【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第一章 北の国の美味しいもの編

思い出のお店

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「いらっしゃいませー!」

 二重になっている入り口から店内へと続くドアを開けると軽い鈴の音と一緒に元気の良い少女の声がした。明るく花が咲いたような声だ。暖色系のエプロンドレスに頭には白色の三角巾をした声の主人がドアの方を向いて、声のままの笑顔を咲かせた。

「三名さまですね! 奥のお席へどうぞー!」

 大抵の人物はリヴィウスの体躯と顔を見て一瞬は思考を停止させるのに、その少女は全くそんな素振りも見せず、むしろ慣れた様子で奥のテーブル席へと案内をしてくれる。ほとんど毎回と言っていいほどそんな体験をしているリヴィウスだからか、少女の様子に「ほう」とどこか感心したように呟いた。

「メニューはこちらになります。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください!」

 ぺこりと頭を下げて戻っていった少女の背中を見てからステラはメニューに視線を落とした。すると既に真剣な顔のリヴィウスとてぷが文字を追っていて、その様子がおかしくて、ふっと息を小さく漏らした。

「中の具材を選べるみたいですね。私は魚のにしますけど、二人はどうしますか?」
「肉」
「はい、じゃあそれで。スープとサラダもつけましょうね」
『ええ~』
「駄目ですよてぷ様。野菜も食べないと大きくなれません」
「これ以上こいつをふと、!」

 雪国用のブーツの硬いつま先でリヴィウスの脛を軽く蹴ると思いの外痛かったのか、眉間にグッと皺を寄せて背を丸めた。恨めしそうにステラを睨んでいるが、ステラは勤めて冷静に首を横に振る。そのまま視線を横にずらすと、そこにはじとーっとした半目でリヴィウスを見ているてぷがいて、再度リヴィウスを見たステラはもう一度首を横に振った。

「今のはリヴィが悪いです」
「……ぐぅ」
『お前ガクシュウしろよな』
「てぷ様も煽らない。そもそも野菜を嫌がるから駄目なんです」
『はい…』

 どこかしゅんと項垂れた二人をそのまま放置して店内に目をやると先程の少女がこちらに気が付いて早足にやって来る。

「お決まりですか?」
「はい。この朝食セットで、二つは肉で、一つは魚でお願いします。あと」

 メニューを指差しながらセットの内容も伝え終えると少女は笑顔で頷き厨房へと小走りに向かっていった。それからすぐに大きな声でオーダーが通ると厨房にいる男性スタッフの返事も聞こえた。その賑やかさが消えないうちにドアの鈴が鳴り、来客があると少女がはきはきとした様子で対応する。その姿を見てステラは安堵したように目を細めた。

 そうして改めて店内を眺める。マホガニー素材を多く使用した内装は自然の暖かみがあり、人で賑わうこの店にはぴったりだ。他にも所々に置かれている雑貨も趣味が良く、また掃除も行き届いていて店自体が大事にされているのだとわかる。
 店の奥にある大きな暖炉には薪が焼べられていて時折ぱちりと爆ぜる音が聞こえるが、そのほとんどは賑やかな店内の声に掻き消されている。良い店だなと思いつつ、暖炉の上部にある装飾台に目を向けると、そこに見たことのある物を見つけて少しだけ目を丸くする。

 もとは剣だったのだろうが、それが半ばで真っ二つに折れた物が飾られてあった。柄の部分も随分と使い込まれたように黒ずんでいて、刃こぼれも目立つそれはとても装飾台に置くような代物ではないが、店内にある何よりも一番大切に飾られているような気がした。

「…捨てても良いって言ったのに」
「どうした」
「…あ、声に出てましたか?」

 リヴィウスの声に視線を戻すとこちらに目を向けている二人がいた。リヴィウスは相変わらずの無表情だが、てぷはこてんと可愛らしく首を傾げている。

「…此処は知っている店なのか?」

 その問いにステラは曖昧に笑って二人にテーブルの中央に来るように手招きをする。

「このお店に来たのは初めてです。ただ、この街とあの剣は知っています。旅の思い出の一つですね」
『思い出?』
「……魔王討伐の旅に出ていた時ですね。この街はかつて上位魔族によって支配されていたんですよ」
「……ブルートか」

 リヴィウスの口から出た自分たちが倒した魔族の名前に頷く。
 テーブルの真ん中に三人が顔を寄せて小声で話す姿はなんとも異様だが、内容が内容だけに仕方がない。
 ステラがまだ聖女として旅を始めたばかりの頃、勇者一行は小さな村を経由しながら、ここグラソン大陸の首都ネジュノに到着した。ここに到着するまでの間道中のモンスターが凶暴化していたり、近隣の村から「最近ネジュノからの行商人が来ない」なんて噂を聞いていたりと嫌な予感はしていたが、実際に到着して一行は驚愕した。
 首都のはずなのに街に活気は無く、人の往来もない。どの店も扉も窓も閉め切ってまるで幽霊の街の様だった。
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