「な、なにを書くの?」

「自分が“書く理由”」

「重い……」

「軽くていいよ~。私は、“妄想に出口が欲しかったから”って書いた」

「私は、“世界に言えない本音を置く場所”って書いた」

二人の言葉が重ならずに、すっと心に入ってくる。その自然さが、むしろ恐ろしいほどだった。

悠翔はペンを受け取り、ノートを開いた。最初のページに、自分のスペースがある。名前は書かなくてもいい。誰に見せるわけでもない。なのに、手が震える。

やがて、迷いながら書いた。

「“推しの存在が、まだ俺を生かしてくれてるから”」

書き終えたとき、夕日が一段と傾いていた。オレンジ色が濃くなり、図書室の空気がほんの少しだけ、静寂に染まった。

机の上には、開かれたノート。手の中には、温もりを残したままのペン。  
そこには、秘密だけど確かな居場所が生まれていた。  
まだ名前のない感情も、言えない気持ちも、この場所なら受け入れてくれそうだった。  

そう思えただけで、胸の奥が、すこしだけ軽くなった気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

処理中です...