それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ 嵐の前のひと騒ぎ。

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「すっかりお疲れだわねぇ」
「今度こそ別れるって散々泣いたくせに、翌日にはもうなにごともなかったみたいにケロッとして遊びまわってるよ……」
「やっぱりね」

 営業に飛び回っている佳恵をやっと捕まえられたのは、金曜日のランチタイム。

 帰宅後は毎晩寝るまで、玲子の愚痴に付き合わされる。佳恵を相手にストレスを発散したくとも、本人を前にして電話で愚痴るわけにもいかず、私の忍耐ももう限界だ。

「家の中はきれいになるし、自分で作らなくてもおいしいご飯が食べられるのはいいんだけどさ。帰ってから遅くまでずーっとしゃべり倒されてるからもう寝不足で……やっと寝かせてもらえても、夢の中でまでしゃべられるんだよ?」

 頬杖をつき、玲子作のいちだんと豪華なお弁当を、ツンツンと箸で突きながらため息をついている私を、佳恵はフンッと鼻で笑った。

「それはさ、あんたが相手するからでしょう? 放っておけば自分から家に帰るんだから! 私があんただったら、正座させて説教して叩き出してやるわ」
「それ、言うのは簡単なんだよね……」
「あんたは甘いからねぇ。ホント、お人好し」

 眉を下げ呆れ顔でため息をつかれ、情けなさに身が縮む。

「やっぱり、お人好しなのかな?」
「だいたいあんたはね、他人に振り回されるのは懲り懲りだって言ってるくせに、言ってることとやってることが違い過ぎるわよ! はっきり言うべきことを言わないから、あの子だってあんたに甘えるのよ? わかってる?」
「だって……」
「だってじゃないでしょ!」

 大学時代、いつも一緒に遊んでいた五人の中で、甘え上手な玲子は末っ子妹の立ち位置だった。もちろんそれは、隼人と結婚したいまも変わらない。

 私はといえば、存在感の薄い次女といったところだろうか。佳恵は当然、長女だ。いつでもその行動力と切れ味の鋭い口で、私たちを引っ張ってきた。

 そういえば、五人組のうち残るもうひとりの男子はどうしただろう。あの頃、佳恵と付き合っていたはずだが、どうなったのか。ちっとも話を聞かなくなった。

「まあいいわ。それで? 隼人はなんて?」
「隼人ねぇ……。水曜日の夜、玲子が寝てから連絡したんだけど、忙しくて迎えにいけないから、週末まで預かってくれって」
「はぁ? 迎えにってなによ? 玲子にだって足があるでしょ? 足が! 隼人も隼人だわ情けない! 自分の嫁でしょう? ひと言ガツンと言って帰らせればいいだけじゃない?」
「そんなこと私に言われたって……」

 佳恵は全くどうしようもない人たちだと盛大にため息をつき、空になったコーヒーのカップをトンとテーブルに置くと、怒りを込めた声で告げた。

「わかった。あんたに訊きたいこともあるし……ちょうどいいわ。玲子は、明日帰るのよね? だったら今夜は説教大会ね! 二度と面倒かけるなって泣くまで叱ってやるわ。六時に総務まで迎えに行くから、あんた、ちゃんと待ってなさい!」

 私に訊きたいこととはなんだ。改まってなんだろうと、少々不気味に思いながらも、説教大会という名目の宅飲みを了承した。

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