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阿波座の静かな怒り
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図書室の隅に設けられた、オタ部専用のテーブル席。
窓から射し込む西日の光が、机の上に散らばったノートや資料に細い影を落としていた。
放課後の静けさの中、パラパラとノートをめくる音と、スマホのタップ音だけが響いていた。
阿波座玲奈は、無言のままスマホの画面を見つめていた。
眼鏡の奥の視線は鋭く、そこに映る投稿のひとつひとつを、冷静に、だが明らかに怒りを孕んだ目で追っていた。
なにスタのタイムラインには、文化祭展示に関連した議論がいまだ続いていた。
「#きょゆう不快」「#推しのプライバシー」などのタグが増え、表向きは中立を装っているが、明らかに天満悠翔を暗に責め立てる言葉が、至るところに散見された。
「勝手にモデル化するって、正気か?」
「騎士の隣に立つ夢、他人のものじゃないから」
「こんなの、ただの自己投影でしょ」
阿波座はひとつひとつの投稿をスクリーンショットし、フォルダにまとめていく。
作業は淡々としていたが、その手元に置かれた資料ファイルの端が、無意識に握り締められていた。
「証拠は残す」
低く、硬い声だった。
普段の冷静さそのままに、けれどその中には明らかな棘があった。
隣では、昭和町紬がゆっくりと肩を落としていた。
普段はどんなときでも笑顔を浮かべている彼女の頬が、ほんの少しだけこわばっている。
「こんなつもりじゃなかったんだよね…」
ぽつりと、落ちるような声で紬が言った。
彼女の手元には、あの展示に使われたSSの下書きが挟まったノート。
ページの角が少し折れているのは、きっと何度も読み返した証だろう。
「ただ、好きって気持ちを…誰かと分かち合いたかっただけなのに」
声には涙こそなかったが、泣きそうな笑顔が逆に胸を締め付けた。
そんな紬の横で、阿波座はノートに視線を落としたまま、小さく息をついた。
「創作ってさ…本来は、誰かを傷つけるためにあるもんじゃない」
その言葉には、珍しく感情が乗っていた。
冷静で理知的な彼女が、怒りを言葉にすることは稀だった。
だからこそ、その一言には重みがあった。
「自分の好きって気持ちを、形にしたかっただけ。
それが誰かの心を揺らしたなら、伝わったってことだと思ってた」
指先が震えた。
ページの角をなぞるようにして、阿波座は続けた。
「でもそれを、“誰かの好き”が上書きしてくるのは違う」
淡々とした声の中に、強い確信があった。
決して激情ではない。
けれど、その静けさの中には、確かに揺るぎない信念があった。
「表現は自由。でも、自由ってことは、責任もあるってこと。
好きで創ったものが、他人の憎しみの矢になるなら、それはもう、ただの武器だよ」
紬がそっと目を伏せた。
肩にかかる髪が、彼女の横顔を隠す。
「みんなの好きって、どうしてぶつかっちゃうんだろうね…」
その問いは、誰にも答えられないものだった。
たとえ同じ人を好きだとしても、その形が違えば、共感はすれ違いに変わる。
阿波座は何も言わなかった。
ただ、小さく頷いて、視線をスマホの画面から外した。
彼女の資料ノートの一ページに、手書きでこう記されていた。
「好きは、守るための言葉じゃなきゃいけない」
誰かが誰かを想って生まれた物語が、誰かを傷つけるものになってしまったとき。
そのとき、創作者は何を選ぶべきなのか。
阿波座はその答えを探すように、目の前の画面を見つめ直していた。
静かに、けれど確かに。
怒りという名の、正義を手にして。
窓から射し込む西日の光が、机の上に散らばったノートや資料に細い影を落としていた。
放課後の静けさの中、パラパラとノートをめくる音と、スマホのタップ音だけが響いていた。
阿波座玲奈は、無言のままスマホの画面を見つめていた。
眼鏡の奥の視線は鋭く、そこに映る投稿のひとつひとつを、冷静に、だが明らかに怒りを孕んだ目で追っていた。
なにスタのタイムラインには、文化祭展示に関連した議論がいまだ続いていた。
「#きょゆう不快」「#推しのプライバシー」などのタグが増え、表向きは中立を装っているが、明らかに天満悠翔を暗に責め立てる言葉が、至るところに散見された。
「勝手にモデル化するって、正気か?」
「騎士の隣に立つ夢、他人のものじゃないから」
「こんなの、ただの自己投影でしょ」
阿波座はひとつひとつの投稿をスクリーンショットし、フォルダにまとめていく。
作業は淡々としていたが、その手元に置かれた資料ファイルの端が、無意識に握り締められていた。
「証拠は残す」
低く、硬い声だった。
普段の冷静さそのままに、けれどその中には明らかな棘があった。
隣では、昭和町紬がゆっくりと肩を落としていた。
普段はどんなときでも笑顔を浮かべている彼女の頬が、ほんの少しだけこわばっている。
「こんなつもりじゃなかったんだよね…」
ぽつりと、落ちるような声で紬が言った。
彼女の手元には、あの展示に使われたSSの下書きが挟まったノート。
ページの角が少し折れているのは、きっと何度も読み返した証だろう。
「ただ、好きって気持ちを…誰かと分かち合いたかっただけなのに」
声には涙こそなかったが、泣きそうな笑顔が逆に胸を締め付けた。
そんな紬の横で、阿波座はノートに視線を落としたまま、小さく息をついた。
「創作ってさ…本来は、誰かを傷つけるためにあるもんじゃない」
その言葉には、珍しく感情が乗っていた。
冷静で理知的な彼女が、怒りを言葉にすることは稀だった。
だからこそ、その一言には重みがあった。
「自分の好きって気持ちを、形にしたかっただけ。
それが誰かの心を揺らしたなら、伝わったってことだと思ってた」
指先が震えた。
ページの角をなぞるようにして、阿波座は続けた。
「でもそれを、“誰かの好き”が上書きしてくるのは違う」
淡々とした声の中に、強い確信があった。
決して激情ではない。
けれど、その静けさの中には、確かに揺るぎない信念があった。
「表現は自由。でも、自由ってことは、責任もあるってこと。
好きで創ったものが、他人の憎しみの矢になるなら、それはもう、ただの武器だよ」
紬がそっと目を伏せた。
肩にかかる髪が、彼女の横顔を隠す。
「みんなの好きって、どうしてぶつかっちゃうんだろうね…」
その問いは、誰にも答えられないものだった。
たとえ同じ人を好きだとしても、その形が違えば、共感はすれ違いに変わる。
阿波座は何も言わなかった。
ただ、小さく頷いて、視線をスマホの画面から外した。
彼女の資料ノートの一ページに、手書きでこう記されていた。
「好きは、守るための言葉じゃなきゃいけない」
誰かが誰かを想って生まれた物語が、誰かを傷つけるものになってしまったとき。
そのとき、創作者は何を選ぶべきなのか。
阿波座はその答えを探すように、目の前の画面を見つめ直していた。
静かに、けれど確かに。
怒りという名の、正義を手にして。
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