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第二章 西の国の花の祭り編
手を繋ぐ必要性
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北のグラソン大陸、その港町ノルポルから船に乗って出発した三人は現在船の上にいた。船を出て一日目は雪が降っていたが、海路を進むにつれて雪は止みそれに比例して温度も上がっていく。だから目を覚ました第一声はリヴィウスとてぷの「暑い」だった。
気温自体はそれ程高くはないのだが、昨日までの痛い程の寒さを知っているからこそしっかりと暖かい格好をして眠ったのが裏目に出たのだ。ちなみにステラはやんわりと止めた。
そうして気温や船旅にも慣れ始めた三日目、ようやく目的地に到着する。
『ステラ! あそこか?』
今日も今日とて子供の姿になったてぷが甲板の柵を握りながら近づいて来た港を指差す。
「はい、あそこですよ。私も初めていく場所なのでちょっとドキドキしています」
三人が乗っているのは大きな帆船だ。客船というだけあって目的地が近付いた今甲板には三人以外にもたくさんの人が顔を出し、てぷと同じようにはしゃいでいる姿も見えた。まだ遠くはあるが緑や赤といった鮮やかな色使いの建物が見えて、その時点でネジュノとは全く違う印象を覚える。
「リヴィ、もう少しで着きますよ」
「見ればわかる。…それよりも」
ステラの隣に立つリヴィウスもその様子を見ていたが、その視線が下がる。どうしたのだろうかとその先を追えば、繋がれた二人の手。これがどうかしたのだろうかと思いながらもう一度リヴィウスを見上げれば、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「船でも手を繋ぐ必要はあるのか」
「……」
ステラとてぷは生暖かい目をしてリヴィウスを見た。潮風が三人の髪や服をたなびかせる。
「…必要ありますね」
『うん』
「……迷う余地がないだろう、ここは」
「それはそうですが、それでも手を繋ぐ意味はあるんです」
『そうだぞリヴィ。ちゃんとステラと手を繋いどくんだ』
「……なんなんだ…」
リヴィウスは呆れたように息を吐いて海へと視線を戻した。ステラとてぷは横目で視線を交わし、そして同じようなタイミングで甲板に目線を向ける。すると一人の女性と目が合った。上流階級らしい洗練されたデザインのドレスを着ている。女性らしい曲線を引き立たせるデザインだが袖はふんわりと柔らかく、履いているブーツから風で飛ばないようにと押さえている帽子まで何もかもが一級品だ。
そんな女性と目が合ったのだが、その人はすぐに逸らした。ちなみにあと数人こういうことが起こる。そしてステラから逸らした視線はそのまま隣へと移るのだ。つまり、リヴィウスへと。
そう、ステラが船であってもリヴィウスから手が離せない理由がコレである。
(忘れていました。……リヴィはとても見目が良いということを…)
月の光を集めたかのような白銀の髪に、宝石を嵌め込んだかのような赤い瞳。顔のパーツはもちろん肉体に至るまで神が造ったと言っても納得してしまえる程の美貌の持ち主がリヴィウスだ。
ステラはもちろん理解していた。理解していたのだが、その外見情報よりもリヴィウスがすぐに迷子になるというとんでもない個性に頭が一杯になっていてつい最近まで忘れていたのだ。
それを思い出させてくれたのが同じ客船に乗る女性たちだった。この船での食事は基本的にビュッフェスタイルだ。朝昼晩とそれなりの時間を使って開かれる食事の時間に乗船したその日に三人で向かった時、やけに視線が集まるのがわかった。その視線の先にいたのはリヴィウスで、そしてステラはこの視線の意味を知っていた。
そう、あれはかつての魔王討伐の旅での出来事だ。上位の魔族をいくつか倒したあと、感謝祭だといって開かれた大きな祭り。そこで勇者一行の男性陣は街の女性からこんな目を向けられていた。「あれは気があるって目線よ」と教えてくれたのはエルフの弓使いの女性だった。
つまりリヴィウスは俗にいうモテる、というものだったのだ。
リヴィウスが普通の人間であったならこんな手を繋ぐなんてことはしなかった。けれどもリヴィウスは元魔王で、人間初心者なのだ。
少しでも好奇心が煽られればそちらに行ってしまうし、美味しいものをちらつかせたらついて行ってしまうだろう。リヴィウスは強い。魔法でも肉体の部分でも強い。きっとこの船の全員が襲いかかったとしても傷一つ付けられない程度には強い。
だがしかし強すぎるがあまりに警戒心がまるでないのだ。何かトラブルがあったなら力でどうにかすればいいだろうという、あまりにも直線的な思考なのだ。
だからステラはリヴィウスの手を握るのだ。リヴィウスの安全はもちろん、女性たちが被害に遭わないためにステラはこうする他ないのである。
「……眼鏡でも掛けてみますか?」
思考の海から帰ってきたステラはリヴィウスを見上げながら問いかけた。
「なんだいきなり」
「そうすれば少しは減るかなぁと」
「?」
『ダメだよステラ』
てぷの小さな手がステラの背中をぽん、と叩いた。
『多分もっと酷くなるぞ』
「……ですかね」
「?」
ステラとてぷは諦めたように笑い、リヴィウスはわからないといったふうに眉を寄せている。
リヴィウスは良くも悪くも己の、というか生物全般に対して外見への興味が無い。ステラとてぷはさすがに判別出来ているがそれ以外は興味が湧かない限り全て同じに見えるらしい。だからリヴィウスには今もちらちらと秋波を送ってくる女性が軒並みじゃがいもかそこらへんの農作物に見えているのだろう。
ステラは小さく息を吐いた。
やはりこの人は自分が守らねば。ステラは改めてそう誓ったのだった。
気温自体はそれ程高くはないのだが、昨日までの痛い程の寒さを知っているからこそしっかりと暖かい格好をして眠ったのが裏目に出たのだ。ちなみにステラはやんわりと止めた。
そうして気温や船旅にも慣れ始めた三日目、ようやく目的地に到着する。
『ステラ! あそこか?』
今日も今日とて子供の姿になったてぷが甲板の柵を握りながら近づいて来た港を指差す。
「はい、あそこですよ。私も初めていく場所なのでちょっとドキドキしています」
三人が乗っているのは大きな帆船だ。客船というだけあって目的地が近付いた今甲板には三人以外にもたくさんの人が顔を出し、てぷと同じようにはしゃいでいる姿も見えた。まだ遠くはあるが緑や赤といった鮮やかな色使いの建物が見えて、その時点でネジュノとは全く違う印象を覚える。
「リヴィ、もう少しで着きますよ」
「見ればわかる。…それよりも」
ステラの隣に立つリヴィウスもその様子を見ていたが、その視線が下がる。どうしたのだろうかとその先を追えば、繋がれた二人の手。これがどうかしたのだろうかと思いながらもう一度リヴィウスを見上げれば、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「船でも手を繋ぐ必要はあるのか」
「……」
ステラとてぷは生暖かい目をしてリヴィウスを見た。潮風が三人の髪や服をたなびかせる。
「…必要ありますね」
『うん』
「……迷う余地がないだろう、ここは」
「それはそうですが、それでも手を繋ぐ意味はあるんです」
『そうだぞリヴィ。ちゃんとステラと手を繋いどくんだ』
「……なんなんだ…」
リヴィウスは呆れたように息を吐いて海へと視線を戻した。ステラとてぷは横目で視線を交わし、そして同じようなタイミングで甲板に目線を向ける。すると一人の女性と目が合った。上流階級らしい洗練されたデザインのドレスを着ている。女性らしい曲線を引き立たせるデザインだが袖はふんわりと柔らかく、履いているブーツから風で飛ばないようにと押さえている帽子まで何もかもが一級品だ。
そんな女性と目が合ったのだが、その人はすぐに逸らした。ちなみにあと数人こういうことが起こる。そしてステラから逸らした視線はそのまま隣へと移るのだ。つまり、リヴィウスへと。
そう、ステラが船であってもリヴィウスから手が離せない理由がコレである。
(忘れていました。……リヴィはとても見目が良いということを…)
月の光を集めたかのような白銀の髪に、宝石を嵌め込んだかのような赤い瞳。顔のパーツはもちろん肉体に至るまで神が造ったと言っても納得してしまえる程の美貌の持ち主がリヴィウスだ。
ステラはもちろん理解していた。理解していたのだが、その外見情報よりもリヴィウスがすぐに迷子になるというとんでもない個性に頭が一杯になっていてつい最近まで忘れていたのだ。
それを思い出させてくれたのが同じ客船に乗る女性たちだった。この船での食事は基本的にビュッフェスタイルだ。朝昼晩とそれなりの時間を使って開かれる食事の時間に乗船したその日に三人で向かった時、やけに視線が集まるのがわかった。その視線の先にいたのはリヴィウスで、そしてステラはこの視線の意味を知っていた。
そう、あれはかつての魔王討伐の旅での出来事だ。上位の魔族をいくつか倒したあと、感謝祭だといって開かれた大きな祭り。そこで勇者一行の男性陣は街の女性からこんな目を向けられていた。「あれは気があるって目線よ」と教えてくれたのはエルフの弓使いの女性だった。
つまりリヴィウスは俗にいうモテる、というものだったのだ。
リヴィウスが普通の人間であったならこんな手を繋ぐなんてことはしなかった。けれどもリヴィウスは元魔王で、人間初心者なのだ。
少しでも好奇心が煽られればそちらに行ってしまうし、美味しいものをちらつかせたらついて行ってしまうだろう。リヴィウスは強い。魔法でも肉体の部分でも強い。きっとこの船の全員が襲いかかったとしても傷一つ付けられない程度には強い。
だがしかし強すぎるがあまりに警戒心がまるでないのだ。何かトラブルがあったなら力でどうにかすればいいだろうという、あまりにも直線的な思考なのだ。
だからステラはリヴィウスの手を握るのだ。リヴィウスの安全はもちろん、女性たちが被害に遭わないためにステラはこうする他ないのである。
「……眼鏡でも掛けてみますか?」
思考の海から帰ってきたステラはリヴィウスを見上げながら問いかけた。
「なんだいきなり」
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「?」
『ダメだよステラ』
てぷの小さな手がステラの背中をぽん、と叩いた。
『多分もっと酷くなるぞ』
「……ですかね」
「?」
ステラとてぷは諦めたように笑い、リヴィウスはわからないといったふうに眉を寄せている。
リヴィウスは良くも悪くも己の、というか生物全般に対して外見への興味が無い。ステラとてぷはさすがに判別出来ているがそれ以外は興味が湧かない限り全て同じに見えるらしい。だからリヴィウスには今もちらちらと秋波を送ってくる女性が軒並みじゃがいもかそこらへんの農作物に見えているのだろう。
ステラは小さく息を吐いた。
やはりこの人は自分が守らねば。ステラは改めてそう誓ったのだった。
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