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最初のミーティングは、すれ違いだらけ
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カフェ併設のフリースペースは、午後の光がまだ温かく差し込んでいた。
大きな観葉植物と、木製のテーブル、奥にはカウンターと小さなスピーカーから流れるジャズ。
ここは、会社の中で唯一、梅田が“気を抜いて喋れる場所”だった。
新プロジェクトの初回打ち合わせ。
本格的な企画はこれからだが、まずはアイディアの方向性だけざっくり決めておく。
そう考えて、梅田はスケッチブックとペンを持ってここに来た。
相手は天王寺。気乗りしない相棒だったが、仕事はできると聞いている。
席に着いた天王寺は、注文したアイスコーヒーのグラスに指先を添えたまま、まだ一言も喋っていなかった。
「とりあえずさー」
梅田はにこやかに口を開く。
「方向性だけ軽く決めてしまお。ざっくりでええからさ」
天王寺は視線を落としたまま、軽く頷いた。
「“大阪のおばちゃんにウケる”って方向、どう思う? なんかこう、健康と笑いと人情がセットみたいな感じで」
思いつくままに喋りながら、梅田はスケッチブックに落書きのような図を描いた。
マスコットキャラクター、飴ちゃん、商店街、バスツアー。
「楽しそうやろ? どうせやるなら、“やってみたい”って思える企画のほうがええし。
あとは、近所の銭湯とか巻き込んでも面白いんちゃうかな。あ、うちの地元の商店街とかも協力してくれそうやし」
まくし立てるように言ってから、向かいを見る。
天王寺は、ノートを開いていた。
顔は伏せたまま、ボールペンの先で静かに何かを記している。
「……数字と実態調査を先に出したほうが、効率的かと」
低く、音のない声だった。
梅田はその一言を、少しだけ拍子抜けしたように聞いた。
その場の空気が、ピンと張ったように静かになる。
「……いや、まあ。確かにそうやけどさ」
少し笑いを含めながら言い直す。
「でも、なんかもうちょい“会話”しよ? これって“打ち合わせ”やろ?」
天王寺は、一瞬だけ筆記を止めた。
ゆっくりと顔を上げる。
その目が、真っ直ぐ梅田を見た。
黒縁の眼鏡の奥、静かに光を湛えた双眸。
まつ毛が長く、くっきりとした目元。
無表情なのに、その眼差しだけが不思議と強く、透明で、
……何も言わなくても、まるで「見抜かれている」ような気がした。
梅田は、軽口を続けようとした口を、思わず閉じた。
何か、冷たいものが喉を伝ったような感覚。
視線の中に熱があった。だがそれは、情ではなく、判断のようなものだった。
(……なんか、ちょっとだけゾクっとした)
「……あー。うん、まあ……そうやな」
視線をそらして、梅田は軽く頭を掻いた。
「先に市場調査か、そやな。ごもっともですわ」
天王寺は、もう一度目を伏せた。
何かを測っていたわけでも、責めたわけでもなかったはずだ。
だが、梅田は自分の喋っていた“アイディア”が、子供の落書きのように感じられて、
思わず息をついた。
アイスコーヒーの氷が、カラン、と音を立てる。
それ以外に音のない時間が、妙に長く続いた。
梅田は、胸の奥にうっすらとした違和感を残しながら、
それでも笑顔を崩さず、スケッチブックのページを閉じた。
そして、改めて天王寺に向かって言った。
「まあ、頼りにしてるし。
なんやかんや言うても、俺だけじゃこの案件は無理やしな。よろしくな」
天王寺はそれにも反応を返さなかった。
ただ、また静かにペンを走らせていた。
その沈黙の中に、「拒絶」ではなく「無関心」でもない、
何か深く蓋をされた意志のようなものが見えた気がした。
梅田はそれ以上踏み込まないまま、グラスに口をつけた。
甘くないアイスコーヒーが、妙に冷たく感じられた。
大きな観葉植物と、木製のテーブル、奥にはカウンターと小さなスピーカーから流れるジャズ。
ここは、会社の中で唯一、梅田が“気を抜いて喋れる場所”だった。
新プロジェクトの初回打ち合わせ。
本格的な企画はこれからだが、まずはアイディアの方向性だけざっくり決めておく。
そう考えて、梅田はスケッチブックとペンを持ってここに来た。
相手は天王寺。気乗りしない相棒だったが、仕事はできると聞いている。
席に着いた天王寺は、注文したアイスコーヒーのグラスに指先を添えたまま、まだ一言も喋っていなかった。
「とりあえずさー」
梅田はにこやかに口を開く。
「方向性だけ軽く決めてしまお。ざっくりでええからさ」
天王寺は視線を落としたまま、軽く頷いた。
「“大阪のおばちゃんにウケる”って方向、どう思う? なんかこう、健康と笑いと人情がセットみたいな感じで」
思いつくままに喋りながら、梅田はスケッチブックに落書きのような図を描いた。
マスコットキャラクター、飴ちゃん、商店街、バスツアー。
「楽しそうやろ? どうせやるなら、“やってみたい”って思える企画のほうがええし。
あとは、近所の銭湯とか巻き込んでも面白いんちゃうかな。あ、うちの地元の商店街とかも協力してくれそうやし」
まくし立てるように言ってから、向かいを見る。
天王寺は、ノートを開いていた。
顔は伏せたまま、ボールペンの先で静かに何かを記している。
「……数字と実態調査を先に出したほうが、効率的かと」
低く、音のない声だった。
梅田はその一言を、少しだけ拍子抜けしたように聞いた。
その場の空気が、ピンと張ったように静かになる。
「……いや、まあ。確かにそうやけどさ」
少し笑いを含めながら言い直す。
「でも、なんかもうちょい“会話”しよ? これって“打ち合わせ”やろ?」
天王寺は、一瞬だけ筆記を止めた。
ゆっくりと顔を上げる。
その目が、真っ直ぐ梅田を見た。
黒縁の眼鏡の奥、静かに光を湛えた双眸。
まつ毛が長く、くっきりとした目元。
無表情なのに、その眼差しだけが不思議と強く、透明で、
……何も言わなくても、まるで「見抜かれている」ような気がした。
梅田は、軽口を続けようとした口を、思わず閉じた。
何か、冷たいものが喉を伝ったような感覚。
視線の中に熱があった。だがそれは、情ではなく、判断のようなものだった。
(……なんか、ちょっとだけゾクっとした)
「……あー。うん、まあ……そうやな」
視線をそらして、梅田は軽く頭を掻いた。
「先に市場調査か、そやな。ごもっともですわ」
天王寺は、もう一度目を伏せた。
何かを測っていたわけでも、責めたわけでもなかったはずだ。
だが、梅田は自分の喋っていた“アイディア”が、子供の落書きのように感じられて、
思わず息をついた。
アイスコーヒーの氷が、カラン、と音を立てる。
それ以外に音のない時間が、妙に長く続いた。
梅田は、胸の奥にうっすらとした違和感を残しながら、
それでも笑顔を崩さず、スケッチブックのページを閉じた。
そして、改めて天王寺に向かって言った。
「まあ、頼りにしてるし。
なんやかんや言うても、俺だけじゃこの案件は無理やしな。よろしくな」
天王寺はそれにも反応を返さなかった。
ただ、また静かにペンを走らせていた。
その沈黙の中に、「拒絶」ではなく「無関心」でもない、
何か深く蓋をされた意志のようなものが見えた気がした。
梅田はそれ以上踏み込まないまま、グラスに口をつけた。
甘くないアイスコーヒーが、妙に冷たく感じられた。
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