わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ 手を伸ばせば先にあるもの。

02

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「あ……」
「あれからもう随分経つのに、あなた、ちっとも変わらないのね。会社で顔を見たとき、すぐわかったわ。まさか今頃になってあなたと再会するなんて……フフッ、変な感じ。あなたは? 私のこと、まだ思い出せない? それとも、まったく眼中にもなくて覚えてすらいないのかしら?」
「…………」

 ここまで言われたら、考えられることはただひとつ。この人は、俊輔が振った相手のうちの誰かだ。

 私にとってはあいつに頼み込まれて一度顔を合わせただけの相手。彼女たちはおろか俊輔の恋愛そのものにも何の興味すら無いのだから、その相手を覚えているはずもない。

 だが、彼女たちにしてみれば、昔のこととはいえ、私は憎き恋敵。場合によっては恨み骨髄。記憶の中にはっきりと焼き付けられていたとしても不思議はない。

 私の容姿は、子供の頃とほとんど変わりがないと皆に言われる。その上、なぜか馬子にも衣装髪形という言葉も、私に限っては当てはまらない。小学校の頃に別れたきり一度も会わなかった俊輔ですら、一発で私だとわかったほどだ。

 故に、相手が覚えてさえいれば、私に気づくことは容易いこと。こちらは相手が誰なのかさっぱりわからないというのに。それにしても、なんという巡り合わせだ。非常にまずいことになりそうな予感がする。

「浅野くんは元気にしてる? ああ、そっか。あれから何年も経つものねえ。もうとっくに別れちゃった? だとしたら、いまさらよね、こんな昔話」
「えっと……あの……」

 真正面から私の目を見据え、抑揚の無い声で言葉を放つ吉本さんに狼狽え、指先が冷え掌に汗が滲んでいく。甘かった。恋人を演じる時点で、こういうことが起こる可能性を考えておくべきだった。

 今、私はこの人にどう対応すれば良いのだろう。私が偽物の恋人であったことを告げるべきか。それとも、何も言わずにいるべきか。どちらにしろ申しわけないことをしたのは確かだ。

 いくらプライベートしかも昔のこととはいえ、彼女相手にその場凌ぎのいい加減なことはできない。誠心誠意謝罪をして、たとえこの場で罵倒されても、それを甘んじて受けねばなるまい。何を言われるのか。私は膝に置いた手を握りしめ、じっと次の言葉を待った。

「やだ。冗談よ、冗談! ちょっと揶揄っただけなんだから、そんな怖い顔しないで」

 吉本さんは口元に手を添え、さもおかしそうにクスクスと笑っている。

「あの……あのときはすみませんでした。正直、覚えてるかって言われると困るんですけど……申しわけないことをしたのは確かなので」
「どうしてあなたが謝るの? あなたはただ浅野君に連れられて私に引き合わされただけで、別に何かしたわけじゃないでしょう? それとも、何か謝る必要のあることをしたとでも言うの? たとえそうだとしても、あんな大昔の話、いまさら蒸し返したところで、どうなるものでもないし……」
「それは……」
「それに……敢えて言えば私、あのときあなたに会えて、寧ろ感謝してるくらいだわ」
「え?」
「藤本さん、本当に何も覚えてないのね? でも……そうか、浅野くんのことだから、きっと何も話してないのね」
「あの、どういうことですか?」
「聞きたい?」
「はい。聞かせていただけるのでしたら」
「まあ、いいわね、話しても。もうとっくに終わったことだし……」


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