【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第四章 西の国の救国の聖女編

勇者対魔王再び

 「聖女はどうした」そう言って睨んでくる勇者を見たリヴィウスは一瞬どう答えようか迷った。事実としてステラは生きている。けれどリヴィウスはそれを目の前の男に、否、この世界の誰にもそれを教えてやるつもりなんて微塵も無かった。
 だからこう言うことにしたのだ。

「聖女はお前が殺しただろう。俺と一緒に」
「っ貴様あああああ‼︎」

 事実を言っただけなのに勇者は目を血走らせてリヴィウスに斬りかかってきた。こちらは丸腰だというのに、と目を細めるがリヴィウスにとってそれは些細な問題だ。
 瞬時に闇魔法で作り出した剣を持ち、神殺しの剣に応戦する。鉄同士がぶつかったわけでもないのにガキン、と音が鳴り火花が散った。その衝突に魔力による衝撃波が生まれ、折角綺麗に飾り付けられた祭りの装飾が千切れ飛んでいくのが視界の端に映った。

「何故怒る。事実だろう」

 そう、リヴィウスは嘘は言っていない。あの日あの瞬間、確かに聖女は死んだ。そうして今はステラとして生きている。その瞬間、リヴィウスの脳裏にステラの笑顔が浮かんだ。
 困ったように、仕方がないなと言うように笑う顔をリヴィウスは好ましく思っていた。いや違う。ステラのする顔ならばリヴィウスはどんなものでも好ましい。けれどいただけないものもある。

 それがステラの悲しみや苦しみを堪えている顔だ。
 あの顔だけは駄目だ。どうしてもあの顔だけは受け入れられない。だからリヴィウスは目の前で今にも自分を殺さんとする勇者も手に掛けることができない。ステラはリヴィウスが人を殺すのを極端に嫌うからだ。

「お前が、お前が存在しなかったら聖女は死ななかった! どうしてお前が生きてて聖女が死なないといけないんだ! お前が、お前があっ!」

 感情は剥き出しなのに剣筋は洗練されている。迷いなく命を奪うために繰り出される剣技をいなしながらリヴィウスは勇者を見た。眩いほどの魂の輝きは魔王城で初めて対峙した日から変わっていない。
 むしろあの日から輝きを増した気がしないでもないが、それはリヴィウスには関係無い。
 ふと違う気配と殺気が向けられたことに気付く。その数を追えば勇者も含めて三人。勇者と、その背後に潜む大男と、そしてそのさらに遠方にいるもう一人。研ぎ澄まされた魔力と殺気はそれらがただの人間の兵士ではないことを伝えて来る。

(なるほど)

 どうやら勇者たちは本気でリヴィウスを殺しにきているらしかった。手加減をしなければこの街ごと一瞬で消し炭にすることなんてリヴィウスにとっては赤子の手を捻ることよりも簡単だ。けれど今はそうではない。
 今から仕掛けられる魔法を全て相殺しながらかつ術者は殺さないとなると、例え魔王といえど骨が折れる。でもそれだけだ。不可能ではない。

 もう一度、魔王には敵わないのだと絶望に塗れる顔を見るのは面白いかもしれない。
 そう、リヴィウスは最初からこの街を壊すつもりも人を殺すつもりもない。ただ自分でもわからないほど感情が抑えられず、何かをしていなければ冗談ではなくこの街を破壊してしまいそうなのだ。だから今のリヴィウスにとって勇者たちの存在は渡に船だった。

「聖女の仇をここで討ってやる…!」

 ステラのものとは全く違う青い目がリヴィウスを射抜いた。憎しみで歪んだ顔を見て、リヴィウスは口角を上げた。仄暗い優越感からだ。

「仇か」
「何がおかしい⁉︎」

 鍔迫り合いの最中でぶつけられた言葉にリヴィウスは笑いが止まらなかった。何が、何がだと。ああ、おかしい。剣を握る手に力を込めて押し返すと面白いくらいに勇者が吹っ飛んだ。建物にぶつかりそうだった体を後ろに控えていた大男が受け止る。
 二人の憎悪の目がリヴィウスを睨む。それを静かに見返しながら剣の切先を向けた。

「何も知らないんだな、お前たちは」

 ほんの少し魔力を込めて指を鳴らせばリヴィウスの背後にいくつもの魔法陣が浮かび上がりそこから威力が一点に収束された殺傷能力の高い光が放たれる。下手に動かなければ負傷することはないが、その代わり街が破壊されていく。
 これくらいならステラは怒らないだろうか、悲しまないだろうか。もし怒られたとしてもそれならそれで別に構わない。ステラからの叱責であればいくらでも受ける。だからどうか、

(──俺が人を殺さないうちに戻ってこい、ステラ)

 破壊される街を見て勇者が再び突っ込んで来る。相変わらずの正義感に眉ひとつ動かさず、リヴィウスが再び剣を構えた時、空に純白の魔法陣が広がった。
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