転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

文字の大きさ
25 / 67

再生する物語

しおりを挟む
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、机の上に置かれたスマートフォンの画面をぼんやりと照らしていた。まだ誰も起きていない家の中、悠翔は静かに椅子に腰掛けていた。足元には、前夜に書き散らした創作ノートが何冊も積まれている。けれど、今、彼が見つめているのは、そのどれでもなかった。

指先でそっと「なにスタ」のアプリを立ち上げる。起動画面が過ぎると、白い投稿欄が現れる。無音の中、彼の心臓の鼓動だけが、自分の存在を証明するかのように打ち続けていた。

しばらくの間、何も書き込まれない投稿欄を見つめていた。指が動くのを待つように、ただじっと。  
けれど、ふいに風が窓を揺らし、カーテンが軽く踊ったその音に促されるように、悠翔はゆっくりとペンを取るような動きでスマートフォンにタップし始めた。

タイトル欄に指を滑らせる。

「存在しなかった物語を、もう一度」

その言葉を入力しただけで、胸の奥がわずかに熱くなった。ずっと封じていた気持ちに、ようやく名前を与えられたような気がした。

そして、本分へと移る。

画面に、静かに、言葉が並べられていく。

「この想いは、かつての記憶。  
でも、それだけじゃなかった。  
今の君を通して、また息を吹き返した。  
過去にだけ存在していたはずの気持ちが、  
今、目の前の笑顔に揺れた瞬間、  
もう一度、物語を始めてしまった。  

これは、あの人への祈りではなく、  
今ここで生きている誰かへの手紙かもしれない。  

もし、あなたがこの詩を読むことがあれば、  
どうか、過去のどこかではなく、  
今、この瞬間の誰かを思い浮かべてほしい。  

きっとその人が、  
あなたの物語を動かす人だから」

打ち終えたあと、しばらく指を止めたまま画面を見つめた。

送信するかどうか迷った。けれど、もう迷いきるほどの余裕はなかった。言葉は出てしまった。もう戻せない。

「……いってこい」

そう呟いて、投稿ボタンを押す。

画面が切り替わり、「投稿完了」と表示される。

何かが終わったような、始まったような不思議な感覚だった。胸の奥にあった重たいものが、少しだけ軽くなった気がする。

数分も経たないうちに、通知がひとつ、またひとつと増えていく。最初の“いいね”はすぐに、十、二十と数を重ねていった。

そして、コメントも届きはじめた。

「この詩で、また前を向ける気がしました」  
「好きって気持ち、怖いけど、それでも大事にしたいって思えた」  
「“今”に重なる言葉って、ほんとにあるんですね」  
「あなたの物語、私の今と重なりました。ありがとう」

ひとつひとつの反応が、言葉としてではなく、心の温度として伝わってくる。

たった一人で抱えていた感情が、誰かの“今”と交差する。そんな奇跡のような現象が、画面の中で静かに起こっていた。

悠翔は、ふうっと息を吐いて、スマートフォンを机に置いた。

窓の外では、春の風が街の景色を揺らしていた。通学路を歩く学生たちの声が、かすかに聞こえる。

その音を聞きながら、心の中で言葉が浮かんでくる。

「俺が語ってきたのは、過去じゃない。  
…今、この気持ちこそが、“物語”になってるんだ」

それは、かつて憧れていた世界とは違うかもしれない。  
でも、いまここにしかない“想い”が、自分の中で確かに生きている。  
それを形にして届けられたなら、それだけで十分だと思えた。

そして、もしもこの物語に続きがあるのなら――  
それは、誰かとともに書いていく物語になるのだろう。

自分ひとりでは書けない、けれど、だからこそ美しい、名前のない章を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...