それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ それは、ホントに不可抗力で。

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「だったら、だったら……」
「だったら?」
「離婚よ! 離婚しましょう!」

 顔を上げ力強く尊を見つめ、勢いに任せすぐそばにあった左手を両手でがっちりと握りしめる。冷んやりとした固い感触が掌に伝わった。視線を下ろし、恐る恐る握った手を開いてみると、その感触のありかは、左手の薬指。

「えっ?」

 ダメだ。結婚指輪ごときで、怯んではいけない。もう一度その手をぐっと握りしめ、顔を上げた。

「離婚?」
「そうです! 離婚! いますぐ、離婚しましょう!」

 怪訝そうに眉を顰める尊が「なぜ?」と首を傾げる。

「なぜって……それはほら、さっきも話したとおり、三年も音信不通だったんだし、お互いいまのままじゃ困るだろうし……」
「俺は、困らないが?」
「だ、か、ら! 私が困るって言ってるのよ!」

 つい、声を荒げてしまった。ここは冷静沈着穏便に話を進めなければ。

「そうなのか? おまえは困るのか? だったら聞くが……、どうやって離婚するんだ?」
「へ? どうやって? って?」
「わかってると思うが、俺たちの結婚はアメリカで承認されているだけで、日本ではまだ届けを出していない」
「そうよ! だから、私はまだ独身! って、えっ? 日本では? それって、どういうこと?」

 コホンと軽く咳払いをし、片眉を上げた得意げな顔。

「本来であれば、帰国してからすぐに婚姻届を提出する予定だった。それは覚えてるよな? だが、おまえは空港からそのまま行方不明……」
「うっ……それを言われると……」

 旗色が悪い。

「婚姻届が提出されていないのだから、日本の戸籍上はまだ夫婦ではない。婚姻が無いのだから、離婚もできないということだ」
「……ってことはつまり、法的には結婚してないってこと?」
「いや、さっきも言ったとおり、俺たちの結婚は正式に法律で認められている。だから日本で届け出していないのが、違法なんだよ」
「違法? マジで? じゃあ、どうすればいいわけ? どうすれば離婚できるの? またラスベガスへ行けば離婚できる?」
「向うに住んでるわけでもないのに、向こうで離婚できると思うか?」
「できないの?」
「できないね」
「だったら、どうしたら……」

 頭が痛くなってきた。

「ひとつだけ、方法がある」
「方法? どうすればいいの?」
「それは、日本で婚姻届を提出すればいい」
「はぁ? そんなこと!」

 冗談じゃない。絶対に無理。

 日本で婚姻届なんて提出したら、皆にバレてしまう。突然の結婚だけでも大騒ぎになるのは目に見えているのに、その上、即座に離婚だなんて。父と祖母がどれだけショックを受け悲しむか。想像もしたくない。

 狼狽える私の頭に手を乗せて、尊は優しく微笑んだ。

「心配するな。おまえひとりじゃ、離婚はできないからね」

 ニヤリと笑うその顔は、やはり黒かった。
 あなたさまのおっしゃる意味が、わかりません。

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