「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦

中岡 始

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好きって言ったら、終わる気がして

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春の風が、屋上の空気をやさしくかき混ぜていた。  
昼休みの終わりが近づき、校舎の下からは授業に戻る準備を始めた生徒たちのざわめきが微かに届く。けれどここ、屋上の時間はまだ静かだった。  

ベンチに並んで座るふたりの間に、沈黙が落ちたまま、長い数分が経っていた。

神城凪は、手のひらに残った空気のぬるさを感じながら、やがて立ち上がった。  
制服の裾が風に揺れ、ほんのわずかに、隣に座る一ノ瀬結翔の肩をかすめていく。

凪はベンチを離れ、数歩歩いて柵の前に立った。  
そこから見える景色は、午前中に眺めたときよりも少し明るく、けれどどこか遠く感じた。白い校舎の屋根と、街路樹の新緑。そしてその上には、青く晴れた空が広がっている。

手すりに指をかけて、凪はつぶやいた。

「……もし俺が『好き』って言ったら」

言葉が空に吸い込まれていく。  
振り返らずに、凪は続けた。

「その瞬間、終わる気がするんだ」

結翔はすぐには何も言わなかった。  
ただその場で、しばらく静かに凪の背中を見ていた。  
凪は気づいていた。視線の熱も、迷いも、そこにあったことを。

結翔はやがてゆっくりと立ち上がった。  
一歩、そしてまた一歩、凪の隣へと近づく。

何も言わず、柵のそばに並び立つ。

風がまた吹いた。制服の袖と袖がふわりと揺れて、かすかに重なった。  
触れてはいない。でも、空気のなかで繋がった何かが、確かにそこにあった。

結翔が視線を遠くの空へ投げたまま、低く言った。

「……同じだな」

ただそれだけの言葉。  
けれど、その響きには、すべてが詰まっていた。

凪は横目で結翔を見る。結翔もまた、わずかに顔を向けて、凪の視線を受け止める。

まるで言葉を使わない会話が、視線だけで交わされたような瞬間だった。

凪は小さく笑った。  
ふっと、肩の力を抜くように。

結翔も同じように、目元を緩めて笑った。

どちらの笑顔にも、照れも、強がりも混じっていた。  
でも、それは本気だった。  
わざと軽く見せているのに、気持ちは重く沈んでいるのが伝わる。

それでもふたりは、笑っていた。

真面目に向き合うには、まだこわい。  
正面から“好きだ”と告げるには、関係が近すぎる。

だから、あえてふざける。  
だから、あえて“ゲーム”にしてしまう。

勝ち負けの話をしていれば、まだ恋じゃないふりができる。

凪は目を細め、やわらかい陽射しの中に言葉を浮かべた。

「……じゃあ、言わなきゃいいんだよね」

結翔はそれに応えるように、口角を上げて言った。

「言ったら、負けだ」

凪は小さく笑う。

「ほんと、バカみたい」

「でも、負けたくないんだろ?」

「……そうだね」

風が、ふたりの言葉をなぞるように吹いた。

その瞬間、ふたりのあいだに“暗黙のルール”が成立した。  
どちらが先に気持ちを口にするか。  
どちらが先に、心の内側をさらけ出してしまうか。

それを“勝ち負け”と呼ぶことで、曖昧にできる。  
甘さも、照れも、弱さも、ぜんぶ隠せる。

言わないという選択が、ふたりの繋がりを保っている。

そうやってバランスを取らなければ、  
あまりにも、心が近づきすぎてしまうから。

ベンチに戻るでもなく、教室へ戻るでもなく、ふたりはしばらくのあいだ、柵のそばに並んで立ち尽くしていた。

それぞれの視線は前を向いているのに、意識はとなりにあった。

午後のチャイムが遠くで鳴り響いた。

ふたりは同時に、少しだけ顔を上げた。

そのタイミングさえも、ぴたりと重なる。

結翔が先に歩き出す。凪が少し遅れて、その背を追う。

「……ねえ、結翔」

背中に向けて、凪がそっと呼びかける。

結翔は歩みを緩めた。振り返らない。

「やっぱり、俺は負けたくない」

「知ってるよ」

それだけ言って、結翔はふたたび歩き出す。

凪は唇をかすかに噛んで、彼の背を追いかけた。

その歩幅の間に、もうすでにたくさんの言葉がこぼれ落ちていた。

けれどそれらは、どれも拾われることはない。

なぜなら今は、ふたりにとって――  
言わないことが、唯一の答えだから。

そしてそれが、戦いのはじまりだった。  

「好きって言ったら負け」  

そのルールの下、ふたりの恋は静かに火蓋を切った。
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