【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

文字の大きさ
25 / 105
第二章 西の国の花の祭り編

手を繋ぐ必要性

しおりを挟む
 北のグラソン大陸、その港町ノルポルから船に乗って出発した三人は現在船の上にいた。船を出て一日目は雪が降っていたが、海路を進むにつれて雪は止みそれに比例して温度も上がっていく。だから目を覚ました第一声はリヴィウスとてぷの「暑い」だった。
 気温自体はそれ程高くはないのだが、昨日までの痛い程の寒さを知っているからこそしっかりと暖かい格好をして眠ったのが裏目に出たのだ。ちなみにステラはやんわりと止めた。
 そうして気温や船旅にも慣れ始めた三日目、ようやく目的地に到着する。

『ステラ! あそこか?』

 今日も今日とて子供の姿になったてぷが甲板の柵を握りながら近づいて来た港を指差す。

「はい、あそこですよ。私も初めていく場所なのでちょっとドキドキしています」

 三人が乗っているのは大きな帆船だ。客船というだけあって目的地が近付いた今甲板には三人以外にもたくさんの人が顔を出し、てぷと同じようにはしゃいでいる姿も見えた。まだ遠くはあるが緑や赤といった鮮やかな色使いの建物が見えて、その時点でネジュノとは全く違う印象を覚える。

「リヴィ、もう少しで着きますよ」
「見ればわかる。…それよりも」

 ステラの隣に立つリヴィウスもその様子を見ていたが、その視線が下がる。どうしたのだろうかとその先を追えば、繋がれた二人の手。これがどうかしたのだろうかと思いながらもう一度リヴィウスを見上げれば、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「船でも手を繋ぐ必要はあるのか」
「……」

 ステラとてぷは生暖かい目をしてリヴィウスを見た。潮風が三人の髪や服をたなびかせる。

「…必要ありますね」
『うん』
「……迷う余地がないだろう、ここは」
「それはそうですが、それでも手を繋ぐ意味はあるんです」
『そうだぞリヴィ。ちゃんとステラと手を繋いどくんだ』
「……なんなんだ…」

 リヴィウスは呆れたように息を吐いて海へと視線を戻した。ステラとてぷは横目で視線を交わし、そして同じようなタイミングで甲板に目線を向ける。すると一人の女性と目が合った。上流階級らしい洗練されたデザインのドレスを着ている。女性らしい曲線を引き立たせるデザインだが袖はふんわりと柔らかく、履いているブーツから風で飛ばないようにと押さえている帽子まで何もかもが一級品だ。

 そんな女性と目が合ったのだが、その人はすぐに逸らした。ちなみにあと数人こういうことが起こる。そしてステラから逸らした視線はそのまま隣へと移るのだ。つまり、リヴィウスへと。
 そう、ステラが船であってもリヴィウスから手が離せない理由がコレである。

(忘れていました。……リヴィはとても見目が良いということを…)

 月の光を集めたかのような白銀の髪に、宝石を嵌め込んだかのような赤い瞳。顔のパーツはもちろん肉体に至るまで神が造ったと言っても納得してしまえる程の美貌の持ち主がリヴィウスだ。
 ステラはもちろん理解していた。理解していたのだが、その外見情報よりもリヴィウスがすぐに迷子になるというとんでもない個性に頭が一杯になっていてつい最近まで忘れていたのだ。

 それを思い出させてくれたのが同じ客船に乗る女性たちだった。この船での食事は基本的にビュッフェスタイルだ。朝昼晩とそれなりの時間を使って開かれる食事の時間に乗船したその日に三人で向かった時、やけに視線が集まるのがわかった。その視線の先にいたのはリヴィウスで、そしてステラはこの視線の意味を知っていた。
 そう、あれはかつての魔王討伐の旅での出来事だ。上位の魔族をいくつか倒したあと、感謝祭だといって開かれた大きな祭り。そこで勇者一行の男性陣は街の女性からこんな目を向けられていた。「あれは気があるって目線よ」と教えてくれたのはエルフの弓使いの女性だった。
 つまりリヴィウスは俗にいうモテる、というものだったのだ。

 リヴィウスが普通の人間であったならこんな手を繋ぐなんてことはしなかった。けれどもリヴィウスは元魔王で、人間初心者なのだ。
 少しでも好奇心が煽られればそちらに行ってしまうし、美味しいものをちらつかせたらついて行ってしまうだろう。リヴィウスは強い。魔法でも肉体の部分でも強い。きっとこの船の全員が襲いかかったとしても傷一つ付けられない程度には強い。

 だがしかし強すぎるがあまりに警戒心がまるでないのだ。何かトラブルがあったなら力でどうにかすればいいだろうという、あまりにも直線的な思考なのだ。
 だからステラはリヴィウスの手を握るのだ。リヴィウスの安全はもちろん、女性たちが被害に遭わないためにステラはこうする他ないのである。

「……眼鏡でも掛けてみますか?」

 思考の海から帰ってきたステラはリヴィウスを見上げながら問いかけた。

「なんだいきなり」
「そうすれば少しは減るかなぁと」
「?」
『ダメだよステラ』

 てぷの小さな手がステラの背中をぽん、と叩いた。

『多分もっと酷くなるぞ』
「……ですかね」
「?」

 ステラとてぷは諦めたように笑い、リヴィウスはわからないといったふうに眉を寄せている。
 リヴィウスは良くも悪くも己の、というか生物全般に対して外見への興味が無い。ステラとてぷはさすがに判別出来ているがそれ以外は興味が湧かない限り全て同じに見えるらしい。だからリヴィウスには今もちらちらと秋波を送ってくる女性が軒並みじゃがいもかそこらへんの農作物に見えているのだろう。
 ステラは小さく息を吐いた。
 やはりこの人は自分が守らねば。ステラは改めてそう誓ったのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる

水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。 「君のすべては、俺が管理する」 戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。 これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~

夕凪ゆな
BL
「来週の木曜日、少しだけ僕に時間をくれないか」  学園の太陽と慕われるセオドリックは、副会長レイモンドに告げた。  というのも、来たる木曜日はレイモンドの誕生日。セオドリックは、密かに、彼を祝うサプライズを画策していたのだ。  しかし、レイモンドはあっさりと断る。 「……木曜は、予定がある」  レイモンドをどうしても祝いたいセオドリックと、独りで過ごしたいレイモンド。  果たして、セオドリックのサプライズは成功するのか――? 【オムニバス形式の作品です】 ※小説家になろう、エブリスタでも連載中 ※全28話完結済み

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

処理中です...