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第4章 勇気を出してけ文化祭
01 進展なしの夏休み
しおりを挟む季節は巡って夏になる。
「秀人、光晴久しぶり。つっても、夏祭り以来か?」
「それ、おうじくんの前でいっちゃうのデリカシーねえだろ。凛ちゃん」
「デリカシーにかけるよ、凛ちゃん」
夏休みが明けて久しぶりに顔を合わせたバカ二人は、開口一番「だから凛ちゃん」と意味の分からいことを言いながら俺を非難した。
「大丈夫だよ。二人とも、凛がデリカシーないのは知ってるから」
「燈ぉ司ぃ……ひでえよ」
俺の後ろから二人に顔を出した燈司は「間違ってないでしょ?」と同意を求めてきた。燈司の言う通り、そうなのだが好きなやつに言われるとやっぱり胸に来る。
(……っても、俺たち恋人同士じゃねえんだよな)
両片思い。いや、両思いだけど踏み出せていない。
燈司が、俺が燈司のことを好きであるか気づいているかは知らない。気づいていたらあっちから告白してくるだろうか。だが、さすがにここまでお膳立てというか、ヒントをもらって告白を待っているなんてダサすぎて目も当てられない。そのせいで、燈司に嫌われてしまったら元も子もない。
修学旅行後、俺たちの関係が一変することはなかった。
ただ、俺は燈司への恋心に気づきただの幼馴染として見えなくなってしまった。燈司に関しては俺に「恋人ができたんだ」と言ったときから変わっていない。きっとポーカーフェイスが得意なのだろう。
燈司から直々に「恋人はいない」との回答をもらったため、答えは俺なのだ。そして、もうすでに答えをもらってしまっている俺は言葉にして、燈司を好きだというしかない。
そう思っているうちに七月、八月が過ぎてしまった。
修学旅行終わりにあった中間テストで俺は赤点を多くとってしまい、その補充に七月は追われた。いつもは、赤点ギリギリの点数を取ってやり過ごすが、燈司を好きだと自覚してから勉強も見に入らなくなった。体育で再びバレーボールをすることになったが、何回顔にボールが落ちてきたか数えたくもない。しかも、突き指までする始末。
そんなこんなで七月は過ぎていった。
八月。俺たちの地域では夏祭りが行われるため、それに燈司を誘うことにした。燈司とは毎年いっているが、今年は全く別物になると胸を躍らせていた。
俺は、夏祭りというビッグイベントで燈司に告白する予定だった。しかし、あろうことか燈司が夏風邪にかかってしまい二人で夏祭りに行けなくなってしまった。十七年生きてきたのにこんなことは始めてた。やっぱり運がない。
その代わり、秀人と光晴と初めて夏祭りに行き、燈司に屋台で買ったりんご飴をお見舞いの品として持っていった。直接会えなかったものの、メッセージで「ありがとう」と返してくれ、家の隣のベランダから「凛――!!」と叫んでくれた。そのとき、大声を出してせき込んでいたのがまだ記憶に新しい。
そうして、七月、八月と進展がないまま来てしまった。
八月の終わり。目先の行事は文化祭。
ここで言わなければ、きっと俺は一生言えない。そんな確信があった。
もう誰も邪魔しないとは思いつつも、これ以上燈司を待たせることはできないと思った。
気づいたのは修学旅行のときだったが、俺はずっと昔から燈司という存在はただの幼馴染じゃなかったんだろう。いつか、秀人たちが言っていたのを思い出した。幼馴染の距離感じゃないって。それが今ならわかる気がする。
おはよー、はよーと言って次々にクラスメイト達が入ってくる。皆顔がどことなくどよんとしている。夏休み明けの顔だ。
夏休み前に席替えをしたため、俺は燈司と離れてしまった。背が高いために教室の後ろに左遷されてしまった俺は、燈司とかなり距離がある。席替えをしてからも一緒にご飯を食べているが、それまでの時間がとても退屈なものだった。
「いっしょに行けなかった夏祭りの話なんてさ、聞きたくないけど。でも、凛と話すのは好きだから、ちょっとだけならいいよ」
「お、おぅ……なら、また昼休みの話題にでもする」
少し背伸びして、俺の耳に近づいてこそりと言ってくる燈司。
意識してからは、その行動一つ一つに愛おしさを感じ胸がいっぱいになる。やっぱり、今でも頭の中を燈司が占領している。それは変わらない。
朝から、ドキドキと聞こえそうなくらい煩い心臓を押さえながら燈司の声を聴く。
「うわー凛ちゃん顔キメェ―」
「凛ちゃんドン引きすぎる。鼻のあなおっきー」
「おい、外野! 人の顔みんじゃねえ!」
秀人と光晴は、口元に手を当てコソコソと堂々と俺の前で悪口を言う。
でも、しょうがない。
頬が緩みまくっているのなんて俺が一番知っている。
(あー世界が輝いて見えるな!)
このままじゃいけないけど。それでも、燈司と両片思いだっていうのは俺だけが知っている。
そう考えるとまた、ぐふっと変な笑いが漏れてしまい、ついには燈司まで「凛、変だよ」と言われてしまった。
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