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不可逆の決断──『そして伯爵令嬢は微笑んだ』
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── 正しさと幸福は、時に対立する。
それでも、人は“正しい選択”をしたと言い張ることで、自分の傷を覆おうとするのだ。
広間には、朝の柔らかな光が穏やかに射し込んでいた。その光が差す中で、ティタ嬢の表情はいつになく静かで落ち着いていた。普段なら華やかに笑い、まるで自分自身を誇示するかのような彼女が、今日はどこか別人のように慎ましい。
サンゼールもまた、その隣に静かに佇んでいた。彼はいつものように完璧な執事の姿勢を崩さず、しかしその表情には、普段にはない翳りが宿っているのを私は見逃さなかった。
ティタ嬢が静かに口を開いた。
「皆様、今まで大変ご迷惑をおかけしました。私の身勝手な振る舞いにより、多くの方に心配をかけ、苦労を強いてしまいました。本当に申し訳ありません」
その言葉に込められた真摯な響きに、広間は静かに満たされていった。
「私はこれから、伯爵家の令嬢として責任を持って生きていこうと思います。……そのために」
ティタ嬢は一瞬、言葉を詰まらせた。静かに息を吐き、小さく微笑んだ。
「準男爵であるアポロ様と正式に婚約し、伯爵家を支える覚悟を決めました」
その言葉に、広間が息を呑んだ。
誰もが予期していなかった言葉だったが、なによりも驚きを隠せなかったのは、イワンだった。
「えっ……!?お嬢様は、サンゼール先輩のことが好きなのでは……!?」
若さゆえの純粋な疑問が、そのまま空気を震わせる。イワンの声に含まれた無邪気さが、その場の誰もが抱いていた問いを代弁した。
ティタ嬢はかすかに寂しそうな笑みを浮かべた。
「……サンゼールとは、十分に話し合いました。ふたりで考えて、出した結論なのです」
その瞬間、サンゼールが微かに目を伏せたのを私は確かに見た。彼の胸の奥にあるものが何なのか、その仕草だけで私は察することができた。
──これは彼らが望んだ結果ではない。
ティタ嬢の決意も、サンゼールの沈黙も、ふたりの内にある感情とはまったく別のものであると言っていいだろう。
だが私には、ここで言葉を挟む権利も、立場もない。
沈黙が訪れる中、小さく息を吐いたのはアトラだった。彼女は静かな瞳でティタ嬢を見つめ、控えめながらはっきりと言った。
「ティタ、本当にそれで良いの……?」
アトラの問いは静かで柔らかだったが、確かな重みを持っていた。幼馴染として、そして友人として、彼女はティタ嬢の心を見透かしているのだろう。
ティタ嬢は一瞬だけ、アトラを見つめ返した。その瞳の中に、わずかな揺らぎが生まれ、すぐにまた静かに沈んでいった。
「……ええ、これが最善の選択です。私はもう、自分の人生から逃げません。家を守り、家族を支え、責任を果たします」
その言葉を聞いた瞬間、私は再びサンゼールの横顔を盗み見た。彼もまた、ティタ嬢の言葉を聞きながら静かに何かを飲み込んでいるようだった。感情を抑え、責任と忠誠心を選んだ彼の横顔には、言葉にならない無数の思いが宿っている。
──やれやれ。
私は内心で小さく呟いた。
どうやら、ここで私が黙っているわけにはいかないらしい。
ティタ嬢の笑顔の奥に隠された寂しさ、サンゼールの静かな諦め、それらすべてを見過ごすわけにはいかなかった。
ふたりが選んだ結末を覆すことが、必ずしも正しいとは限らない。だが私は、ここで静かに見守るだけの傍観者になることを許せなかった。
彼らが見逃していることがある。それを指摘し、選択を問い直させることが、私に与えられた役割だろう。
私は静かに胸の内で決意を固めた。
それでも、人は“正しい選択”をしたと言い張ることで、自分の傷を覆おうとするのだ。
広間には、朝の柔らかな光が穏やかに射し込んでいた。その光が差す中で、ティタ嬢の表情はいつになく静かで落ち着いていた。普段なら華やかに笑い、まるで自分自身を誇示するかのような彼女が、今日はどこか別人のように慎ましい。
サンゼールもまた、その隣に静かに佇んでいた。彼はいつものように完璧な執事の姿勢を崩さず、しかしその表情には、普段にはない翳りが宿っているのを私は見逃さなかった。
ティタ嬢が静かに口を開いた。
「皆様、今まで大変ご迷惑をおかけしました。私の身勝手な振る舞いにより、多くの方に心配をかけ、苦労を強いてしまいました。本当に申し訳ありません」
その言葉に込められた真摯な響きに、広間は静かに満たされていった。
「私はこれから、伯爵家の令嬢として責任を持って生きていこうと思います。……そのために」
ティタ嬢は一瞬、言葉を詰まらせた。静かに息を吐き、小さく微笑んだ。
「準男爵であるアポロ様と正式に婚約し、伯爵家を支える覚悟を決めました」
その言葉に、広間が息を呑んだ。
誰もが予期していなかった言葉だったが、なによりも驚きを隠せなかったのは、イワンだった。
「えっ……!?お嬢様は、サンゼール先輩のことが好きなのでは……!?」
若さゆえの純粋な疑問が、そのまま空気を震わせる。イワンの声に含まれた無邪気さが、その場の誰もが抱いていた問いを代弁した。
ティタ嬢はかすかに寂しそうな笑みを浮かべた。
「……サンゼールとは、十分に話し合いました。ふたりで考えて、出した結論なのです」
その瞬間、サンゼールが微かに目を伏せたのを私は確かに見た。彼の胸の奥にあるものが何なのか、その仕草だけで私は察することができた。
──これは彼らが望んだ結果ではない。
ティタ嬢の決意も、サンゼールの沈黙も、ふたりの内にある感情とはまったく別のものであると言っていいだろう。
だが私には、ここで言葉を挟む権利も、立場もない。
沈黙が訪れる中、小さく息を吐いたのはアトラだった。彼女は静かな瞳でティタ嬢を見つめ、控えめながらはっきりと言った。
「ティタ、本当にそれで良いの……?」
アトラの問いは静かで柔らかだったが、確かな重みを持っていた。幼馴染として、そして友人として、彼女はティタ嬢の心を見透かしているのだろう。
ティタ嬢は一瞬だけ、アトラを見つめ返した。その瞳の中に、わずかな揺らぎが生まれ、すぐにまた静かに沈んでいった。
「……ええ、これが最善の選択です。私はもう、自分の人生から逃げません。家を守り、家族を支え、責任を果たします」
その言葉を聞いた瞬間、私は再びサンゼールの横顔を盗み見た。彼もまた、ティタ嬢の言葉を聞きながら静かに何かを飲み込んでいるようだった。感情を抑え、責任と忠誠心を選んだ彼の横顔には、言葉にならない無数の思いが宿っている。
──やれやれ。
私は内心で小さく呟いた。
どうやら、ここで私が黙っているわけにはいかないらしい。
ティタ嬢の笑顔の奥に隠された寂しさ、サンゼールの静かな諦め、それらすべてを見過ごすわけにはいかなかった。
ふたりが選んだ結末を覆すことが、必ずしも正しいとは限らない。だが私は、ここで静かに見守るだけの傍観者になることを許せなかった。
彼らが見逃していることがある。それを指摘し、選択を問い直させることが、私に与えられた役割だろう。
私は静かに胸の内で決意を固めた。
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