白馬のプリンスくんには、どうやら好きな人がいるらしい

兎束作哉

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第2章 球技大会で見せつけろ

10 準優勝

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 三位と書かれた表彰状をもらい、俺たちは自分たちのクラスの列に並びなおす。閉会式が行われ、俺たちが負けたチームが見事一位をかっさらい代表が今の気持ちを述べる。


「バレー部が唯一輝ける場ですから」


 そうチームの代表、三年生のバレー部の男が語り終えると拍手が巻き起こる。
 俺たちは準決勝で敗退したものの、三位決定戦にてどっちが勝ってもおかしくない試合の末勝利を収めた。デュースになったのち、理人のアタックが決め手となり俺たちは何とか勝てた感じだ。
 相手も必死だったし、俺のサーブもミスすることなく入ったし、準決勝よりかは実りのある試合だった気がする。

 閉会式は終わり、ぞろぞろと生徒も先生も教室に向かって帰っていく。運動場に残って集合写真をとるクラスもあった。俺たちも、その順番待ちをし、一軍女子考案でクラス全員で顎下ハートをしてとることとなった。男子たちは「え~」と小さくこぼしていたが、意外とノリノリでポーズを決めていた。
 後からクラスのラインに流すと担任がいい、俺たちは順次解散となった。この後、HRもして帰る予定だ。
 女子たちはまだ写真を撮るつもりなのか、更衣室に向かう道中で「記念にあと何枚か撮ろ」なんて話しながら帰っていく。
 俺は次のクラスがどんなポーズをとるのか気になって、片づけをするふりをしながら観察していた。白線を足で消しながら運動場を見ていると、燈司に修二が駆け寄っていくのが見えた。


(あっ、決定的現場……)


 俺は、写真を撮っているクラスの邪魔にならないよう燈司の様子を見守る。
 この距離であれば、あいつらが何を話しているか聞こえるはずだ。


「白馬、今回チームに誘ってくれてありがとう。また、部活でも仲良くしてくれると嬉しい」
「仲良くって、そりゃ、仲良くするよ。それに、修二がバスケ部に誘ってくれたから、こうして続けてるっていうのもあるし」


(うおおおっ、雰囲気が、それ……それだ!!)


 燈司がバスケ部に入った理由を俺は知らなかった。
 中学生のころ、テニス部がなかったのになぜかバドミントン部があって、俺たちはそっちに入っていた。でも、俺はテニスがしたかったため、高校ではバドミントン部ではなくテニス部に入った。燈司も、別にバドミントンが特別好きというわけでもなかったため、違う部活に入ることにしたそうだ。
 俺と同じにするか? と高校に入って一週間あたりで聞いた。でも、その頃にはバスケ部に入ることにしたと入部届を出したことを知らされた。俺もバスケ部にしようか迷ったが、俺は燈司ではなく自分のやりたいことを選んだ。それは正解だったと思う。
 あのバカ二人とも仲良くやってるし、弄られても許容できるし。


(燈司……そんな経緯でバスケ部に) 


 なら、修二との関係性はかなり深いものだろう。


(俺、なんか燈司のこと知らなくね?)


 幼馴染で、何でも知っている自信があった。
 でも、最近はその自信が薄れてきている。燈司は別に俺の兄弟でもないし、家で何しているかも知らない。俺以外ともかかわるし、部活での燈司を俺は知らない。
 知ってるはずの幼馴染が、だんだん遠ざかっていっているような気がする。
 俺は、燈司のこと……恋人ができたことも知らなかったわけで。あいつのこと、高校に入ってから分からなくなっている。
 そんな空しさを心に抱えていると、二人の会話は進んでいたのか、修二が燈司の頭を撫でる。何度も見た、頭ポンポン。あんなの、心を許した相手にしかしないだろうし、させないだろう。


「修馬、この後……あ、すまん」
「いいって。修馬くんって弟の名前だよね。俺に似てるーって言ってたの覚えてるよ」
「先生を母親と間違える感覚に近いな……白馬が弟に似てるから、ついつい弟扱いしまう。嫌だったら言ってくれ」
「大丈夫だよ。あ、いつか修馬くんにあわせてね」


 燈司がそういうと、修二は「メッセージ入れておく」と言って燈司を置いてどこかへ行ってしまった。
 それから、燈司はこちらを向き「あっ!」と顔に花を咲かせる。


「凛ー!」
「お、おう。燈司……」
「もしかして待っててくれたの? 先帰ったかと思ってた」
「あーいや、忘れもんして。そしたら、お前見つけて……お取込み中だったみたいだけど」
「ああ、明日の部活のことでね」


 燈司はいつもの調子で話しかける。俺が見ていたと言っても動揺するそぶりは見せなかった。


(修馬……修二って、やたら燈司に甘い顔してたけど、あれってただのブラコンか?)


 先ほどの会話や、修二の言動から察するに、弟に似ている燈司を重ねてかわいがっていたようだ。もしかしたら、燈司をバスケ部に誘ったのもそれが理由かもしれない。


(はあ……なんだ、俺勘違いしてたかも)


 多分、修二は燈司の恋人じゃない。
 疑ってしまったが、修二は燈司にその気がない。
 早とちりして何か見誤るところだった。


「どうしたの? 凛」
「いーや。今回もお前の恋人探せなかったなーって思って」
「えーもう二か月経つよ?」
「俺ダメだな。お前のことよくわかんなくなる。知らないなって」
「凛が俺のこと知らない?」


 燈司はきょとんとした顔で俺の顔を覗き込んだ。
 俺は今、顔を見られたくなくて、咄嗟に燈司の手を掴む。


「そーいや、先生があのなんちゃらダッツ驕ってくれるらしいから早く帰ろうぜ。フレーバー選べなかったら嫌だし。レーズンは勘弁」
「そんなこと言ってたっけ? あっ、待ってよ。凛。足早い!」


 燈司の手を引いて走った。
 修二が燈司の恋人じゃなかったという安堵はあった。でも、あいつじゃないけど燈司に恋人がいることには変わらない。
 そう思うだけで俺は、何故か心の中がぐちゃぐちゃになっていく。ままならない。こんなの自分じゃないみたいだ。


(球技大会でもダッセ―所見せてんのに、今の俺、もっとダッセーよな)


 この胸の痛みはなんだ。
 下駄箱まで来て、砂を払わずかかとの踏まれた靴を押し込む。そして額の汗を、燈司に返していないあのハンカチで拭きとって俺は深呼吸をした。

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