【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第三章 東の国の大きなお風呂編

これ以上ない程の幸福

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「今笑う場所はあったか」

 それまで包むように触れていた手がほんの少しだけ力を込めてステラの頬を抓る。確かに少し痛いけれど、戯れるような力加減だ。こういう触れ合いも、彼は出来るようになったのだと思うとステラの胸に温かなものが広がっていく。

「ふふ、すみません」

 片手を背中から離して、そのまま頬に触れているリヴィウスの大きな手に重ねる。

「リヴィ、助けてくれてありがとう」

 お礼を言ったはずなのにリヴィウスの口角が下がって口がへの字になってしまった。それに瞬きをすると、今度は目が細まった。どこからどう見ても複雑な表情だ。

「リヴィ?」
「……ああ、クソ」

 悪態を吐いたリヴィウスがステラを抱き締める。何かわからないまま、けれど温もりがより近付いたことが嬉しくてそのまま体を預けると歯噛みする音が聞こえた。

「……あいつから」

 ここでいうあいつとはきっとてぷのことだろうなと思いながらリヴィウスの首筋に鼻先を擦り当てた。

「、……あいつから、今のお前は普通じゃないから触るなと、言われている」
「普通じゃない?」
「……媚薬を飲まされていると言っただろう」

 ああそういえばそんなことを言われた気がする、とステラは頷いた。また溜息が聞こえた。それから少し沈黙があって、やがてリヴィウスの目が真っ直ぐにステラを見た。綺麗な赤色がステラだけを見ているという状況がやっぱり嬉しくて口許を緩めるとリヴィウスの眉間に皺が寄った。

「……今のお前は媚薬のせいでいつもと違う。そんな状態のお前に触るなというあいつの言葉も、その意味も理解出来る。それでも」

 リヴィウスの手が首筋に触れた。ひやりとして心地が良いはずなのに、そこから生まれた痺れのような感覚に肩が小さく跳ねる。

「お前が俺以外に触れられた事実が我慢ならない」

 不機嫌な赤い目がステラを射抜いている。怒りだろうか、それ以外にも何かが滲んでいる気がするけれど、今のステラにはうまく理解出来ない。発熱とはまた違う体の熱さを感じる。それはリヴィウスに触れられたことでさらに増した気がするけれど、嫌じゃなかった。
 リヴィウスになら良いと思った。

「大丈夫ですよ」

 思えば頬や手以外に初めて触れられた気がする。それは多分、二十年生きてきた中でもそうだ。キースに触れられた時は嫌悪感と絶望感が凄まじかったのに、今は多幸感すら感じている。この温度が、肌が、心地良いと思った。

「リヴィになら触れられても嬉しいです」

 そう零したのは間違いなくステラの本心だ。

「……クソ」

 さっきも聞いた悪態がもう一度聞こえた。けれどそれを呟いたリヴィウスの顔を見ることは出来なかった。
 軽く抱き上げられて、背中に柔らかいものが触れる。石で出来た精霊の神殿にはとても似合わない、あの日蘇生したリヴィウスを寝かせていたベッドだ。どこから光が入っているのかも時間が経過しているのかもわからない不思議な構造の室内で、ステラは自分を見下ろす人をじっと見つめた。

「文句なら後でいくらでも聞く」

 今から戦いにでも行くような真剣な顔だと思って、また笑う。

「多分言わないと思います」
「……そうか」

 ぎしりとベッドの軋む音がした。リヴィウスの神様に愛されているような整っている顔が近付いてくる。息が触れて、自然と目を閉じた。すると感じた柔らかさとか、少し冷たく感じる体温だとかが、これ以上無い程の幸福に思えた。

(──ああ、やっぱり。全然いやじゃない)

 寧ろリヴィウスだから嬉しいとすら、ステラは思った。
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