白馬のプリンスくんには、どうやら好きな人がいるらしい

兎束作哉

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第3章 修学旅行に行ったらば

04 意識しまくり白雪くん

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 女子のように前髪を気にしながら、燈司は俺に質問を投げかけた。
 ここはなんて答えるのが正解なんだろうか。
 かっこいい? かわいい? あれこれとかける言葉が思いついては消えていく。だが、自然と口は動いていた。


「かわいい、似合ってる」
「かわいいって」


 燈司は、俺の言葉を繰り返し「そうかな?」と不安そうに言うとカチューシャを外した。かっこいいといったほうがよかっただろうか。言って後悔したが、燈司は俺の横を通っていくとカウンターにカチューシャを持っていき財布を開いた。気前のいい店員が「三千八百円になります」と値段を読み上げ、燈司は「五千円で」と財布から一枚のお札を出す。
 ピッと軽快な音が響き「ありがとうございましたー」と店員に見送られ燈司が帰ってくる。


「燈司、カチューシャ買ったんだな。なんか意外かも」
「修学旅行だし。少しぐらい、そういう気分を楽しみたいから。凛は買わないの? 似合ってるよ?」


 燈司は、少し背伸びをして俺の頭に手を伸ばした。だが、それでも届かなかったため、俺は中腰になる。
 俺の頭からカチューシャを取るかと思っていたら、燈司はリボンの向きを直しただけだったようだ。カチューシャに触れていた燈司の手が離れていく。それが少し名残惜しくて、また俺は燈司に手を伸ばしていた。


「凛?」
「……っ、わるぃ」
「嫌だった?」
「あーそういうことじゃなくて。これ、買ってくるから待ってろ」


 無意識のうちに燈司の腕を掴んでいた。バスケをしているとはいえ、身長差からか手の大きさも腕の太さも違う。燈司の腕は俺からしたら折れてしまうのではないかと心配になるくらい細い。
 燈司は、俺に腕を掴まれて、黒い瞳を丸くしていた。その顔がまたかわいいと思って、ごくんと唾を飲み込んだ。そして、プルプルと潤いのある唇に吸い寄せられそうになったのだ。そこで慌てて我に返り、頭からカチューシャを外してカウンターへもっていく。
 誰に止められたわけでもない。でも、あのまま見つめあっていたら何かまずいことをしてしまいそうな気がした。
 後ろで「秀人、俺、商売の才能あるかも」なんて、俺にカチューシャをかぶせた本人である光晴が喋っているのが聞こえた。

 園内には、そのエリアを表現した音楽が流れている。絶えず人の声が聴こえ、子どもの「風船欲しい」という声に、俺たちと同じ学校のやつが「次どこ行くー」と笑いあっている声が聴こえてくる。
 その声が、水の中に入ったようにくぐもっていた。
 俺は、五千円札を出してカチューシャを買ってみんなのもとに帰る。すると、入れ代わり立ち代わりに俺の班のやつらが会計をするために並び始めた。


「凛、カチューシャ買ったんだね。かわいい」
「まーなんだ。俺も、まあ、修学旅行だし? って。燈司が買ったから、買いたいよなあーって思って」
「俺が買ったから? 何それ」
「ほら、前、ホットドック! 俺が食べたいって言ったらお前も一緒の頼んだじゃん。それと同じ感覚だよ」


 あれこれと、それっぽい理由を並べて俺は燈司に説明した。自分でもぎこちなさを感じ、それは燈司にも伝わっていたようで「何かあった?」と心配されてしまう。
 何かあったか。
 何もない――そう答えられたらいいのに、何故か俺は視線を逸らしてしまう。面と向かって話せない。燈司との会話っていつもどうしていたっけ?
 当たり前のことができなくなっていた。
 頭の中には、修二と理人と楽しく話す燈司の顔が回っていく。球技大会のときのことを思い出して、また胸の中心がツキンと痛んだ。
 何でこんなに苦しいのか自分でもわからない。


「凛!」
「お、おう。どうした。燈司」
「顔色、ちょっと悪かったからさ……バスの中、寝てればよかったんじゃない? 凛って、行事ごとの前眠れないタイプだったでしょ?」
「そう、だけど……あー寝不足じゃなくって。そういや、燈司。今日、その服なんだな」


 どうにか会話を続けようと話題を探していると、ふと、燈司の服に目がいった。
 オーバーサイズのグレーのパーカーに、ベージュのスニーカー。四月の終わりにデート練習したとき、燈司が着てきた服だ。すごく似合っていたから今でも覚えている。


「気づいてくれたんだ。嬉しい」
「あのとき、すっげえにあってるなって思ったてたんだよ。あの日言えって話かもだけどさ。すぐ思い出した」
「ふふーん、凛にとってあのデート練習は記憶に残るものだったんだね」


 燈司は、どこか嬉しそうにそう言うと、俺のわき腹あたりを肘で突いた。
 俺はそんな燈司のかわいらしい行動よりも、普段通りの会話ができたことに安堵を覚えていた。こんなこと考えるなんて俺らしくないけど、今、燈司のことどういう目で見ればいいか分からなかった。
 まだ、恋人が分からないことへの不安というか。俺の知らない燈司がますます増えていって困る。
 俺が一番知っているはずなのに、知らない部分で上書きされていく。

 俺は、手に持っていたカチューシャを鞄の紐に引っ掛ける。燈司のカチューシャに触るふりをし、燈司の黒く艶のある髪を優しく撫でた。
 気づかれませんようにと、まるでいけないことをしている気分だった。

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