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§ 墨に近づけば黒くなる。
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尊と私の関係を問い質しに我が家へ乗り込んできた佳恵はいま、目の前で笑い転げている。それもそのはず。尊のこの出で立ちを一目見れば、きっと誰だって笑う。
昨夜から居座っている尊には、着替えが無い。だから、ラスベガス土産に購入した身長百七十センチメートル痩せ型の私愛用の部屋着を提供した。
メンズXLサイズのTシャツと、同じくLサイズの短パンジャージ。色は、どちらもかわいらしい桃色。洗濯を繰り返し、適度にクタクタになった柔らかな風合いは、着心地抜群。どうやら尊も気に入ってくれたらしい。
もちろん、長くゴツゴツした素の手足は晒され、鑑賞放題だ。
三年前もいまも、寛ぐ尊はこんな感じ。意識改革でもしてお洒落になったのかと思ったが、どうやら中身は変わっていなかったようで、ここまでかよ、と、私の戸惑いをよそに、まるっきりの無頓着ぶりを見せてくれた。
なにはともあれ、尊のこの姿は、私にとってはなんてことのないものなのだが、仕事場での尊以外を知らない佳恵には、さぞかし奇異に映るだろう。
「なあ歩夢、砂糖どこだ?」
「お砂糖? えー、三人ともブラックだから、いらないよー」
ツボにハマり止まらなくなった笑いを、大きく息をして無理矢理止めようと試みるたび、クックッと引き攣った声を出している佳恵が、顔を真っ赤にしながら手招きする。
身を乗り出し、顔を近づけると、チラチラと目だけでコーヒーを準備している尊を振り返りつつ、耳打ちしてきた。
「ねえ、あの人、間違いなくあの小林さんだよね? 小林さんの顔した別人じゃないよね?」
「なにそれ?」
「だって、なんなのあの格好? あれ、あんたの部屋着……、しかもなんで桃色?」
「仕方ないでしょ? 大きいサイズみんな洗濯しちゃっててさ、着せられるもんあれしか無かったんだわ」
と、これは、もちろん、嘘。
じつはこれ、桃色ずくめの小林統括を目の当たりにすれば、さすがの佳恵でも気が逸れて、追及の手が少しは緩むだろうとの、苦し紛れに思いついた私の策略である。
「着替えが無かったから借りたんだが、そんなに変か?」
いつの間にか佳恵の真後ろに立つ尊が、話に割り込んできた。その声に驚いた佳恵が、ビクッと首を竦める。
尊はすまし顔で佳恵の前にコーヒーカップを置き、固まっている佳恵の顔をわざわざ覗き込むようにして、冷めないうちにどうぞと、愛想を振りまく。そして、私と自分のカップ、クッキーの皿を並べ終わると、トレイを床に置き、私の隣へ座った。
「いえ、べつに……、変じゃないですけど、あんまりいつもと違うから、驚いちゃって」
笑いを怺え肩で息をする佳恵が、正面に座った尊をしげしげと眺めている。その様子と尊の平静さのギャップが、たまらなく笑える。
「ああ、いつものアレね」
尊は不服そうな顔をして、大げさにため息をつき、ベッドに背中を預けた。
そういえばそうだよね。
言われてみれば、私も不思議に思う。私の知っている以前の尊は、ちっともお洒落な人ではなかったのに、なぜ、別人のごとくキレイになってしまったのだろう。私も改めて、まじまじと尊の顔を見つめた。
昨夜から居座っている尊には、着替えが無い。だから、ラスベガス土産に購入した身長百七十センチメートル痩せ型の私愛用の部屋着を提供した。
メンズXLサイズのTシャツと、同じくLサイズの短パンジャージ。色は、どちらもかわいらしい桃色。洗濯を繰り返し、適度にクタクタになった柔らかな風合いは、着心地抜群。どうやら尊も気に入ってくれたらしい。
もちろん、長くゴツゴツした素の手足は晒され、鑑賞放題だ。
三年前もいまも、寛ぐ尊はこんな感じ。意識改革でもしてお洒落になったのかと思ったが、どうやら中身は変わっていなかったようで、ここまでかよ、と、私の戸惑いをよそに、まるっきりの無頓着ぶりを見せてくれた。
なにはともあれ、尊のこの姿は、私にとってはなんてことのないものなのだが、仕事場での尊以外を知らない佳恵には、さぞかし奇異に映るだろう。
「なあ歩夢、砂糖どこだ?」
「お砂糖? えー、三人ともブラックだから、いらないよー」
ツボにハマり止まらなくなった笑いを、大きく息をして無理矢理止めようと試みるたび、クックッと引き攣った声を出している佳恵が、顔を真っ赤にしながら手招きする。
身を乗り出し、顔を近づけると、チラチラと目だけでコーヒーを準備している尊を振り返りつつ、耳打ちしてきた。
「ねえ、あの人、間違いなくあの小林さんだよね? 小林さんの顔した別人じゃないよね?」
「なにそれ?」
「だって、なんなのあの格好? あれ、あんたの部屋着……、しかもなんで桃色?」
「仕方ないでしょ? 大きいサイズみんな洗濯しちゃっててさ、着せられるもんあれしか無かったんだわ」
と、これは、もちろん、嘘。
じつはこれ、桃色ずくめの小林統括を目の当たりにすれば、さすがの佳恵でも気が逸れて、追及の手が少しは緩むだろうとの、苦し紛れに思いついた私の策略である。
「着替えが無かったから借りたんだが、そんなに変か?」
いつの間にか佳恵の真後ろに立つ尊が、話に割り込んできた。その声に驚いた佳恵が、ビクッと首を竦める。
尊はすまし顔で佳恵の前にコーヒーカップを置き、固まっている佳恵の顔をわざわざ覗き込むようにして、冷めないうちにどうぞと、愛想を振りまく。そして、私と自分のカップ、クッキーの皿を並べ終わると、トレイを床に置き、私の隣へ座った。
「いえ、べつに……、変じゃないですけど、あんまりいつもと違うから、驚いちゃって」
笑いを怺え肩で息をする佳恵が、正面に座った尊をしげしげと眺めている。その様子と尊の平静さのギャップが、たまらなく笑える。
「ああ、いつものアレね」
尊は不服そうな顔をして、大げさにため息をつき、ベッドに背中を預けた。
そういえばそうだよね。
言われてみれば、私も不思議に思う。私の知っている以前の尊は、ちっともお洒落な人ではなかったのに、なぜ、別人のごとくキレイになってしまったのだろう。私も改めて、まじまじと尊の顔を見つめた。
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