転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

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通知の嵐と沈黙の自分

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夜の帳が降りるころ、悠翔は自室の机にうずくまるようにして座っていた。  
カーテンの隙間から差し込む外灯の光が、壁にぼんやりと影を落としている。  
天井の明かりは点けていなかった。静かに、小さな卓上ランプだけが机を照らしていた。

その机の上には、いつものノートが開かれていた。  
「黒星騎士団・尊死日誌」と題された、前世からの延長線にある、最も大切なノート。  
誰にも見せたことのない、自分だけの“想いの記録”だった。

そのすぐ横に、伏せられたスマホが一台。

時折、ぶっ…という振動音が静寂を破る。  
なにスタからの通知音。  
コメント、ブックマーク、リプライ、タグ付け。

もう、何件目になるのか分からない。  
画面を開かなくても、何が書かれているか、目を通さなくても、想像ができてしまう。

文化祭展示後に投稿した詩に対する反応は、爆発的だった。  
誰かが絵と詩の関連性を強調して拡散し、タグ「#きょゆう」は一晩で火がついた。

最初は、ただの共感だった。  
あの詩に救われた、と言ってくれる人もいた。  
けれどそのうち、展示のモデルが“誰なのか”を問う声が混じり始め、  
やがて、「これは実在の人物を模しているのではないか」という推測が噴き出した。

中には擁護の声もあった。  
「表現の自由」「創作と現実は違う」「愛ある作品だと思う」  
でも、同じ数だけ、いや、それ以上の声が、刃のように突き刺さってきた。

「本人を巻き込むなんて非常識」  
「勝手に人をモデルにして、恋愛妄想してるとか引く」  
「これ、風紀委員に相談すべきでは?」

悠翔は何度かスマホを手に取っては、そっと伏せ直していた。  
通知音を消しても、音のような気がして耳の奥に残る。  
まるで、自分がこの世界で“罪”を犯してしまったかのような錯覚に陥る。

「こんなはずじゃなかった」

口の中で言葉にしてみても、声にはならなかった。  
喉の奥が張りついて、言葉が外に出ることを拒んでいるようだった。

机の上に置いた右手の指先が、そっとノートの端に触れる。  
そこには、かつて自分が書き記した無数の言葉が並んでいる。

「今日も、レオ様の一言に救われた」  
「それでも前を向く、その背中が、俺の盾になる」  
「推しを想って、生き延びることができた」

それは、あくまで“自分だけの”感情だったはずだった。  
ページを捲るたびに、そのときの自分がそこに生きているようで、愛おしくて、守りたかった。

だけど今――  
そのノートに書かれた言葉が、誰かの“ネタ”にされている。  
誰かの“燃料”になっている。  
“物語”が、“証拠”のように扱われている。

「俺の創作が…“誰かの想像”に飲み込まれていく」

指先がノートの紙を強く押す。  
少しだけ、紙の端が歪んだ。

「“推し”は、誰のものでもないはずだったのに」

それは、前世で痛いほど自覚していたことだった。  
だから、自分はレオ様を“愛している”のではなく、“推している”のだと言い聞かせてきた。  
恋じゃない、憧れ。届かないからこそ、尊い。

そう思っていた。  
でも、今は違った。

京橋くんは、手を伸ばせば触れられる。  
声をかければ、笑って返してくれる。  
目が合えば、その視線に自分が映る。  
それは、レオ様とは違う“現実”の中の人だった。

だからこそ、この創作が、恋文のように読まれてしまうことが、怖かった。

誰にも読まれないつもりで書いた言葉が、誰かの想像の材料になっていく。  
それがどんなに無防備で、恐ろしいことか。  
誰かに勝手に“意味”を与えられることが、どれだけ恐怖か。

深く、深く、息を吸って、吐こうとした。  
けれど、それすらもうまくできなかった。  
胸がつかえて、吐き出すべきものが多すぎて、呼吸の仕方を忘れてしまったようだった。

ふと、ライトの明かりの中で、ノートの表紙に手を置いた。  
金のマスキングテープが少し擦れて、端が剥がれかけていた。

悠翔は静かに目を閉じた。  
深呼吸の代わりに、瞼の裏で、あの人の顔を思い出した。  
騎士のように凛とした姿。  
展示の絵に似ているのに、絵よりもずっと温かくて、目の前で笑ってくれた、彼の顔。

「もう、“創作”って、呼べるのかな…」

ぽつりと漏れた声が、静かな部屋に吸い込まれた。  
誰にも聞こえない言葉が、ようやく少しだけ、胸の中に余白をつくってくれたようだった。

ノートのページをそっと閉じる。  
それでも、心の中の言葉は、まだ書き終わってはいなかった。
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