【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第一章 北の国の美味しいもの編

さらば北の国

「リヴィ」

 二人に近付きながら声を掛けるとそれまで必死にてぷの腕から逃れようとしていたリヴィウスの動きが止まる。それから何事もなかったかのような顔で振り向くからステラは笑い、てぷは『はぁ⁉︎」とご立腹だった。

『なんでステラだと名前呼んだだけで止まるんだよ! ボクだと引き摺っていくのにさぁ!』
「お前は多少雑に扱っても大丈夫だろう」
『うぎー!』

 てぷが地団駄を踏んだ。悔しそうにリヴィウスを睨んでいるのを見てステラは口許に笑みを称えながら側に行くとしゃがんで腕を広げて見せた。『!』それに目を輝かせたてぷは一も二もなくステラの胸に飛び込み、首に腕を回した。

「リヴィを見ていてくれてありがとうございます、てぷ様」
『どういたしまして!』

 てぷは人間の状態でも体重は割と自由自在だ。だからステラが抱き上げる素振りを見せればそれに合わせて体を軽くしてくれる。その厚意に甘えててぷを抱き上げるとふわりと甘いミルクの香りと高い体温が触れて頬が緩む。

「てぷ様はいい匂いですね」
『ステラもだぞ! それに肌もすべすべだ』

 柔らかくもちもちとしたてぷの頬がステラの頬に触れ、間近で太陽のような輝く笑顔を見てしまったステラは内心可愛さに悶えていた。ステラはてぷに滅法弱いのだ。多分てぷが少しでもしょぼんとしながら『あれ欲しい』と言えばステラは迷わず買ってしまう程度にはてぷに甘い。

『どうしたんだ? 難しい顔してるぞ』
「噛み締めているのです。幸せを…」

 思えば旅に出て数年。こんなにも何かを愛でるなんてことは出来なかった。そんな余裕もなければ、聖女だったステラにはこんなふうに何かを愛でることは相応しくなかったはずだ。勇者たちとの旅は決して苦しいばかりではなかったし、実りも学びも多かったが気楽かと問われたら絶対にそんなことはなかった。
 常に緊張していたなと当時を思い出し、そして少し懐かしくなって思わずてぷを抱き締める力を強めたら突如腕の中から温もりが消えた。

「?」
『なにするんだよリヴィー!』
「黙れ。近い」
『はああああ?』

 首根っこを掴まれたてぷがぷらーんと足を揺らしながらリヴィウスを睨む。そんな視線をものともせずに掴んでいた手をぱっと話すとてぷは地面に危なげなく着地した。

「…前から思っていたんだが。お前はこいつに甘過ぎるぞ」
『え、お前それ真面目に言ってるのか?』

 てぷの目が驚愕に見開かれた。だがしかしステラは神妙な面持ちで、リヴィウスの言葉を重く受け止めていた。

『嘘でしょステラ。絶対に違うぞ! ステラが甘やかしてるのはリヴィだぞ!』
「そんなわけないだろう。この間お前が飲んだ蜂蜜のやつだが、こいつは俺が言っても新しくは買って来なかった。だがお前には買ってきた。これが甘やかし以外のなんなんだ」
『そんなの言ったらリヴィだって毎日毎日髪の毛乾かしてもらってるじゃん!』
「それはお前も一緒だろうが」

 ぎゃいぎゃいと言い争う魔王と闇の精霊、…否、大人と子供。
 周りの視線が微笑ましいものから生暖かいものに変わったところでステラは思わず止めに入った。

「ストップ。お二人ともストップです。……確かに、私は甘やかしていたかもしれません。でもそうですよね、お二人だって色々出来るようにならなければいけませんし、明日から。…いえ、今日から少し厳しく」
「それとこれとは話が別だ」

 ぴたりと二人の言い合いが止まり、リヴィウスの真っ直ぐな目がステラを射抜いた。その「俺は何も間違ったことを言っていないが?」とばかりの輝きと純真さを持った目で見つめられてステラは言葉に詰まった。

『そうだぞ。ボクは今のままでいいけどリヴィを甘やかすのはやめた方がいいと思う』
「お前の方が甘やかされているだろ」
『いーやリヴィだね!』

 そうしてまた始まった不毛な言い争いにステラは額を押さえた。周りの住民や行商人たちはその光景を見て笑っているし、中にはステラに「大変だね」と声を掛けていく人もいる。それに曖昧に笑って返すけれど、どこからどう見ても兄弟や家族のような気軽な言い争いにステラの頬も自然と上がる。
 旅のメンバーはガラリと変わったし、想像もしたことがない人との旅路だが、やっぱりステラはこの気軽な旅が好きだなと改めて思ったのだった。


 ───


 三人が新たな国へと出発したその日。大国からやって来た巨大な貨物船から大きな荷物が運び出された。厳重、というよりは丁寧に梱包されているらしいそれは重量もあるのか数人がかりで船から運び出されて、ネジュノ行きの馬車へと繋がれる。

「ありゃ一体なんだい? 随分重たそうだけど」
「これかい? これはあれだよ、あれ」

 大国から来たらしい職人のような出立ちの男は丁寧に梱包された荷を撫でながらどこか得意げに胸を張った。

「救国の聖女の像さ」

 ステラたちはまだ知らない。あの魔王城での最終決戦が今や歌劇になるほどの人気を博していることを。そして、その身を挺して魔王を討ち果たした聖女が世界各国の主要都市でその姿を忘れないようにと銅像が建てられていることを。
 ステラたちは、まだ知らないのだった……。
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