18 / 67
「星屑の騎士」の正体、バレる
教室の窓から射し込む夕方の光が、白い机の上に長い影を落としていた。放課後の時間帯、あちらこちらの席で生徒たちが談笑したり、教科の課題に取り組んだりしている。そんなざわついた空間の中、阿波座玲奈の席の周辺だけは、まるで異質な静けさが漂っていた。
その中心で、阿波座はスマートフォンを無言でスクロールしていた。隣に座った紬が、さっきから何度も小さく頷きながら、画面を覗き込んでいる。
「やっぱり、この人、文章の温度が違うよね」
阿波座がぽつりと呟くと、紬がうんうんと頷いた。
「うん。言葉の間の空白が、なんかこう…切ないの。ひとりで泣いてるみたいな感じっていうか」
「そう。そこがいい」
二人の声は、周囲の喧騒とは明らかに違う周波数で響いていた。その静けさが、妙に耳に残る。悠翔は、すぐ隣の自分の席で、その声を聞きながら、ページを開いたままの教科書に目を落とし続けていた。文字は読み取れず、視線だけが文字の上をなぞっている。心臓の鼓動が、だんだん早くなっていくのが分かる。
「この温度、“生で見たことある”気がする」
阿波座のその一言で、悠翔の背筋に冷たいものが走った。息が詰まりそうになる。体がこわばる。咄嗟に視線を逸らすが、その動きはむしろ不自然だった。逃げようとしたその気配が、むしろ“答え”として読み取られてしまったような気がした。
「あなた、“星屑の騎士”でしょ」
阿波座の声は、断定だった。驚きや問いかけの色はなく、ただ静かに、事実を確認するような声音。
悠翔は、瞬間的に顔から血の気が引くのを感じた。視線が定まらない。机の縁をぎゅっと握り、無理やり呼吸を整えようとする。
「……え、な、なにが?」
かろうじて口を開いたが、声が裏返り、言葉の重さも薄かった。言えば言うほど、余計にバレていく。そういうときの空気というものがある。いま、この教室の、この小さな空間が、まさにそれだった。
紬が、にこにこと微笑んだ。
「やっぱり…!じゃなきゃ、あんな風に“距離”書けないよ~」
「え、ちが、ちがっ……」
声が震える。口では否定しているが、顔は正直だった。耳まで真っ赤になり、目が泳ぎ、姿勢も微妙に引き気味になっている。机の端を掴む指先だけが、どうにか自分を支えていた。
心の中で、声が渦を巻く。
……終わった……尊死じゃなくて、羞恥死……!
俺、バレた。絶対バレた。やばいやばいやばい。
どこまで読まれてる?どのポエム?どのフレーズ?
“声を聞いた瞬間、また好きになった自分がいる”のやつ?それ?やばくない?やばいってば……
「わたし、あの“光だった”ってくだり、すごく好きだったんだよね」
紬のその言葉に、さらに汗がにじむ。どうして、どうしてこんなに具体的に褒めてくるのだ。沈んでいた心臓が、今度は浮き上がってきそうになる。
「…あれって、“好き”って、まだ言えない人の詩だよね」
その一言で、悠翔は反射的に立ち上がりかけた。椅子がきい、と音を立てた。だが、立ち上がることはできず、そのままぐっと腰を戻した。逃げても無駄だと思った。もう、この場で消えるしか道はないような気さえしてきた。
「…ちが……いや、だから、その、“推し”で……」
言いかけて、言葉が消えた。
“推し”と言えば、すべてが安全だと思っていた。だって、推しは偶像で、距離がある。叶わないことが前提だから、自由に感情を注げるし、誰かに責められることもない。
けれど、今は。今のこれは、なんだ?
“あの人”は、現実にいて、隣にいて、同じ制服を着て、同じ空気を吸っている。
そして、自分の中では、“レオ様”と“京橋くん”が、もう完全には分けられなくなっていた。
「……書いてて、苦しかったでしょ?」
紬の声は、なぜか優しかった。責めているわけでも、問い詰めているわけでもない。ただ、共感の目で、そっと差し出すような声だった。
阿波座は、言葉を補うように呟く。
「でも、書けたってことは、逃げなかったってことよ。大丈夫。ちゃんと伝わってる」
悠翔は、もう何も言えなかった。言葉が出るたびに、自分の中の境界線が崩れていく気がして怖かった。
だけど、ほんの少しだけ、心の奥で何かが解けるような音がした。
誰にも知られずにいた“感情”が、誰かに読まれたという事実が、思っていたほど嫌じゃなかった。
むしろ――どこか、救われたような気さえしていた。
その中心で、阿波座はスマートフォンを無言でスクロールしていた。隣に座った紬が、さっきから何度も小さく頷きながら、画面を覗き込んでいる。
「やっぱり、この人、文章の温度が違うよね」
阿波座がぽつりと呟くと、紬がうんうんと頷いた。
「うん。言葉の間の空白が、なんかこう…切ないの。ひとりで泣いてるみたいな感じっていうか」
「そう。そこがいい」
二人の声は、周囲の喧騒とは明らかに違う周波数で響いていた。その静けさが、妙に耳に残る。悠翔は、すぐ隣の自分の席で、その声を聞きながら、ページを開いたままの教科書に目を落とし続けていた。文字は読み取れず、視線だけが文字の上をなぞっている。心臓の鼓動が、だんだん早くなっていくのが分かる。
「この温度、“生で見たことある”気がする」
阿波座のその一言で、悠翔の背筋に冷たいものが走った。息が詰まりそうになる。体がこわばる。咄嗟に視線を逸らすが、その動きはむしろ不自然だった。逃げようとしたその気配が、むしろ“答え”として読み取られてしまったような気がした。
「あなた、“星屑の騎士”でしょ」
阿波座の声は、断定だった。驚きや問いかけの色はなく、ただ静かに、事実を確認するような声音。
悠翔は、瞬間的に顔から血の気が引くのを感じた。視線が定まらない。机の縁をぎゅっと握り、無理やり呼吸を整えようとする。
「……え、な、なにが?」
かろうじて口を開いたが、声が裏返り、言葉の重さも薄かった。言えば言うほど、余計にバレていく。そういうときの空気というものがある。いま、この教室の、この小さな空間が、まさにそれだった。
紬が、にこにこと微笑んだ。
「やっぱり…!じゃなきゃ、あんな風に“距離”書けないよ~」
「え、ちが、ちがっ……」
声が震える。口では否定しているが、顔は正直だった。耳まで真っ赤になり、目が泳ぎ、姿勢も微妙に引き気味になっている。机の端を掴む指先だけが、どうにか自分を支えていた。
心の中で、声が渦を巻く。
……終わった……尊死じゃなくて、羞恥死……!
俺、バレた。絶対バレた。やばいやばいやばい。
どこまで読まれてる?どのポエム?どのフレーズ?
“声を聞いた瞬間、また好きになった自分がいる”のやつ?それ?やばくない?やばいってば……
「わたし、あの“光だった”ってくだり、すごく好きだったんだよね」
紬のその言葉に、さらに汗がにじむ。どうして、どうしてこんなに具体的に褒めてくるのだ。沈んでいた心臓が、今度は浮き上がってきそうになる。
「…あれって、“好き”って、まだ言えない人の詩だよね」
その一言で、悠翔は反射的に立ち上がりかけた。椅子がきい、と音を立てた。だが、立ち上がることはできず、そのままぐっと腰を戻した。逃げても無駄だと思った。もう、この場で消えるしか道はないような気さえしてきた。
「…ちが……いや、だから、その、“推し”で……」
言いかけて、言葉が消えた。
“推し”と言えば、すべてが安全だと思っていた。だって、推しは偶像で、距離がある。叶わないことが前提だから、自由に感情を注げるし、誰かに責められることもない。
けれど、今は。今のこれは、なんだ?
“あの人”は、現実にいて、隣にいて、同じ制服を着て、同じ空気を吸っている。
そして、自分の中では、“レオ様”と“京橋くん”が、もう完全には分けられなくなっていた。
「……書いてて、苦しかったでしょ?」
紬の声は、なぜか優しかった。責めているわけでも、問い詰めているわけでもない。ただ、共感の目で、そっと差し出すような声だった。
阿波座は、言葉を補うように呟く。
「でも、書けたってことは、逃げなかったってことよ。大丈夫。ちゃんと伝わってる」
悠翔は、もう何も言えなかった。言葉が出るたびに、自分の中の境界線が崩れていく気がして怖かった。
だけど、ほんの少しだけ、心の奥で何かが解けるような音がした。
誰にも知られずにいた“感情”が、誰かに読まれたという事実が、思っていたほど嫌じゃなかった。
むしろ――どこか、救われたような気さえしていた。
あなたにおすすめの小説
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
推しの運命を変えるため、モブの俺は嫌われ役を演じた
月冬
BL
乙女ゲームの世界に転生した俺は、ただのモブキャラ。
推しキャラのレオンは、本来なら主人公と結ばれる攻略対象だった。
だから距離を置くつもりだったのに――
気づけば、孤独だった彼の隣にいた。
「モブは選ばれない」
そう思っていたのに、
なぜかシナリオがどんどん壊れていく。
これは、
推しの未来を知るモブが、運命を変えてしまう物語。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
悲報、転生したらギャルゲーの主人公だったのに、悪友も一緒に転生してきたせいで開幕即終了のお知らせ
椿谷あずる
BL
平凡な高校生だった俺は、ある日事故で命を落としギャルゲーの世界に主人公としてに転生した――はずだった。薔薇色のハーレムライフを望んだ俺の前に、なぜか一緒に事故に巻き込まれた悪友・野里レンまで転生してきて!?「お前だけハーレムなんて、絶対ズルいだろ?」っておい、俺のハーレム計画はどうなるんだ?ヒロインじゃなく、男とばかりフラグが立ってしまうギャルゲー世界。俺のハーレム計画、開幕十分で即終了のお知らせ……!
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
第三章 完結
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。