わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ 手を伸ばせば先にあるもの。

03

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 俊輔と吉本さんは以前、同じ会社に勤めていた。俊輔は入社時から、その成績、ずば抜けた容姿等々、同期の中で群を抜いて目立つ存在で、上層部の覚えもめでたく将来有望、期待の星だったらしい。

 当然、そんな俊輔を女性社員が見逃すはずもなく、狙う女の子の数も両手の指が数人分でも済まないほど。信じられない話だが、陰でファンクラブまでできていたとのこと。

 吉本さんは、俊輔の三年先輩で、同じ課に所属していて仕事も一緒、親しい間柄だったそうだ。

「すごかったのよー、浅野君人気。社食でランチしてるときなんて、彼の周りはもう面白いくらい女の子ばっかりでさ。用事があって話したくても誰も近寄れないのよ、睨まれちゃって。そんなんだと男の人たちのやっかみも凄そうなものなんだけど、当然、仕事はきっちりやってるし、誰に対しても愛想は良いし話は上手だし、飲み会なんかも積極的に参加するから文句の付けどころが無いのよ。ホント、凄い子だって思ったわ」

 私は彼と同じチームで仕事してたから、視線が痛かったわよ、と、笑う彼女の顔を見て、はあそうなんですかと頷きはしたが、まるで別人の話を聞いている気分だ。

「なによ? どうかした?」
「あ、いえ、なんでも……」
「それで……まぁ、個人的な話もよくしてたのよ。あ、その頃は違うのよ? 私、その頃、彼氏いたから。浅野君は、仕事仲間というか可愛い後輩って感じだっただけで、まだそういう関係じゃなかったの」

 その頃はまだ・・……。つまり、その後、そういう関係になったわけか。


「その頃、実は、彼とあまり上手くいってなくて……はっきり言っちゃえば浮気されてたのよね。仕事に夢中で彼の気持ちの変化に気づかなくて、で、気づいたときには手遅れ? って感じでさ。それで、たまたま仕事帰りにふたりで食事したときに、つい愚痴っちゃったのよ。それからかな? ふたりで飲みに行くようになって、愚痴につき合わせたり慰めてもらったり……」

 なるほど。心の隙に付け込んで落とす戦法か。あいつならやりそうなことだ。


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