転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

文字の大きさ
53 / 67

共有って、こんなに照れるんだ

しおりを挟む
並木道は、春の終わりを告げる風がやさしく吹いていた。  
図書館裏の小道は、夕方になると陽の光が葉の隙間を通って揺れ、足元にまだらな影を落とす。  
帰り道を選ぶには少しだけ遠回りなこの道を、京橋と悠翔は並んで歩いていた。

会話は、あまりなかった。  
どちらが口火を切ることもなく、けれど沈黙が苦ではない不思議な空気が流れていた。  
いつもなら、歩幅の違いを気にしてしまうのに、今日は自然と歩くテンポが揃っていた。

すぐ隣にいるのに、言葉が出てこなかった。  
京橋の存在を感じすぎて、言葉に意識が追いつかない。

悠翔は、何度も呼吸を整えようとした。  
深く吸って、浅く吐いて、それでも心臓の音はどうにも落ち着いてくれなかった。

道端の小さな花壇に目を向けてみても、視界の端にはずっと京橋がいた。  
無意識のうちに、彼の袖口や指の動きを見てしまう。  
それだけで、胸の内側がきゅうと締めつけられた。

「ねえ、手、つないでもいい?」

静かな声だった。  
ほんのひとこと、でも確かに耳の奥に届いて、悠翔の体の動きが止まった。

振り向くこともできず、ただ立ち尽くした。  
京橋は、さっきと変わらない調子で歩を進めながらも、横目でこちらを見ていた。

思考が真っ白になった。

手を、つなぐ?

それは、今まで自分が読んできた数々の物語や、愛読してきたSSの中では当たり前のように描かれていた行為だった。  
でも、それが自分の現実として目の前に差し出されると、急にすべてが未知の行為に思えてしまった。

悠翔は、目の前の光景が遠く感じられた。  
何か映画のワンシーンの中に取り残されたような気分だった。

「……うん、いい…かも」

蚊の鳴くような小さな声で、そう答えた。  
自分でも、言ったのかどうか曖昧になるほどの声量だった。

それでも京橋には届いていたようで、彼は優しく微笑んだ。  
けれど、手は差し出されなかった。

代わりに、ほんのわずかに歩幅が近づく。  
肩と肩が、触れない程度の距離で並んでいる。  
でも、それだけで十分だった。

それ以上、踏み込むことも、言葉を重ねることもなかった。

けれど、その静けさの中に、何か確かなものが存在していた。

二人の間を流れる空気が、どこか変わっている。  
音も色も、以前とは違うレイヤーで感じられた。

悠翔は、そっと自分の左手を見た。  
すぐ隣には、京橋の右手があった。  
その間に広がるわずかな距離。ほんの指一本ぶんくらいの、境界。

手をつなぐことはなかった。  
でも、その距離を“意識した”こと自体が、今までと違っていた。

胸の奥が、どくん、と跳ねる。

なぜこんなに緊張しているのか、自分でもわからなかった。  
ただ隣を歩いているだけなのに、手が触れていないのに、心が全力で反応している。

「……ねえ、悠翔」

京橋が、もう一度名前を呼んだ。  
声は落ち着いていたが、どこか照れているようにも聞こえた。

「なんか、今日の君、ちょっとかわいい」

その言葉に、悠翔は瞬間的に足を止めた。

心臓が、今度こそ破裂しそうだった。  
胸の中心で何かがはじけて、音もなく広がっていく。

照れ隠しのように、顔を手で覆った。  
目の前が少しだけ暗くなった。

どうしようもないくらい、顔が熱くなっていた。

「……やめてよ、そういうの……」

そう言いながら、言葉の端に笑いが滲んでしまった。

京橋はそれを見て、少しだけ目を細めた。

何も言わずに、また歩き始める。  
悠翔も、追いかけるように歩を進めた。

そのまま、無言のまま並木道を進んでいく。  
鳥のさえずりが遠くで聞こえた。  
葉が風に揺れ、夕暮れが少しずつ地面を染めていく。

モノローグが、悠翔の中で静かに立ち上がる。

この気持ちは、ただの“供給”じゃない。  
誰かと分かち合うことで、初めて“共有”になる。  
今までひとりで守ってきた感情が、そっと相手に触れていく。  
少し怖くて、でも同じくらいに嬉しい。

……ああ、恋って、こういうことなのかも。

そう思った瞬間、足元の影がふたつ、少しだけ重なった。  
まだ手はつないでいない。けれど、その一歩手前にいる実感が、何よりも鮮やかだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...