「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦

中岡 始

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勝ち負けの話しか、してこなかったね

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生徒会室の窓から差し込む光が、静かに夕色に染まりつつあった。  
壁に立てかけられたホワイトボードの端に、橙色の光が淡く滲み、ふたりの影が伸びている。  
机の上に散らばる文化祭の企画書たちも、その光を帯びて柔らかな輪郭を得ていた。

凪は、手元のペンを動かしていた。  
企画書の隅に赤ペンで加筆をし、校正を繰り返す。  
けれど、文字のかたちには迷いがあった。  
ペン先が一度止まり、また進み、わずかに紙を擦ってにじむ音が部屋に広がる。

それが、ふと止まる。

ペンを置く音はとても小さかったのに、生徒会室全体がその音に反応したようだった。  
一瞬、すべての音が吸い込まれた気がした。

凪は視線を下げたまま、机の一点を見つめている。  
まつげの影が頬に長く落ち、その陰影が彼の表情をより静かに見せていた。

「……ねえ」  
凪が低く、押し殺したような声でつぶやいた。  
静かな空気を乱さぬように、でも、確かに誰かに届いてほしい声だった。

「ずっと、勝ち負けの話ばかりしてきたけど」  

その言葉は、あまりにも素直で、あまりにも遠回りだった。

長い間、言葉はふたりのあいだで“武器”だった。  
先に照れたら負け、赤くなったら負け。  
SNSの投稿で、どれだけ相手を揺さぶれるか。  
あらゆる言葉が、恋ではなくゲームの駆け引きにされてきた。

その前提を、初めて凪自身が破った。

結翔は、すぐには応えなかった。  
その瞬間、夕日が少しだけ傾き、彼の髪に淡い光が差す。  
その横顔が、どこか少年のように見えた。

机の上に置かれたペンの先を見つめたまま、彼は短く息を吸う。  
その呼吸には、確かな重みがあった。  
息を吸って、吐く。  
それだけの動作に、いくつもの想いが詰まっていた。

やがて、静かに言葉が落ちた。

「俺、もう負けてるって思ってた。とっくの昔から」

それは、敗北宣言でも、謝罪でもなかった。  
ただの“事実”としての告白。  
感情の重さをそっと、凪に渡すように差し出した言葉だった。

凪はその言葉を、すぐには受け取らなかった。  
真正面を見ることもせず、視線は机の縁を彷徨っていた。

けれど、その表情が微かに動いた。

真顔を保とうとしているのに、唇の端が、ほんのわずかに揺れた。  
その震えは一瞬で消えたけれど、それがすべてだった。  
まばたきが一度、長くなる。  
その間にまつげの影が揺れ、視線がふわりと空中を漂う。

その揺れを、結翔は逃さなかった。

彼はもう資料を見ていなかった。  
凪の横顔に、まっすぐ目を向けていた。  
いつもなら、視線が合いそうになると逸らしていた。  
けれど今は、ただ見ていた。  
目を逸らすことが、いちばん失礼なことだと、やっと気づいたように。

その目には、何の勝ち負けもなかった。  
駆け引きも、戦略も、言葉の選びもなかった。  
ただ、ひとりの人間として、凪という存在を、真正面から見つめていた。

眉間に寄っていたしわが、すっとほどける。  
結翔の顔から、いつもの緊張感が抜け落ちた。  
それは“鎧を脱いだ”ような表情だった。  
どこか脆く、それでいて、あまりにも素直な目だった。

凪の顔に、はっきりとした感情は現れなかった。  
それでも、空気は明らかに変わった。

机の上にはまだ資料が積まれている。  
ペンもメモも、やりかけの仕事も残っている。  
けれど、ふたりはそれに手を伸ばさなかった。

ふたりのあいだにあったのは、ようやく交わされた“本音の欠片”だった。  
それは小さな一言だったけれど、それまでの百の匂わせや策略を、すべて押し流すほどの力を持っていた。

沈黙が、ふたりを包む。  
だが、その沈黙はもう、怖くなかった。

言葉が、もう武器ではなくなっていた。  
目を逸らさずに向き合える、それだけのことで、空気が少しだけやわらいだ。

夕暮れの光がさらに傾き、ふたりの影が机の上で交わる。  
まるでそれが、はじめて“同じ線上”に立てた証のように。
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