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第四章 西の国の救国の聖女編
迂闊なのはてぷもそう。
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とんでもなく強い魔力を感じたのはほんの一瞬だった。それまで一才の気配がしなかったのに、瞬きをする一瞬の間に高濃度に圧縮された魔法が展開され、ステラと抱えられていた猫は消えていた。
「……ステラ?」
リヴィウスの呆然とした声が聞こえた。
辺りは何も変わらない。あまりにも賑やかな祭りの音とはしゃぐ人間の声で満たされていて、今この一瞬で人間が一人消えたことに誰も気が付いていなかった。それがあまりにも異質で、異常で、そして何よりもまずい状態だった。
『リヴィ、リヴィ落ち着くんだぞ』
てぷは何よりも先にそう言っていた。気休めでもそう声を掛けなければ自分の隣にいる男がこの街を破壊しかねないと思ったからだ。そしてその懸念は、多分当たる。この男はステラのためならきっともう一度世界を混沌に陥れることすら容易に出来てしまうからだ。
『ステラは生きてるんだぞ。だから落ち着いて、魔力を抑えろ。ヒトの子はそんな量の魔力持ってないから、バレるんだぞ』
ステラに贈った腕輪に嵌めた石にはこれでもかというほどてぷの加護が授けられている。だから詳細な居場所はわからなくてもステラが生きているのか、危害を加えられているかどうかの判断はできる。だからそれを伝えるのだが、あまり意味を成さないことを理解しててぷは眉を寄せた。
隣に座り今の今までステラがいた場所を見ているリヴィウスの体から尋常でない程の魔力が滲み出ている。どろどろとした暗雲のようなその魔力は久しく見ていない魔王のそれだった。
(完全にヒトと同じになったと思ってたけど、そうじゃなかったんだぞ)
一度死んで甦ったリヴィウスはこれまでにも数度魔法を使用している。けれどその時の魔力は人間としては強過ぎるけれど、魔王の時と比べれば微々たるものだった。だからてぷはリヴィウスは魔力の含有量も含め全てが人間と同じになったと思い込んでいたけれど、そうではなかったのだ。
てぷは精霊だ。人間の感情も理屈も情勢もよくわからない。けれど、今リヴィウスから垂れ流されているこの魔力が、この場所で広がるのはまずいと思った。
『リヴィ! 駄目だぞ!』
てぷは手を伸ばしてリヴィウスの服を掴んだ。瞬間、バチンと弾ける音と一緒に雷に打たれたような衝撃が襲っててぷは目を丸くした。触れた手は赤く腫れていて、一拍遅れて痛みが襲ってきた。
まずい、てぷはそう直感した。
『っ、リヴィ、ボクの声を聞くんだぞリヴィっ』
「退いて! 退いてくれ! みんなここから離れろ!」
「さっさと離れろ! 死にてえのか!」
少し離れた場所から若い男の声が聞こえる。その音が近づくに連れて若い女のはしゃぐような声も聞こえるけれど、その直後に太い声が響いててぷはそちらを振り返る。てぷはこの声を知っている。そしてこの気配もだ。
精霊として生まれて数千年、てぷは今この瞬間最も一番焦っていた。
(アズマヒのでっかい男と、それにあれは──っ)
人垣をかき分けて駆けてきたのは太陽の光を紡いだような金色の髪を持つ青年と、リヴィウスよりも体格の良い岩のような大男。二人からはそれぞれが得意とする魔法属性の気配と一緒に、女神リーベの気配もほんの僅かに漂っていた。
その気配にそれまで微動だにしなかったリヴィウスがピクリと反応して顔を向ける。そして一瞬眩しそうに目を細めた後、ややあって酷く憔悴した声で呟いた。
「……勇者か」
その一言が、起爆剤になったのだと思う。
「──どうしてお前が生きてるんだ、魔王‼︎」
空気を震わせる怒号と同時に抜き去られたのはかつて聖女と魔王を同時に葬った「神殺しの剣」だった。最終決戦の折には金色に輝いたその剣も、今は本来の銀色のままその切先がリヴィウスに向けられている。
ゆらりと立ち上がったリヴィウスの視線が一瞬その切先に移り、そしてそのまま刀身を遡って勇者を見る。どろりと澱んだ赤い目が勇者リヒトを捉えて、そして口角が歪に上がった。
「どうして……? そんなもの、俺が知りたい」
リヴィウスの手が陽炎のように揺らめいて前方にかざされる。それにてぷは目を見開いた。
『駄目だぞ‼︎』
それを掻き消すほどの轟音が瞬く間に鳴り響く。目が眩むような濃度の闇の魔法が繰り出され、それが神殺しの剣に当たって相殺される。その瞬間、轟音と衝撃波が生まれて常人は立っているのも辛くなり、異常を察知した人間は悲鳴を上げながら逃げ惑う。
賑やかで華やかだった祭りが、一瞬にして戦場と化した瞬間だった。
剣を構え直した勇者リヒトが怨嗟の全てを含んだ顔でリヴィウスを睨んだ。
「……どうしてお前が生きてるんだ。聖女はどうした!」
聖女、という言葉にリヴィウスが反応したのが見えた。てぷはこうなったらなりふり構っていられないと変身を解こうとしたが、二人に集中する余り自分に気付く存在に気が付かなかった。
『!』
一瞬の浮遊感を覚えた次には柔らかなものに包まれて視界は遥か上空にまで上がっていた。それがわかったてぷは目を丸くする。
「怖かったね。もう大丈夫だよ」
そう言っててぷを抱き締めるのはエルフ族の特徴である長い耳をした女性。てぷは己の迂闊さに歯噛みした。これではリヴィウスを転移させることも出来ない。だってきっと、ステラはてぷの存在が勇者やそれに近しい人にバレることを望んでいない。
(ああもう、どうしたらいいんだぞ‼︎)
てぷは焦った。そうして次の瞬間、広場では再び轟音が轟いた。
「……ステラ?」
リヴィウスの呆然とした声が聞こえた。
辺りは何も変わらない。あまりにも賑やかな祭りの音とはしゃぐ人間の声で満たされていて、今この一瞬で人間が一人消えたことに誰も気が付いていなかった。それがあまりにも異質で、異常で、そして何よりもまずい状態だった。
『リヴィ、リヴィ落ち着くんだぞ』
てぷは何よりも先にそう言っていた。気休めでもそう声を掛けなければ自分の隣にいる男がこの街を破壊しかねないと思ったからだ。そしてその懸念は、多分当たる。この男はステラのためならきっともう一度世界を混沌に陥れることすら容易に出来てしまうからだ。
『ステラは生きてるんだぞ。だから落ち着いて、魔力を抑えろ。ヒトの子はそんな量の魔力持ってないから、バレるんだぞ』
ステラに贈った腕輪に嵌めた石にはこれでもかというほどてぷの加護が授けられている。だから詳細な居場所はわからなくてもステラが生きているのか、危害を加えられているかどうかの判断はできる。だからそれを伝えるのだが、あまり意味を成さないことを理解しててぷは眉を寄せた。
隣に座り今の今までステラがいた場所を見ているリヴィウスの体から尋常でない程の魔力が滲み出ている。どろどろとした暗雲のようなその魔力は久しく見ていない魔王のそれだった。
(完全にヒトと同じになったと思ってたけど、そうじゃなかったんだぞ)
一度死んで甦ったリヴィウスはこれまでにも数度魔法を使用している。けれどその時の魔力は人間としては強過ぎるけれど、魔王の時と比べれば微々たるものだった。だからてぷはリヴィウスは魔力の含有量も含め全てが人間と同じになったと思い込んでいたけれど、そうではなかったのだ。
てぷは精霊だ。人間の感情も理屈も情勢もよくわからない。けれど、今リヴィウスから垂れ流されているこの魔力が、この場所で広がるのはまずいと思った。
『リヴィ! 駄目だぞ!』
てぷは手を伸ばしてリヴィウスの服を掴んだ。瞬間、バチンと弾ける音と一緒に雷に打たれたような衝撃が襲っててぷは目を丸くした。触れた手は赤く腫れていて、一拍遅れて痛みが襲ってきた。
まずい、てぷはそう直感した。
『っ、リヴィ、ボクの声を聞くんだぞリヴィっ』
「退いて! 退いてくれ! みんなここから離れろ!」
「さっさと離れろ! 死にてえのか!」
少し離れた場所から若い男の声が聞こえる。その音が近づくに連れて若い女のはしゃぐような声も聞こえるけれど、その直後に太い声が響いててぷはそちらを振り返る。てぷはこの声を知っている。そしてこの気配もだ。
精霊として生まれて数千年、てぷは今この瞬間最も一番焦っていた。
(アズマヒのでっかい男と、それにあれは──っ)
人垣をかき分けて駆けてきたのは太陽の光を紡いだような金色の髪を持つ青年と、リヴィウスよりも体格の良い岩のような大男。二人からはそれぞれが得意とする魔法属性の気配と一緒に、女神リーベの気配もほんの僅かに漂っていた。
その気配にそれまで微動だにしなかったリヴィウスがピクリと反応して顔を向ける。そして一瞬眩しそうに目を細めた後、ややあって酷く憔悴した声で呟いた。
「……勇者か」
その一言が、起爆剤になったのだと思う。
「──どうしてお前が生きてるんだ、魔王‼︎」
空気を震わせる怒号と同時に抜き去られたのはかつて聖女と魔王を同時に葬った「神殺しの剣」だった。最終決戦の折には金色に輝いたその剣も、今は本来の銀色のままその切先がリヴィウスに向けられている。
ゆらりと立ち上がったリヴィウスの視線が一瞬その切先に移り、そしてそのまま刀身を遡って勇者を見る。どろりと澱んだ赤い目が勇者リヒトを捉えて、そして口角が歪に上がった。
「どうして……? そんなもの、俺が知りたい」
リヴィウスの手が陽炎のように揺らめいて前方にかざされる。それにてぷは目を見開いた。
『駄目だぞ‼︎』
それを掻き消すほどの轟音が瞬く間に鳴り響く。目が眩むような濃度の闇の魔法が繰り出され、それが神殺しの剣に当たって相殺される。その瞬間、轟音と衝撃波が生まれて常人は立っているのも辛くなり、異常を察知した人間は悲鳴を上げながら逃げ惑う。
賑やかで華やかだった祭りが、一瞬にして戦場と化した瞬間だった。
剣を構え直した勇者リヒトが怨嗟の全てを含んだ顔でリヴィウスを睨んだ。
「……どうしてお前が生きてるんだ。聖女はどうした!」
聖女、という言葉にリヴィウスが反応したのが見えた。てぷはこうなったらなりふり構っていられないと変身を解こうとしたが、二人に集中する余り自分に気付く存在に気が付かなかった。
『!』
一瞬の浮遊感を覚えた次には柔らかなものに包まれて視界は遥か上空にまで上がっていた。それがわかったてぷは目を丸くする。
「怖かったね。もう大丈夫だよ」
そう言っててぷを抱き締めるのはエルフ族の特徴である長い耳をした女性。てぷは己の迂闊さに歯噛みした。これではリヴィウスを転移させることも出来ない。だってきっと、ステラはてぷの存在が勇者やそれに近しい人にバレることを望んでいない。
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