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名前を呼ばれた記憶
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布団に仰向けになったまま、天井を見つめていた。部屋は暗く、カーテンの隙間から入り込む街灯の光だけが、天井の一部を淡く照らしている。机の上のスタンドも消えていて、世界は自分とスマートフォンの画面だけで構成されているかのようだった。
悠翔は手元のスマートフォンを握ったまま、画面をスリープから立ち上げた。指紋認証の音が静かに響き、見慣れたなにスタの画面が立ち上がる。
“星屑の騎士”のページ。自分が投稿した詩がそこに並んでいる。バズった投稿の下にはいくつものハートマークと、コメントの数々。何百回と見たはずのそのページに、今夜もまた、自然と指が伸びていた。
スクロールして、一つの詩を開く。
「“君の剣は、傷を与えるものじゃなく、
きっと、誰かの涙をぬぐうためにあったんだ”」
この一節を書いたとき、自分はたしかにレオ様を思い浮かべていた。記憶の中で何度も読み返したあの台詞。漫画の一コマ。画面越しの勇姿。レオ様が静かに振り返って言ったそのセリフが、あのときの自分の胸に刺さっていた。
あの日の帰宅途中、心が折れそうな夜、満員電車の中で必死に涙をこらえながら、この言葉にすがっていた。
でも――
今、その一節を読み返して、浮かんでくるのは、もう漫画の中の人物ではなかった。
京橋蒼真。
同じ教室にいて、隣の席でノートを貸してくれる人。
自分の名前を呼んでくれて、何気ない仕草にいつも誰かの視線を集める人。
けれど、その目線の先が、ほんの少しでも自分に向いた気がしたとき――胸が痛くなる。
悠翔はスマホを胸の上に置いて、ふうっと息を吐いた。
「……なんで、だろ」
小さな呟きが部屋の中に落ちる。
レオ様の声で、言ってほしかった。ずっとそうだった。自分の傷を癒してくれる存在。叶わないけれど、だからこそ美しかった。
でも、今は。
「レオ様の声で、言ってほしかった台詞。
今は、京橋くんに、言ってほしいって思ってる。
…それって、どういうこと?」
心の中で言葉を繰り返すたびに、胸の奥がざわつく。
レオ様は“推し”だった。偶像で、理想で、画面の向こうの人だった。手が届かないからこそ、すべてを預けられた。
でも、京橋くんはちがう。
目の前にいる。名前を知っている。声を知っている。あの手の温度も、匂いも、息遣いも。
もしあの言葉を、京橋くんが自分に向かって言ったら。
想像した瞬間、鼓動が跳ねた。喉が詰まりそうになる。そんなこと、あるはずがないのに。でも、想像してしまった。してしまった自分を、止められなかった。
「好き……なの?」
問いはすぐに自分の中に沈んだ。まだ言えない。言いたくない。でも、否定もしきれない。
悠翔はスマホの画面を再び見た。そこには、今夜も新しいコメントがひとつ増えていた。
「“存在しない物語”が、誰かの“今”に届くことって、あるんだね」
指先が、そのコメントの上をなぞった。まるで、誰かの手に触れるように。
「……あるんだよ、きっと」
そう呟いて、スマホを横に置いた。薄暗い天井をもう一度見上げる。
今の気持ちに、まだ名前はつけられない。
でも、名前がないままでも、大事にできるものがあるなら。
それは、嘘じゃない。
目を閉じた。部屋は静かで、外からは風の音だけが聞こえていた。
その音の中で、心臓の音が響いていた。
そして、その鼓動のたびに、京橋蒼真の笑顔が、そっと胸の奥に浮かんでくるのだった。
悠翔は手元のスマートフォンを握ったまま、画面をスリープから立ち上げた。指紋認証の音が静かに響き、見慣れたなにスタの画面が立ち上がる。
“星屑の騎士”のページ。自分が投稿した詩がそこに並んでいる。バズった投稿の下にはいくつものハートマークと、コメントの数々。何百回と見たはずのそのページに、今夜もまた、自然と指が伸びていた。
スクロールして、一つの詩を開く。
「“君の剣は、傷を与えるものじゃなく、
きっと、誰かの涙をぬぐうためにあったんだ”」
この一節を書いたとき、自分はたしかにレオ様を思い浮かべていた。記憶の中で何度も読み返したあの台詞。漫画の一コマ。画面越しの勇姿。レオ様が静かに振り返って言ったそのセリフが、あのときの自分の胸に刺さっていた。
あの日の帰宅途中、心が折れそうな夜、満員電車の中で必死に涙をこらえながら、この言葉にすがっていた。
でも――
今、その一節を読み返して、浮かんでくるのは、もう漫画の中の人物ではなかった。
京橋蒼真。
同じ教室にいて、隣の席でノートを貸してくれる人。
自分の名前を呼んでくれて、何気ない仕草にいつも誰かの視線を集める人。
けれど、その目線の先が、ほんの少しでも自分に向いた気がしたとき――胸が痛くなる。
悠翔はスマホを胸の上に置いて、ふうっと息を吐いた。
「……なんで、だろ」
小さな呟きが部屋の中に落ちる。
レオ様の声で、言ってほしかった。ずっとそうだった。自分の傷を癒してくれる存在。叶わないけれど、だからこそ美しかった。
でも、今は。
「レオ様の声で、言ってほしかった台詞。
今は、京橋くんに、言ってほしいって思ってる。
…それって、どういうこと?」
心の中で言葉を繰り返すたびに、胸の奥がざわつく。
レオ様は“推し”だった。偶像で、理想で、画面の向こうの人だった。手が届かないからこそ、すべてを預けられた。
でも、京橋くんはちがう。
目の前にいる。名前を知っている。声を知っている。あの手の温度も、匂いも、息遣いも。
もしあの言葉を、京橋くんが自分に向かって言ったら。
想像した瞬間、鼓動が跳ねた。喉が詰まりそうになる。そんなこと、あるはずがないのに。でも、想像してしまった。してしまった自分を、止められなかった。
「好き……なの?」
問いはすぐに自分の中に沈んだ。まだ言えない。言いたくない。でも、否定もしきれない。
悠翔はスマホの画面を再び見た。そこには、今夜も新しいコメントがひとつ増えていた。
「“存在しない物語”が、誰かの“今”に届くことって、あるんだね」
指先が、そのコメントの上をなぞった。まるで、誰かの手に触れるように。
「……あるんだよ、きっと」
そう呟いて、スマホを横に置いた。薄暗い天井をもう一度見上げる。
今の気持ちに、まだ名前はつけられない。
でも、名前がないままでも、大事にできるものがあるなら。
それは、嘘じゃない。
目を閉じた。部屋は静かで、外からは風の音だけが聞こえていた。
その音の中で、心臓の音が響いていた。
そして、その鼓動のたびに、京橋蒼真の笑顔が、そっと胸の奥に浮かんでくるのだった。
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