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好きって、まだ照れる
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夜の部屋には、小さなスタンドライトだけが灯っていた。
天井の明かりは消してある。
そのほうが、ノートに書かれた文字のひとつひとつが、静かに浮かび上がるような気がした。
悠翔は、自分の机に向かっていた。
ペンを持つ手は、ほんの少しだけ緊張していて、それでも確かに言葉を紡いでいた。
オタクノート。誰にも見せない、自分だけのための記録帳。
そこには、過去の自分が夢中になって書いた“推し”の名場面が並び、感情の爆発と考察と、時にはポエムさえも貼りつけてある。
ページを一枚めくるたび、かつての自分がそこにいた。
レオ様の騎士道精神に震え、悲恋の展開に泣き、尊死を叫んだ夜が蘇る。
推しに救われ、推しに生きる意味を見出していた日々。
でも、今日。今日だけは、何かが違った。
静かにページを閉じ、ノートの最後の見開きを開く。
そこには、まだ何も書かれていない空白が広がっていた。
ペンを構える。
指が自然に動き、新しいタイトルを書き始める。
共有される物語のはじまり
その言葉を見つめたとき、自分でも不思議な感覚に包まれた。
これまで、自分がノートに書いてきたのは、どこまでも“ひとりきり”の物語だった。
感情の行き場を見つけられず、ただ紙の上にぶつけて、救われようとしていた日々。
それが、今日、ふたりの名前を並べることで、違う形になろうとしている。
京橋蒼真
天満悠翔
ノートの左端に、自分の名前を書き、その右隣に彼の名前を添えた。
ただそれだけのことが、こんなにも照れくさくて、嬉しい。
言葉にならない感情が、指先から漏れ出してくるようだった。
文字を見つめながら、そっと口元が綻ぶ。
誰にも見せるわけではないのに、笑ってしまう。
少し、頬まで熱くなった。
静かな夜だった。
窓の外では、街灯の光がゆらゆらと揺れている。
遠くの道路を車が通る音が、低く聞こえるだけで、それ以外に音はなかった。
部屋の中にいるのは、自分と、書きかけの物語だけ。
“好き”という言葉が、こんなにも日常の中で不意打ちのように胸を打ってくるなんて思わなかった。
告白の瞬間よりも、もっと深く。
手をつなぐよりも、もっと確かに。
こうして、ノートに名前を書く行為のほうが、ずっと自分の心に刺さるのは、なぜだろう。
これまで、自分が“推し”を好きだった感情は、決して嘘ではなかった。
救いだったし、誇りだったし、物語を生きるための光だった。
けれど、今のこの気持ちは、それとは違う。
京橋くんを見ていると、物語の続きを読むというより、
一緒に新しい物語を作っている気がする。
ふたりで、ページをめくっている感覚。
未来のどこかを一緒に見ているような、そんな不思議な安堵感。
モノローグが、胸の中からじわじわと溢れてくる。
“両想い”って、たぶんもっとロマンチックなもんだと思ってた。
夜景を背景にしたキスとか、涙ながらの告白とか、
そういうドラマティックな演出の中で生まれるもんだって、どこかで思い込んでた。
でも今は、となりに誰かがいて、その人の笑顔が自分に向けられてるだけで、
もう十分、すごく、幸せなんだと思う。
文字にしてしまえば、きっと普通で、取り立てて特別ではないのかもしれない。
けれど、今この瞬間だけは、自分にとって何より大切な“現実”だった。
ノートの余白に、小さな星のマークを描き込む。
かつて“レオ様”を象徴するシンボルとして描いていた星とは違う。
この星は、どこか不格好で、ラフで、それでもちゃんと“今”の自分の手から生まれたものだった。
ページを閉じる前に、ふとまた、名前に目をやる。
京橋蒼真。天満悠翔。
並んだその文字が、少しだけ未来を照らしているような気がした。
スタンドライトのスイッチを切ると、部屋が闇に包まれる。
けれど、不思議と不安はなかった。
布団に入る直前、ベッドの上で再びモノローグが浮かぶ。
これからどうなるかなんて、まだ何もわからない。
でも、彼がそばにいて、ふたりで同じ景色を見ていけるのなら、
その続きはきっと、悪くない物語になる。
そう思いながら、悠翔はゆっくりと目を閉じた。
眠りに落ちる直前まで、胸の奥でささやくような幸福感が、消えることなく残っていた。
天井の明かりは消してある。
そのほうが、ノートに書かれた文字のひとつひとつが、静かに浮かび上がるような気がした。
悠翔は、自分の机に向かっていた。
ペンを持つ手は、ほんの少しだけ緊張していて、それでも確かに言葉を紡いでいた。
オタクノート。誰にも見せない、自分だけのための記録帳。
そこには、過去の自分が夢中になって書いた“推し”の名場面が並び、感情の爆発と考察と、時にはポエムさえも貼りつけてある。
ページを一枚めくるたび、かつての自分がそこにいた。
レオ様の騎士道精神に震え、悲恋の展開に泣き、尊死を叫んだ夜が蘇る。
推しに救われ、推しに生きる意味を見出していた日々。
でも、今日。今日だけは、何かが違った。
静かにページを閉じ、ノートの最後の見開きを開く。
そこには、まだ何も書かれていない空白が広がっていた。
ペンを構える。
指が自然に動き、新しいタイトルを書き始める。
共有される物語のはじまり
その言葉を見つめたとき、自分でも不思議な感覚に包まれた。
これまで、自分がノートに書いてきたのは、どこまでも“ひとりきり”の物語だった。
感情の行き場を見つけられず、ただ紙の上にぶつけて、救われようとしていた日々。
それが、今日、ふたりの名前を並べることで、違う形になろうとしている。
京橋蒼真
天満悠翔
ノートの左端に、自分の名前を書き、その右隣に彼の名前を添えた。
ただそれだけのことが、こんなにも照れくさくて、嬉しい。
言葉にならない感情が、指先から漏れ出してくるようだった。
文字を見つめながら、そっと口元が綻ぶ。
誰にも見せるわけではないのに、笑ってしまう。
少し、頬まで熱くなった。
静かな夜だった。
窓の外では、街灯の光がゆらゆらと揺れている。
遠くの道路を車が通る音が、低く聞こえるだけで、それ以外に音はなかった。
部屋の中にいるのは、自分と、書きかけの物語だけ。
“好き”という言葉が、こんなにも日常の中で不意打ちのように胸を打ってくるなんて思わなかった。
告白の瞬間よりも、もっと深く。
手をつなぐよりも、もっと確かに。
こうして、ノートに名前を書く行為のほうが、ずっと自分の心に刺さるのは、なぜだろう。
これまで、自分が“推し”を好きだった感情は、決して嘘ではなかった。
救いだったし、誇りだったし、物語を生きるための光だった。
けれど、今のこの気持ちは、それとは違う。
京橋くんを見ていると、物語の続きを読むというより、
一緒に新しい物語を作っている気がする。
ふたりで、ページをめくっている感覚。
未来のどこかを一緒に見ているような、そんな不思議な安堵感。
モノローグが、胸の中からじわじわと溢れてくる。
“両想い”って、たぶんもっとロマンチックなもんだと思ってた。
夜景を背景にしたキスとか、涙ながらの告白とか、
そういうドラマティックな演出の中で生まれるもんだって、どこかで思い込んでた。
でも今は、となりに誰かがいて、その人の笑顔が自分に向けられてるだけで、
もう十分、すごく、幸せなんだと思う。
文字にしてしまえば、きっと普通で、取り立てて特別ではないのかもしれない。
けれど、今この瞬間だけは、自分にとって何より大切な“現実”だった。
ノートの余白に、小さな星のマークを描き込む。
かつて“レオ様”を象徴するシンボルとして描いていた星とは違う。
この星は、どこか不格好で、ラフで、それでもちゃんと“今”の自分の手から生まれたものだった。
ページを閉じる前に、ふとまた、名前に目をやる。
京橋蒼真。天満悠翔。
並んだその文字が、少しだけ未来を照らしているような気がした。
スタンドライトのスイッチを切ると、部屋が闇に包まれる。
けれど、不思議と不安はなかった。
布団に入る直前、ベッドの上で再びモノローグが浮かぶ。
これからどうなるかなんて、まだ何もわからない。
でも、彼がそばにいて、ふたりで同じ景色を見ていけるのなら、
その続きはきっと、悪くない物語になる。
そう思いながら、悠翔はゆっくりと目を閉じた。
眠りに落ちる直前まで、胸の奥でささやくような幸福感が、消えることなく残っていた。
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