「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦

中岡 始

文字の大きさ
11 / 36

生徒会の壁が薄くなってきた

しおりを挟む
午後の生徒会室には、淡い光と静かな気配が漂っていた。

放課後を少し過ぎた時間、机の上には次回の会議用の資料がずらりと並び、生徒会メンバーたちが思い思いの作業に取りかかっていた。パソコンのキーボードを打つ音、紙をめくる音、ファイルを開く音――そのどれもが、日常の一部として染みついた静けさを構成している。

凪は、机の端で資料の束を確認していた。指先でページをめくりながら、抜けのないよう目を通す。斜め向かいの席では、結翔が同じく黙々と進捗チェックの作業をしていた。

ふたりの間に会話はない。けれど、その無言が不自然に感じられることはなかった。生徒会の仕事において、静かで効率的な作業はよくあることで、無言だからといって距離があるとは限らない。

…はずだった。

けれどその日のふたりには、いつもの静けさとは違う、わずかな“熱”のようなものがあった。

凪が結翔に資料を一部差し出す。結翔は目を離さず、受け取ると、内容を確認して一言だけ言う。

「ここの段落、重複してるかもしれない。こっちと被ってる」

「了解。あとで修正する」

それだけの会話。必要最小限のやりとり。

にもかかわらず、そこには妙な緊張感が漂っていた。

言葉こそ少ないが、互いの息遣いやタイミングに、やけに敏感な気配がある。

微妙な間。

指先の動き。

資料を渡すときの手の伸ばし方。

そのひとつひとつが、どこか計算されているように見えるのは、気のせいだろうか。

少し離れた席で、谷町が手を止めて、ちらりとふたりのやりとりを見た。

「……あのふたり、去年より距離が近くなってない?」

ぽつりと呟いた声に、隣で電卓を叩いていた堺筋が顔を上げた。

「でも、話す内容はすごく他人行儀ですよね。句読点まできっちりしてる感じというか…」

「なのに距離感が近いんだよね。不思議」

谷町の言葉に、今度は長堀がぼそりと付け加える。

「目線、追ってるよ。どっちも。無意識に」

堺筋と谷町がそろって視線を向けた先で、確かに凪が何気なく顔を上げ、結翔のほうを見た。すぐに目を逸らし、資料に視線を戻す。

その直後、結翔も顔を上げて、凪が見ていた空間を一拍遅れて追う。

言葉にはならない動き。けれど、その視線の残像は、部屋に静かな波紋を投げていた。

「これ、絶対なにかあるよな…」

谷町のつぶやきに、堺筋も静かに頷いた。

「でも本人たちは気づいてない感じ。逆に怖いくらい自然体で」

長堀は肘をつきながら、「ていうか、気づいてない“ふり”をしてるんじゃない?」と呟いた。

その会話を、すぐそばで聞いていた御堂筋とまゆは、まるで合図でも交わしたかのように無言で目を合わせ、ゆっくりとガッツポーズを交わした。

口には出さない。

けれど、明らかに「来た」という確信がそこにあった。

まゆは机の下でスマホを握りしめ、小声で御堂筋に囁く。

「やっと、みんなにも見え始めたね…この尊き空気…」

「データだけでは補えない直感的な観察。重要なフェーズです。関係性が“見えるようになる”とは、つまり周囲が感情の存在を認識し始めたということ」

「それってつまり…?」

「この恋はもう、閉じた関係ではいられない、ということです」

御堂筋はタブレットの画面をスリープモードに戻しながら、どこか遠くを見るような視線で呟いた。

生徒会という空間は、仕事をする場所でありながら、いつしか“感情の箱庭”になりつつあった。

表面上は変わらない。

交わされる言葉も、提出される資料も、仕事の手順も、すべてが正確で、機能的。

けれど、その下に流れているものは、確実に変わり始めていた。

空気の密度。視線の間合い。無言のタイミング。

どれも、ひとつひとつはごく些細な変化にすぎない。けれど、それが積み重なることで、ふたりの関係性は“見えるように”なっていく。

そして、その“見える”ということこそが、恋が現実になっていく過程のひとつなのだと、誰かが気づきはじめたとき――

物語は、ひとつ加速する。

沈黙のなかで進んでいた感情の交差は、静かに、けれど確かに、周囲の視界に入ってきた。

凪と結翔。

その関係が、ただの“仕事上の信頼”では収まりきらなくなる日が、すぐそこまで近づいていることを。

生徒会の空気が変わり始めたことに、彼ら自身だけがまだ気づいていない。  

だからこそ、その背中を見ている者たちにとっては、これ以上ない供給の瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不幸の手紙に“男に告白される”って書いてあったんだが?

すもも
BL
磯城亮輔のもとに、毎日「不幸の手紙」が届く。 書かれた内容はなぜか必ず当たるが、だいたいが地味に嫌なだけの不幸。 亮輔はすっかり慣れきっていた。 しかしある日、こう書かれていた。 「男に告白されるだろう」 いや、ちょっと待て。 その翌日から手紙は呪詛じみていき、命の危機すら感じ始める。 犯人を探し始めた亮輔だが、周囲は頼りにならず——。 これは、少し性格に難ありな主人公が、不幸と告白に振り回される青春BL。 他のサイトにも掲載していますが、こちらは修正したものとなっています。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったら引くほど執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

処理中です...