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ログを洗えば、恋の痕跡は残る
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昼休み、生徒会室の隅にある窓際の長机で、心斎橋まゆは昼食もそっちのけで身を乗り出していた。
机の向かいには、御堂筋理々が静かにタブレットを操作している。指先の動きは無駄がなく、画面のスクロールは正確で滑らかだった。画面には、あるふたりのSNS投稿が、時系列でずらりと並んでいる。
神城凪と一ノ瀬結翔。
彼らが投稿した文章と写真の一覧、そして投稿時間、その並びの美しさに、まゆは胸を押さえた。
「これ見て…もう、並べただけで供給過多なんだけど…」
画面には、凪の投稿「言葉を交わさなくても、空気に名前をつけたくなる瞬間がある」が19時12分。続いて翌朝、結翔の「黙っていても伝わるなんて、思い上がりかもしれないけど」が6時31分に投稿されていた。
「この間隔。告白では…?いや、匂わせじゃなくて、これはもう…私信じゃん…」
御堂筋は淡々と画面を操作しながら答える。
「過去二週間分の投稿を抜粋してみました。投稿時間の差が五分以内のもの、八件。うち五件が内容に呼応関係あり。比率は六割以上」
「すごい…こんなの、もう偶然の範囲じゃない…」
「また、言語パターンにも共通性が見られます。凪の投稿は抽象語多め、形容詞比率高。結翔の投稿は否定語と推量語が多用される傾向」
「それって…つまり?」
「どちらも“本音を曖昧に隠す”言い回しで構成されており、心理的な“言いかけ”と“思いとどまり”の表現が共通しています。感情表現のスタイルとして、極めて似通っています」
「うわ、それって…もう、文体で惹かれ合ってるじゃん…言語の相性が良すぎるカップル…」
まゆは机に突っ伏しかけた。けれど次の瞬間、画面の中に映る二つの写真に目を留めて息を飲む。
ひとつは凪が投稿した、生徒会室の窓から見た夕暮れの写真。もうひとつは、結翔の投稿に添えられた、同じ窓を逆方向から撮ったような構図の写真。
「ねえ、これ…絶対合わせて撮ってるよね?片方が窓の内側で、片方が外側意識してる構図って、意図的じゃないとこうならない」
御堂筋が静かに頷いた。
「構図の“対”は偶然では説明がつきません。さらに、投稿時間の間に第三者からのリプライや引用なし。つまりふたりの間でだけ完結したやりとりです」
「やばい…もう、情報戦というより、視線と空気で恋してるってレベル…」
まゆはスマホを握りしめたまま、目の前の事実をまだ飲み込めずにいた。
御堂筋は冷静な口調を崩さないまま、分析を続ける。
「視線と言語、写真と投稿時間。これらすべてが意図的に交錯している。つまり、恋の痕跡はデータの中に残ります。これは統計です。感情の可視化に過ぎません」
「言い方がロマンチックじゃなさすぎるけど…でも、正しい。まじで正しい…!」
ふたりの間に広がるのは、誰にも気づかれずに進行している“恋のストーリー”。けれど、それは数値にも、写真にも、言葉にも現れていた。
見れば見るほど、意図と偶然の境目が曖昧になる。だが、それがむしろ本物の関係性の証だと、まゆは確信していた。
凪と結翔、ふたりは何も語らない。けれど、その沈黙のなかに、感情が確かに存在している。
それは投稿の“間”に現れる。言葉の“選び方”に現れる。写真の“切り取り方”に現れる。
まゆは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、呟いた。
「この並び、見てるだけで供給が胃にくるんだけど…」
御堂筋は眼鏡の奥の瞳を細めて、タブレットの画面を閉じる。
「けれど、まだ確定ではありません。投稿は無言のやりとり。そこに明確な言葉が介入するまでは、感情は“曖昧なまま”に保たれます」
「つまり、まだ尊くなる余地があるってこと…?」
「その通りです。物語は、まだ途中です」
昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り始める。
ふたりは机の上の資料を片付けながら、それぞれの思いを胸にしまう。
凪と結翔の間に交わされるのは、言葉ではなく、空気と間と視線の交差。それを拾い上げ、分析することに、まゆと御堂筋は意味を見出していた。
これは、ただの観察ではない。
ふたりの関係が、やがて言葉になるその瞬間を見届けるための“記録”だった。
それが、特定班の誇りだった。
机の向かいには、御堂筋理々が静かにタブレットを操作している。指先の動きは無駄がなく、画面のスクロールは正確で滑らかだった。画面には、あるふたりのSNS投稿が、時系列でずらりと並んでいる。
神城凪と一ノ瀬結翔。
彼らが投稿した文章と写真の一覧、そして投稿時間、その並びの美しさに、まゆは胸を押さえた。
「これ見て…もう、並べただけで供給過多なんだけど…」
画面には、凪の投稿「言葉を交わさなくても、空気に名前をつけたくなる瞬間がある」が19時12分。続いて翌朝、結翔の「黙っていても伝わるなんて、思い上がりかもしれないけど」が6時31分に投稿されていた。
「この間隔。告白では…?いや、匂わせじゃなくて、これはもう…私信じゃん…」
御堂筋は淡々と画面を操作しながら答える。
「過去二週間分の投稿を抜粋してみました。投稿時間の差が五分以内のもの、八件。うち五件が内容に呼応関係あり。比率は六割以上」
「すごい…こんなの、もう偶然の範囲じゃない…」
「また、言語パターンにも共通性が見られます。凪の投稿は抽象語多め、形容詞比率高。結翔の投稿は否定語と推量語が多用される傾向」
「それって…つまり?」
「どちらも“本音を曖昧に隠す”言い回しで構成されており、心理的な“言いかけ”と“思いとどまり”の表現が共通しています。感情表現のスタイルとして、極めて似通っています」
「うわ、それって…もう、文体で惹かれ合ってるじゃん…言語の相性が良すぎるカップル…」
まゆは机に突っ伏しかけた。けれど次の瞬間、画面の中に映る二つの写真に目を留めて息を飲む。
ひとつは凪が投稿した、生徒会室の窓から見た夕暮れの写真。もうひとつは、結翔の投稿に添えられた、同じ窓を逆方向から撮ったような構図の写真。
「ねえ、これ…絶対合わせて撮ってるよね?片方が窓の内側で、片方が外側意識してる構図って、意図的じゃないとこうならない」
御堂筋が静かに頷いた。
「構図の“対”は偶然では説明がつきません。さらに、投稿時間の間に第三者からのリプライや引用なし。つまりふたりの間でだけ完結したやりとりです」
「やばい…もう、情報戦というより、視線と空気で恋してるってレベル…」
まゆはスマホを握りしめたまま、目の前の事実をまだ飲み込めずにいた。
御堂筋は冷静な口調を崩さないまま、分析を続ける。
「視線と言語、写真と投稿時間。これらすべてが意図的に交錯している。つまり、恋の痕跡はデータの中に残ります。これは統計です。感情の可視化に過ぎません」
「言い方がロマンチックじゃなさすぎるけど…でも、正しい。まじで正しい…!」
ふたりの間に広がるのは、誰にも気づかれずに進行している“恋のストーリー”。けれど、それは数値にも、写真にも、言葉にも現れていた。
見れば見るほど、意図と偶然の境目が曖昧になる。だが、それがむしろ本物の関係性の証だと、まゆは確信していた。
凪と結翔、ふたりは何も語らない。けれど、その沈黙のなかに、感情が確かに存在している。
それは投稿の“間”に現れる。言葉の“選び方”に現れる。写真の“切り取り方”に現れる。
まゆは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、呟いた。
「この並び、見てるだけで供給が胃にくるんだけど…」
御堂筋は眼鏡の奥の瞳を細めて、タブレットの画面を閉じる。
「けれど、まだ確定ではありません。投稿は無言のやりとり。そこに明確な言葉が介入するまでは、感情は“曖昧なまま”に保たれます」
「つまり、まだ尊くなる余地があるってこと…?」
「その通りです。物語は、まだ途中です」
昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り始める。
ふたりは机の上の資料を片付けながら、それぞれの思いを胸にしまう。
凪と結翔の間に交わされるのは、言葉ではなく、空気と間と視線の交差。それを拾い上げ、分析することに、まゆと御堂筋は意味を見出していた。
これは、ただの観察ではない。
ふたりの関係が、やがて言葉になるその瞬間を見届けるための“記録”だった。
それが、特定班の誇りだった。
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