それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都

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§ 墨に近づけば黒くなる。

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「……ねえ、そういえばさ、関口さん知ってるかな?」
「あー、アレ! 関口さんなら知ってるでしょ」
「そうだよね、一番近くに居るんだから知らないはずないよ」

 好奇心剥き出しの三人に、ちょっと怯む。チラと佳恵を見れば、パックのオレンジジュースを啜りながら、一瞬、その目を泳がせた。

「なんのはなし?」

 なにかが、おかしい。

「あのさ、ちょっと小耳に挟んだんだけどさ……」
「開発に新しい女子が入ったでしょ?」
「キレイな人だって、開発全員が色めき立ったらしいよね」
「うん。でも問題はそこじゃなくて、そのキレイ女子と小林統括がアヤシイって話!」

 唐揚げを突く箸を寸止めした。

「そうなのよ! あの小林統括がさ、その女子にだけ優しいんだって」
「驚きでしょ? 小林統括だよ? 大魔王だよ? あの怖い人が女の子に優しいなんてさー」
「やっぱりガセなのかな?」
「えー? だって、見たって人が居るんだから、本当だよきっと」

 早口で銘々勝手にしゃべる彼女たちに驚きつつも状況を察し、俯き肩を振るわせている佳恵を睨んだ。

 それも私の噂じゃないか。

「関口さんは上に居るんだから、当然知ってるよね?」
「ねえ、本当のところはどうなの?」

 この女、こうなることを知っていて。

 高みの見物をきめこむ佳恵を、いくら睨んでも仕方がない。だが、私に何が言えるのだ。

「ねえ、おしえてよぉ!」
「いいでしょぉ?」

 ランチで賑わうミーティングルームに、一際甲高い三人の声が響く。チラチラと周囲から見られている気がするのは、けっして気のせいではないと思う。

「そんなに気になるんだったらさ、いっそ見に行っちゃえば?」
「佳恵!」

 焚き付けてどうするんだ。

「えぇえーっ! だって、小林統括にバレたら……」

 美香が自分の首をシュッと切る真似と同時にタンッと舌打ちした。

「バカね。仕事で開発へ行ったとき、ついでにちょっと誰かに訊いてみればいいだけじゃない?」
「そっか……でも、開発の人ってさぁ……」
「うん。なんか変わってて話しにくいんだよね」
「そうなのよ。いつ行ってもシーンとしてて誰も話しなんてしてないし、そんな雰囲気じゃないんだもん」
「私、営業の人には訊いたことあるけど、やっぱり知らないって」

 アプリ開発チームは九階に隔離されている。八階とはほぼ交流が無いから、知らなくても不思議ではない。

「ここだけの話にするから、ねっ? 私たち、仲間でしょ!」

 そのここだけの話は間違いなく、明日には会社中に広まる。

「あ! 関口さん!」

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