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プロローグ
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「エマ。俺と別れて欲しい」
秋の姿を感じ始めた、穏やかな休日の午後。婚約者が――ランドル侯爵家の嫡男・ケヴィン様が突然やって来て、予想外なことを言い出した
「…………ケヴィン様。どうしてなのでしょうか?」
私達は1週間前に婚約したばかりで、しかも、付き合い始めた切っ掛けはこの方の一目惚れ。これまでずっと『君以外あり得ない』『幸せにする』と仰られていたのに、別れてくれだなんて。どういうことなの?
「…………エマ。リナスを知っているだろう?」
「はい。存じ上げております」
リナス・ファスル。その方は17歳でありウチと同じ子爵家の令嬢で、ケヴィン様を『お兄様』と慕う幼馴染。彼の妹のような存在ということで何度もお茶や食事を共にしていて、よく覚えている。
「そのファスル様が、どうされたのでしょう?」
「俺は、リナスと婚約、結婚をすることにした。だから、君との関係を解消したいんだ」
――改めて婚約の報告をしに行ったら、急に泣き出した――。
――涙の理由を聞くと、秘めていた想いを語り始めた――。
――彼女はずっと、俺を愛していた――。
――好きな人が幸せになることは嬉しいけど、自分から離れてしまうことが悲しかった――。
――ポロポロと流れる涙とそんな言葉を見て聞いていたら、リナスの認識が変わっていった――。
――ライクが、ラブになっていった――。『妹』が『女性』へと変わっていった――。
――こんなにも愛してくれている人を、放っておけなくなった――。
――誰よりも愛おしくなった――。
それが、こう言い出した理由だそう。
「……今朝ようやく気持ちが固まり、父さんに伝えたんだ。そうしたら賛成してくれて、スムーズに移行するには現婚約者が同意した上での解消が必要と言われてね。こうしてこの場を訪れたんだよ」
ケヴィンの父親リナス・ファスルをいたく気に入っていたし、親バカな方。侯爵家の当主とは思えない判断だけれど、紛れもない事実なのだと理解できた。
「エマ。今の俺は、リナスしか愛するつもりがないんだ。この選択ミスを、どうにかしたいんだ。だから、すまない。同意をしてくれ」
「…………そういう事、だったのですね。分かりました」
「っ! エマっ、それじゃあっ!」
「ええ、お望み通りに致します。お父様には私から、解消の旨を伝えておきますよ」
交際中の彼は素敵な人で、あの日々は楽しかった。良い思い出ばかりだった。
けれど――。この人にとって私との関係は、『選択ミス』なんですもの。
好意なんて、泡沫のように消えた。どうぞ何もかも、ご自由になさってください。
「とはいえこれは、こういった口頭で済ませられる問題ではありません。解消には当主同士の正式な会話も必要ですので、あとでランドル邸を伺わせていただきます」
「おおそっちから来てくれるのかっ、助かるっ! 感謝する!!」
「お礼なんて要りませんよ。私達は他人となりますので、用が済みましたらこの部屋から出て行っていただ――」
「もちろん、こんな場所はすぐ去るさ! リナスに報告をしないといけないからね!!」
どこまでも自分勝手なケヴィン。彼は上機嫌でこの場から立ち去り、足早に馬車へと乗り込む。
そうして、彼を乗せた車は即座に動き始め――。私はそんなせわしない馬車を窓から眺めながら、こう呟いたのだった。
「これから貴方はきっと、色々と苦労すると思うけど――。最愛の人が原因なら、我慢できるわよね? 末永くお幸せに」
秋の姿を感じ始めた、穏やかな休日の午後。婚約者が――ランドル侯爵家の嫡男・ケヴィン様が突然やって来て、予想外なことを言い出した
「…………ケヴィン様。どうしてなのでしょうか?」
私達は1週間前に婚約したばかりで、しかも、付き合い始めた切っ掛けはこの方の一目惚れ。これまでずっと『君以外あり得ない』『幸せにする』と仰られていたのに、別れてくれだなんて。どういうことなの?
「…………エマ。リナスを知っているだろう?」
「はい。存じ上げております」
リナス・ファスル。その方は17歳でありウチと同じ子爵家の令嬢で、ケヴィン様を『お兄様』と慕う幼馴染。彼の妹のような存在ということで何度もお茶や食事を共にしていて、よく覚えている。
「そのファスル様が、どうされたのでしょう?」
「俺は、リナスと婚約、結婚をすることにした。だから、君との関係を解消したいんだ」
――改めて婚約の報告をしに行ったら、急に泣き出した――。
――涙の理由を聞くと、秘めていた想いを語り始めた――。
――彼女はずっと、俺を愛していた――。
――好きな人が幸せになることは嬉しいけど、自分から離れてしまうことが悲しかった――。
――ポロポロと流れる涙とそんな言葉を見て聞いていたら、リナスの認識が変わっていった――。
――ライクが、ラブになっていった――。『妹』が『女性』へと変わっていった――。
――こんなにも愛してくれている人を、放っておけなくなった――。
――誰よりも愛おしくなった――。
それが、こう言い出した理由だそう。
「……今朝ようやく気持ちが固まり、父さんに伝えたんだ。そうしたら賛成してくれて、スムーズに移行するには現婚約者が同意した上での解消が必要と言われてね。こうしてこの場を訪れたんだよ」
ケヴィンの父親リナス・ファスルをいたく気に入っていたし、親バカな方。侯爵家の当主とは思えない判断だけれど、紛れもない事実なのだと理解できた。
「エマ。今の俺は、リナスしか愛するつもりがないんだ。この選択ミスを、どうにかしたいんだ。だから、すまない。同意をしてくれ」
「…………そういう事、だったのですね。分かりました」
「っ! エマっ、それじゃあっ!」
「ええ、お望み通りに致します。お父様には私から、解消の旨を伝えておきますよ」
交際中の彼は素敵な人で、あの日々は楽しかった。良い思い出ばかりだった。
けれど――。この人にとって私との関係は、『選択ミス』なんですもの。
好意なんて、泡沫のように消えた。どうぞ何もかも、ご自由になさってください。
「とはいえこれは、こういった口頭で済ませられる問題ではありません。解消には当主同士の正式な会話も必要ですので、あとでランドル邸を伺わせていただきます」
「おおそっちから来てくれるのかっ、助かるっ! 感謝する!!」
「お礼なんて要りませんよ。私達は他人となりますので、用が済みましたらこの部屋から出て行っていただ――」
「もちろん、こんな場所はすぐ去るさ! リナスに報告をしないといけないからね!!」
どこまでも自分勝手なケヴィン。彼は上機嫌でこの場から立ち去り、足早に馬車へと乗り込む。
そうして、彼を乗せた車は即座に動き始め――。私はそんなせわしない馬車を窓から眺めながら、こう呟いたのだった。
「これから貴方はきっと、色々と苦労すると思うけど――。最愛の人が原因なら、我慢できるわよね? 末永くお幸せに」
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