白馬のプリンスくんには、どうやら好きな人がいるらしい

兎束作哉

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第1章 幼なじみに恋人ができた

09 知らなかった一面

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 店内にはいると、列から想像はできていたが人でごった返していた。机と机の幅が狭く、椅子を引いたら後ろに当たってしまう距離にある店内は箱詰め状態だ。
 ピンク色と水色のエプロンを着た店員に案内されたのは窓側の席で、ちょうど先ほど並んでいた列が見える場所だった。
 メニューはタブレット式のようで、店員は説明を終えると足早に去っていった。飲食のバイトって大変だな、と思いながら俺はタブレットに手を伸ばす。すると、先に燈司がタブレットを手にし、俺に見えるように傾けてくれた。


「いいって。燈司も見るだろ?」
「大丈夫、俺さかさ文字見える特殊能力あるから」
「ほんとか?」
「嘘に決まってんじゃん。でもいいよ。俺、この店には来たかったし食べるもの決まってるんだよね」


 燈司は「山かけイチゴのベリーベリーベリーワッフル」と呪文のような言葉を口にしていた。もうそれはベリーワッフルでいいのではないかと突っ込みそうになったがやめた。


「んー俺も同じのでいいや。ああ、でもシェア出来たほうがいいか。燈司は、他に食べたいのとかある?」
「しいて言えば、『山かけマンゴーパインのトロピカルフィッシュフルーツワッフル』は気になるかも」
「なんて?」


 俺が聞き返せば、燈司は説明がめんどくさくなったのかタブレットをシュッシュとスライドさせ、山かけマンゴーなんちゃらワッフルを指さした。燈司が先に選んだベリーワッフルの隣にあり、真っ赤なベリーワッフルとは違ってまっ黄色なワッフルだった。
 燈司は、もう一度「これでいい?」と聞いてきたため俺は首を縦に振る。それから、注文加護に入れて、送信のボタンを素早く押した。
 燈司はひと仕事を終えたように水の入ったガラスのコップをゴクゴクと飲み、静かに机の上に置く。


「はぁ~なんか緊張した」
「緊張したって映画?」
「うーん、デート練習かな。張り切っちゃって、ようやく一息付けたかなって感じ」
「ああ、映画でずびずび泣いてたもんな。なくって案外体力使うらしいぞ?」


 燈司の目の縁は少し赤くなっていた。もう涙がこぼれてくる心配はないものの、燈司は青春恋愛映画で泣けるタイプなのだと初めて知った。
 中学生の時にいった映画は、洋画だったり、ミステリーものだったりしたため、恋愛映画を一緒に見に行くのはこれが始めてだ。
 燈司は、コップの縁をなぞりながら時々ふふっと笑みをこぼす。


「恋愛映画でドキドキさせよう作戦だったんだけど、凛にはダメだったね」
「俺はあくまで練習相手だろ? 俺はその、好みじゃなかったけどお前の恋人はどうか分かんねえじゃん」
「でも、ダメ! 俺、恋愛映画で泣いちゃう人間だから、恋人にそんな姿見せたくない」


 バンバンと机を叩きながら猛抗議する燈司。
 コップに入った水がちゃぽんちゃぽんと揺れる。
 まあ、確かにかっこいい姿を見せ続けたいなら、泣いてしまう映画はダメだろうな。
 俺は、燈司の手がコップに当たりそうだったため、サッと横にずらした。
 それからほどなくして、ワッフルが運ばれてきた。だが、それは想像を絶する大きさで、皿は俺たちの顔の二倍ほどの大きさだった。また、名前の通り山かけで、ベリーワッフルに関しては薬指サイズのイチゴがゴロゴロ乗っている。


「これ、一つでよかったんじゃね? 食べきれるか……?」
「の、残したら罰金」
「……そりゃ、食べなきゃダメだな。意地でも」


 ごくりと喉を上下させる。甘党とはいえ、この大きさは予想外だ。
 燈司も震える手でナイフとフォークを持って、ワッフルを見下ろしている。二人でいただきますをし、ワッフルに手を付ける。


「おっ、うまっ。量はあれだけどうまいな」
「凛、凛。このイチゴ、ちょうどいい甘酸っぱさ。いる?」
「ん、じゃあ、もらう。俺は、マンゴー……これはパイナップルか。マンゴーのほうが高価だからこっちやる」


 ワッフルは口の中に入れた瞬間ほのかにメープルシロップの香りが広がり、モチモチとした生地は弾力がありつつも歯で噛みちぎれるほどの柔らかさだった。おまけに大量に盛られた生クリームも甘すぎず、とろみがあるため少し甘めなワッフルと相性がいい。フルーツは解凍したてか? と思うようなシャリっとした触感はあったものの味は悪くなく、マンゴーも大きめにサイコロ上にカットされていたため果肉が口の中ではじけた。
 俺たちは同じタイミングで顔を上げ「美味しい」と相手の目を見つめる。
 それから、フォークでフルーツを突き刺し相手の皿へ移そうと手を伸ばした。しかし、そこで燈司の待ったが入る。


「凛、デート」
「デー……ああ、そっか。じゃあ、あーん」
「何で!? 俺がやろうとしてたのに!!」


 燈司はカッと頬を赤らめて苦言を呈した。だが、テーブルの大きさはそこそこあり、燈司の手では俺の口まで運べないだろう。俺は腕は長いから燈司の小さい口元に難なく運ぶことができる。
 燈司は、ハッと自分の腕の長さに気づいたらしく、イチゴが刺さったままのフォークを皿の上に置いた。それから、むすっとした表情で俺を見上げる。


「俺が手本見せてやる。あーん」
「もー調子のいい」


 そう言いつつも、燈司は口を開ける。白い歯は歯並びがよくて短い舌がちょ、と出ている。
 俺はそんな燈司の口にマンゴーを持っていき、彼が口を閉じるまで腕をキープした。ぱくりと、燈司がマンゴーを口に含んだと同時に俺はゆっくりと彼の口からフォークを引き抜いた。


「ど? 美味しいだろ」
「美味しい……マンゴーって高級だし、でっかいすーぱでしか見たことないかも」
「だよなーあ、あれもそうじゃね。強そうな名前フルーツ」
「ドラゴンフルーツかな?」
「そ! それ! 今度二人で買って食べようぜ」
「ドラゴンフルーツ試食会? 面白そう。どっちの家でする?」
「じゃんけんだな。ま、どっちでも変わんねーけど」


 燈司は口元に手を当てながらしゃべる。だが、その口元は緩んでおりとても楽しそうだった。
 その笑顔だけで、このワッフルを食べきれそうな気がして、俺は幼馴染の笑顔をスパイスに顔の二倍サイズの皿に盛られていたワッフルをぺろりと平らげた。

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