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第二章 西の国の花の祭り編
フロレ・シェリ
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フロレ・シェリ。ペタルの街の南に位置する主に広葉樹が茂る鬱蒼とした森だ。かつては遺跡だった場所に植物が茂ったことで一般的な森とは違う景色を作り出している。
森の場所を教えてくれた老人曰く、春の季節になるとこの森には様々な種類の花が咲き誇りそれは見事な景観を作り出すらしい。それを見にくる観光客も多く、時には傭兵を引き連れた貴族もやって来る程だったという。
そして幸運にもこの周辺に出現するモンスターは戦闘能力が低く、正直素人に毛が生えたような人物でも必死に戦えばなんとかなる程度だ。だからこそこの街には観光客が多くやって来るのだろうなと思いながらステラたちは足を踏み入れた。
「リヴィ、待って下さい歩くのが早いですリヴィ!」
フロレ・シェリの元となった遺跡は上にではなく地下に穴を掘って建造されているスタイルだ。だからか森はルートは様々あれど螺旋状に下れるようになっており、たまに大木が倒れて出来た自然の道もある。つまり、足場が非常に不安定なのだ。
その中をリヴィウスが普段通りの速度で歩くものだからステラは焦って声を上げた。
「今そこにとんでもない色をした鳥がいたぞ」
空に向けて大きく口の開いた部分に虹色の鳥が飛んでいくのが見える。
「アルカンティルという種類の鳥です、また会えますからゆっくり歩いて下さい…!」
ようやく止まってくれたことに心底安堵しつつ、ステラはリヴィウスの手を強く握りながら訴えた。
『ステラ、ボクそういうのはもっと怒ってもいいと思うぞ』
二人の後ろからのんびりとやってきたてぷが呆れ半分といった様子で声を掛ける。ステラもそれに眉を下げるのだが、見上げた先にあるリヴィウスの表情が、その瞳が好奇心で輝いているのを見るとどうにも強く言い出せないのだ。
「…くっ」
『ほらやっぱり甘いんだぞ』
「返す言葉もございません…」
空いている手で額を押さえた。
「…これはお前を抱き上げて歩いた方が早いんじゃないか」
「それをしたらあなたはどこまでも歩いていってしまうでしょう…!」
さも名案だとばかりにステラを抱き上げようとしたリヴィウスをなんとか止めてステラは息を吐いた。自分よりも頭ひとつ分と少し大きな存在をキッと見上げて「いいですか」と切り出す。
「ゆっくりと歩いて下さい。鳥は逃げますがまた会えます。リヴィが鳥に興味があるように、私もこの森にある花に興味があります。なのでもう一度言いますが、ゆっくりと歩いて下さい。わかりましたか?」
「………ああ」
「はい、お返事できて偉いです」
ステラは満足そうに頷いた。一緒に過ごしていくにつれどんどんリヴィが素直になってくれている気がして嬉しかった。
「じゃあゆっくり行きましょうか」
気を取り直して前を進もうとしたとき、てぷがリヴィウスの前に立ち、両腕を広げた。
『リヴィ、抱っこ』
「……は?」
『ボクを抱っこしてた方がお前歩くのゆっくりになるだろ?』
「!」
リヴィウスは思い切り不愉快そうな顔をしたが、ステラはあまりの破壊力によろめいた。
聖女として生きてきた二十年、ステラはその時間を後悔していない。けれどもあまりに我慢が強いられる生活であったのは確かだ。必死で感情を波立たせないよう聖女らしく努めてきた反動で、今自由となったステラの心にはそのてぷはあまりにも劇薬だった。
小さくてふわふわの雲のようなかわいらしいてぷが、両手を伸ばして抱っこを強請った。その可愛さたるや、とてもではないが筆舌に尽くし難い。
そしてステラは何も言わず手を離した。両手が空いている方が抱き上げやすいからだ。さあどうぞ、かわいいてぷ様を抱っこしてあげてくださいという心からの善意だったのだが、これが間違いだった。
ずる、と足が滑る。
ステラは「しまった」とは思ったけれど焦ってはいなかった。なぜなら滑ったところで背後にあるのは遺跡の壁だ。そこに少し体がぶつかるだけだろうと思っていたのにとん、と背中が当たった途端ステラの体は宙に浮いていた。
「え」
その時ステラは思い出した、森の場所を教えてくれた老人の言葉を。
(「フロレ・シェリに行きたいのかい? じゃあ南の門を通って出るといい。あそこから出て真っ直ぐ進んだら着くぞ。ああでも気をつけるんだよ、」)
この言葉には続きがあったのだ。ただ、自分たちには該当しないだろうと思ってあまり気に留めていなかった言葉が。
(「たまに行方不明者が出るんだ」)
なるほどこれか、とステラは妙に納得してそのまま重力に従って落ちる他なかった。
森の場所を教えてくれた老人曰く、春の季節になるとこの森には様々な種類の花が咲き誇りそれは見事な景観を作り出すらしい。それを見にくる観光客も多く、時には傭兵を引き連れた貴族もやって来る程だったという。
そして幸運にもこの周辺に出現するモンスターは戦闘能力が低く、正直素人に毛が生えたような人物でも必死に戦えばなんとかなる程度だ。だからこそこの街には観光客が多くやって来るのだろうなと思いながらステラたちは足を踏み入れた。
「リヴィ、待って下さい歩くのが早いですリヴィ!」
フロレ・シェリの元となった遺跡は上にではなく地下に穴を掘って建造されているスタイルだ。だからか森はルートは様々あれど螺旋状に下れるようになっており、たまに大木が倒れて出来た自然の道もある。つまり、足場が非常に不安定なのだ。
その中をリヴィウスが普段通りの速度で歩くものだからステラは焦って声を上げた。
「今そこにとんでもない色をした鳥がいたぞ」
空に向けて大きく口の開いた部分に虹色の鳥が飛んでいくのが見える。
「アルカンティルという種類の鳥です、また会えますからゆっくり歩いて下さい…!」
ようやく止まってくれたことに心底安堵しつつ、ステラはリヴィウスの手を強く握りながら訴えた。
『ステラ、ボクそういうのはもっと怒ってもいいと思うぞ』
二人の後ろからのんびりとやってきたてぷが呆れ半分といった様子で声を掛ける。ステラもそれに眉を下げるのだが、見上げた先にあるリヴィウスの表情が、その瞳が好奇心で輝いているのを見るとどうにも強く言い出せないのだ。
「…くっ」
『ほらやっぱり甘いんだぞ』
「返す言葉もございません…」
空いている手で額を押さえた。
「…これはお前を抱き上げて歩いた方が早いんじゃないか」
「それをしたらあなたはどこまでも歩いていってしまうでしょう…!」
さも名案だとばかりにステラを抱き上げようとしたリヴィウスをなんとか止めてステラは息を吐いた。自分よりも頭ひとつ分と少し大きな存在をキッと見上げて「いいですか」と切り出す。
「ゆっくりと歩いて下さい。鳥は逃げますがまた会えます。リヴィが鳥に興味があるように、私もこの森にある花に興味があります。なのでもう一度言いますが、ゆっくりと歩いて下さい。わかりましたか?」
「………ああ」
「はい、お返事できて偉いです」
ステラは満足そうに頷いた。一緒に過ごしていくにつれどんどんリヴィが素直になってくれている気がして嬉しかった。
「じゃあゆっくり行きましょうか」
気を取り直して前を進もうとしたとき、てぷがリヴィウスの前に立ち、両腕を広げた。
『リヴィ、抱っこ』
「……は?」
『ボクを抱っこしてた方がお前歩くのゆっくりになるだろ?』
「!」
リヴィウスは思い切り不愉快そうな顔をしたが、ステラはあまりの破壊力によろめいた。
聖女として生きてきた二十年、ステラはその時間を後悔していない。けれどもあまりに我慢が強いられる生活であったのは確かだ。必死で感情を波立たせないよう聖女らしく努めてきた反動で、今自由となったステラの心にはそのてぷはあまりにも劇薬だった。
小さくてふわふわの雲のようなかわいらしいてぷが、両手を伸ばして抱っこを強請った。その可愛さたるや、とてもではないが筆舌に尽くし難い。
そしてステラは何も言わず手を離した。両手が空いている方が抱き上げやすいからだ。さあどうぞ、かわいいてぷ様を抱っこしてあげてくださいという心からの善意だったのだが、これが間違いだった。
ずる、と足が滑る。
ステラは「しまった」とは思ったけれど焦ってはいなかった。なぜなら滑ったところで背後にあるのは遺跡の壁だ。そこに少し体がぶつかるだけだろうと思っていたのにとん、と背中が当たった途端ステラの体は宙に浮いていた。
「え」
その時ステラは思い出した、森の場所を教えてくれた老人の言葉を。
(「フロレ・シェリに行きたいのかい? じゃあ南の門を通って出るといい。あそこから出て真っ直ぐ進んだら着くぞ。ああでも気をつけるんだよ、」)
この言葉には続きがあったのだ。ただ、自分たちには該当しないだろうと思ってあまり気に留めていなかった言葉が。
(「たまに行方不明者が出るんだ」)
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