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第一章 二人の旅路
一線
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「おかえり、アルフ」
「ただいま。…体は?」
荷物を水差しの乗っているテーブルに置いてアルフレッドがベッドに腰掛ける。多少言いづらそうに目線を彷徨わせてから紡がれる言葉は小さくて口角が緩んだ。
「起き上がれる程度には。でも出歩いたりは無理かな」
昨夜のことを思い出しているのかそうだろうな、と言わんばかりに気怠げな雰囲気でベッドに座るラファエルを無言で見つめていた。その視線に見過ぎだと目線を隠すようにアルフレッドの顔へと片手を翳すも、その手はアルフレッドに取られて少しだけ指を絡めるようにして握られ、ベッドに下ろされた。
どうしたのだろうかと視線を向けると気遣わしげな目がこちらを見ていてラファエルは瞬いた。どうしたの?そう問いかけるよりも早くアルフレッドの口が開く。
「何かあったか?」
「え、なんで?何にもないよ」
心当たりがないというように首を傾げて見せると手を繋いでいない方のアルフレッドの大きな手がラファエルの頬を撫でた。
「…そうか」
ラファエルは成り代わりのことを誰にも教えてはいなかった。どう伝えれば良いのかもわからなかった。何度も「生まれ変わっただけだよ」と濁して来たけれど、それ以上を伝える気なんてありはしないのだ。
けれどそれを悩まない訳ではない。今でも自分はこの世界で異質で、あってはならない存在ではないのかという漠然とした不安が襲って来る。その不安が時折こうして顔にまで現れる。そうなってしまうとこの目敏い男を騙すなんてことは不可能で、でも本当を伝えることも出来なくて、ラファエルは今日もはぐらかす。
今だって何か言いたげな顔をしているアルフレッドにそれ以上言葉を紡がせないように顔を寄せて唇を合わせ、発せられようとした言葉を吐息ごと飲み込んだ。アルフレッドもラファエルがこれ以上は踏み込ませないとわかっているからか頬に添えていた手を腰に回し、そのまま抱き寄せられる。
戯れのように何度も唇の表面だけを触れ合わせて、それ以上のキスはしない。
微かなリップ音と一緒に唇が離れて、どちらともなく鼻先を擦り合わせそのまま額を合わせた。近過ぎて互いの表情はわからないが、先に動いたのはアルフレッドだった。
柔らかな息を吐き出すように笑い「飯にするか」と距離が少し離れた。
「サンドイッチと肉と、あとは人気らしい甘いもんも買ってきた。どれなら食えそうだ?」
「風邪とかじゃないからなんでも食べられるよ。とりあえずサンドイッチからで良いかな」
わかった、と身体に回っていた腕が離されてテーブルに置いた紙袋からサンドイッチを取り出したアルフレッドがそのままそれをラファエルの口元に運んで来てもなんの違和感も感じずに口を開いて一口齧り付いた。
アルフレッドはよくラファエルを甘やかす。本人にそんな自覚は無いらしいが、これが甘やかしといわずなんというのだろうか。一口食べ終わるとサンドイッチが口元に差し出されまた一口食べる。喉が乾けば口移しで水を飲まされるし、いつの間にか体勢はベッドで胡座をかくアルフレッドの上に横抱きにされていたし、デザートだって食べさせて貰った。
この調子で行くと風呂はまた二人で入るようになるし。今日はもうこの部屋から一歩も出ないことになるだろうが、ラファエルはそれで良かった。
ダメだダメだとわかっていても、やはりどうしたってこのぬるま湯が心地良い。
アルフレッドはラファエルの心に踏み込むようなことはしない。ラファエルもアルフレッドの心の内を聴こうとは思わなかった。互いに言葉にはしなくとも、それでも互いが特別だと思い合えているこの状態が心地よかった。
日の傾きから後数時間もすれば空はオレンジ色に染まるような時間。開いた窓から爽やかな風が入り込んでレースを揺らす。繊細な刺繍の影が部屋に伸びる中、二人はベッドで絡み合っていた。
宿を取ったのはこんなにも爛れた時間を過ごす為ではないと胸を張っていえるが一度火が付いてしまえばあとはその熱に誘われるままに肌を合わせるだけだった。窓が開いていること、入り口に繋がる廊下に時折人の気配がすること、この二つの要因が二人の熱をより蜜にしていく。アルフレッドの大きな手がラファエルの口を強く押さえて、二人の間にあるのは乱れた呼吸だけ。
ラファエルは自分を見下ろす赤い目が好きだった。獰猛な肉食獣を思わせる鋭い目が自分だけを捉えている、そのことに仄暗い愉悦を覚えるくらいにアルフレッドの自分を見る目が好きだった。
「ただいま。…体は?」
荷物を水差しの乗っているテーブルに置いてアルフレッドがベッドに腰掛ける。多少言いづらそうに目線を彷徨わせてから紡がれる言葉は小さくて口角が緩んだ。
「起き上がれる程度には。でも出歩いたりは無理かな」
昨夜のことを思い出しているのかそうだろうな、と言わんばかりに気怠げな雰囲気でベッドに座るラファエルを無言で見つめていた。その視線に見過ぎだと目線を隠すようにアルフレッドの顔へと片手を翳すも、その手はアルフレッドに取られて少しだけ指を絡めるようにして握られ、ベッドに下ろされた。
どうしたのだろうかと視線を向けると気遣わしげな目がこちらを見ていてラファエルは瞬いた。どうしたの?そう問いかけるよりも早くアルフレッドの口が開く。
「何かあったか?」
「え、なんで?何にもないよ」
心当たりがないというように首を傾げて見せると手を繋いでいない方のアルフレッドの大きな手がラファエルの頬を撫でた。
「…そうか」
ラファエルは成り代わりのことを誰にも教えてはいなかった。どう伝えれば良いのかもわからなかった。何度も「生まれ変わっただけだよ」と濁して来たけれど、それ以上を伝える気なんてありはしないのだ。
けれどそれを悩まない訳ではない。今でも自分はこの世界で異質で、あってはならない存在ではないのかという漠然とした不安が襲って来る。その不安が時折こうして顔にまで現れる。そうなってしまうとこの目敏い男を騙すなんてことは不可能で、でも本当を伝えることも出来なくて、ラファエルは今日もはぐらかす。
今だって何か言いたげな顔をしているアルフレッドにそれ以上言葉を紡がせないように顔を寄せて唇を合わせ、発せられようとした言葉を吐息ごと飲み込んだ。アルフレッドもラファエルがこれ以上は踏み込ませないとわかっているからか頬に添えていた手を腰に回し、そのまま抱き寄せられる。
戯れのように何度も唇の表面だけを触れ合わせて、それ以上のキスはしない。
微かなリップ音と一緒に唇が離れて、どちらともなく鼻先を擦り合わせそのまま額を合わせた。近過ぎて互いの表情はわからないが、先に動いたのはアルフレッドだった。
柔らかな息を吐き出すように笑い「飯にするか」と距離が少し離れた。
「サンドイッチと肉と、あとは人気らしい甘いもんも買ってきた。どれなら食えそうだ?」
「風邪とかじゃないからなんでも食べられるよ。とりあえずサンドイッチからで良いかな」
わかった、と身体に回っていた腕が離されてテーブルに置いた紙袋からサンドイッチを取り出したアルフレッドがそのままそれをラファエルの口元に運んで来てもなんの違和感も感じずに口を開いて一口齧り付いた。
アルフレッドはよくラファエルを甘やかす。本人にそんな自覚は無いらしいが、これが甘やかしといわずなんというのだろうか。一口食べ終わるとサンドイッチが口元に差し出されまた一口食べる。喉が乾けば口移しで水を飲まされるし、いつの間にか体勢はベッドで胡座をかくアルフレッドの上に横抱きにされていたし、デザートだって食べさせて貰った。
この調子で行くと風呂はまた二人で入るようになるし。今日はもうこの部屋から一歩も出ないことになるだろうが、ラファエルはそれで良かった。
ダメだダメだとわかっていても、やはりどうしたってこのぬるま湯が心地良い。
アルフレッドはラファエルの心に踏み込むようなことはしない。ラファエルもアルフレッドの心の内を聴こうとは思わなかった。互いに言葉にはしなくとも、それでも互いが特別だと思い合えているこの状態が心地よかった。
日の傾きから後数時間もすれば空はオレンジ色に染まるような時間。開いた窓から爽やかな風が入り込んでレースを揺らす。繊細な刺繍の影が部屋に伸びる中、二人はベッドで絡み合っていた。
宿を取ったのはこんなにも爛れた時間を過ごす為ではないと胸を張っていえるが一度火が付いてしまえばあとはその熱に誘われるままに肌を合わせるだけだった。窓が開いていること、入り口に繋がる廊下に時折人の気配がすること、この二つの要因が二人の熱をより蜜にしていく。アルフレッドの大きな手がラファエルの口を強く押さえて、二人の間にあるのは乱れた呼吸だけ。
ラファエルは自分を見下ろす赤い目が好きだった。獰猛な肉食獣を思わせる鋭い目が自分だけを捉えている、そのことに仄暗い愉悦を覚えるくらいにアルフレッドの自分を見る目が好きだった。
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