地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始

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“あいつ”と組むのは、マジで最悪

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会議室には朝から妙な熱気があった。

上司が「今日は人事の発表がある」と言った瞬間、空気がそわそわと波立ち、皆が口を閉じた。  
部長席の前には白いホワイトボード、そして手元に配られた資料の束。

関西エリア健康支援サービス。  
新規事業部との合同案件。大阪発でスタートするキャンペーンだという。  
社内でも注目度は高く、「ここで結果を出せば出世コース」という噂もある。

梅田は、正直言って楽しみにしていた。  
こういう大型案件は、自分みたいな“顔が利くやつ”が動いた方がうまく回る。  
話術とフットワークで乗り切って、先方の心を掴めば、あとは勢いでいける。  
数字はどうとでもなる。  
…まあ、今までは、そうやってやってきた。

「今回のプロジェクト、営業部からは三組体制で行く。  
第一チームは梅田と…天王寺」

一瞬、間が空いた。

「あれ?」「天王寺って…いたっけ?」

誰かの囁きが、笑い声まではいかずとも、確かな温度で広がっていく。

梅田は隣の同僚に小声で聞いた。

「天王寺って誰やっけ?」

「えーと…あの、窓際の…地味な眼鏡の人。経理から異動してきた人ちゃう?」

「ああー…あの子か」

資料に目を落とす。確かに、そこに「天王寺 悠」という名前がある。  
見た覚えのある、地味な社員の顔が思い浮かんだ。  
色のないスーツに、感情のない顔。会話した記憶も、笑った顔も、まるでない。

…まあ、でも。

「仕事はできるっぽいし、ええか。どうせ裏で数字まとめてもらえるなら、助かる」

梅田はそう思いながら、口元だけで笑った。

「了解です。よろしく頼みますわ」

軽く右手を挙げてそう言うと、部長が満足そうに頷いた。

ふと、対角線の席に座っていた男と目が合った。

黒縁の眼鏡越しの視線は、何も感情を含んでいないように見えた。  
でも、たしかに見られていた。  
まるで、梅田の言葉の“底”を、ゆっくりとなぞるような目だった。

(あれ、意外と…嫌そうな顔してる?)

いや、違う。表情は無。だけど、ほんの一瞬だけ、その瞳がわずかに濁ったように見えた。  
ガラスの水面に落ちた、小さな埃のような揺らぎ。

梅田は少しだけ、背中に薄い違和感を覚えた。

(まあ…気のせいやな)

それでも、なんとなく。  
このプロジェクトが、いつもとちょっと違う色を帯びていくような、  
そんな気がした。

天王寺は、梅田の方をもう見ていなかった。  
手元の資料に視線を落とし、メモを取る音だけがかすかに聞こえていた。

そこには、あいかわらず何の感情もなくて、  
ただ、必要最低限だけを記録する、静かな存在感があった。

梅田は、その背中をしばらく見つめてから、ようやく視線を前に戻した。

(なんやろな…ちょっと、やりづらそうやな)  

けど。  
このときの梅田は、まだ知らなかった。  
“やりづらい”の正体が、  
これから自分の感情をどれだけぐちゃぐちゃにしていくかなんて、  
ほんの一ミリも、分かっていなかった。
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