地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始

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かわされる温度

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会社から歩いて五分ほどの場所にある、小さなカフェ。  
打ち合わせの帰り道、自然な流れでふたりは立ち寄った。

ガラス張りの入口から差し込む夕暮れの光。  
店内はまだ空いていて、奥の二人がけのテーブルに通された。

「まあ、ちょっと休憩していこや。帰ってすぐ資料まとめるのも、しんどいしな」

そう言って、梅田はカウンターでアイスコーヒーを注文した。  
天王寺はアイスラテを選び、無言でそれを受け取る。

テーブルに向かい合って座り、それぞれにカップを手に取った。  
窓の外では、街の色が少しずつオレンジから藍色に変わっていく。

気まずい沈黙ではない。  
だが、言葉が自然に生まれるような空気でもなかった。

梅田は、自分のコーヒーにストローを刺しながら、ふと思いついて口を開いた。

「なあ、天王寺」

天王寺は顔を上げず、カップを手の中で回している。

「休みの日って、何してんの? めっちゃインドアっぽいけど」

軽い調子だった。  
冗談半分、興味半分。  
少しでも、天王寺のことを知りたいと思った。

天王寺は一度だけ手を止め、それからグラスの縁に指先を滑らせる。  
無意識の仕草なのか、わざとなのか、それは分からない。

細く白い指が、無防備なほど無表情に、グラスのふちをなぞっていく。  
すべらせ、止め、またすべらせる。

その動きに、なぜか目が離せなかった。

「寝てます。  
余計なことを考えなくてすむので」

ぽつりと返された声は、冷たくはなかった。  
けれど、どこか遠い響きを持っていた。

梅田は一瞬、言葉を失った。  
その指の動き、その低い声、その無表情。

全部が、妙に色気を帯びていた。

不意に、胸の奥がざらりと揺れる。  
抑えきれないものが、舌の上に乗る。

だから、冗談に逃げた。

「ほな、俺が余計なこと、考えさせたろか」

明るい調子で笑いながら言った。  
いつものノリだ。  
誰にでも通じる、軽い誘い文句。

だが、天王寺はすぐには返さなかった。

手元のグラスを見つめたまま、ふっと目を伏せる。

そして、ごくかすかに、唇の端を持ち上げた。

笑った、ように見えた。

でも、その笑みには、温度がなかった。  
からかうでもなく、受け入れるでもなく。  
まるで、梅田の投げた言葉を、そのまま試すかのように。

(なんやこれ……ほんまに笑ってるんか? 俺を弄んでんのか?)

胸の奥に、奇妙な焦燥が広がった。  
わずかに汗ばんだ手で、コップを握り直す。

いつもなら、こういう場面で相手がどう反応するか、分かっていた。  
照れたり、笑ったり、あるいは恥ずかしそうに怒ったり。  
それが恋愛の駆け引きだと思っていた。

でも天王寺は、何も答えなかった。

ただ、グラスを置き、椅子を引いた。

静かな仕草で立ち上がる。  
コートの裾が、かすかに椅子に触れて揺れた。

「すみません、先に戻ります」

低い声だけがテーブルに置かれて、  
彼は何も振り返らずにカフェを出ていった。

梅田は、残されたコーヒーを見つめた。

わずかに水滴をまとったグラスの向こう、  
夕暮れの光がぼんやりと滲んでいた。

喉が渇いているはずなのに、飲む気になれなかった。

(……あかん。  
これ、完全にペース、狂わされてる)

胸の奥に、じわじわと火が灯る。

悔しさでも、怒りでもない。  
もっと得体の知れないもの。

目の前に現れた不可解な存在に、  
無意識に、心が惹き寄せられていく。

そんな感覚だけが、はっきりと残った。
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