私との婚約は、選択ミスだったらしい

柚木ゆず

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第5・5話(2) 想う理由と、安堵 ルシアン視点

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 俺の初恋は十八と遅く、そして、突然だった――。

「ぅ……っ。ごぼ……っ」

 それは、かつて我が国に留学していた友の――隣国の侯爵家主催のパーティーでのこと。恐らく、かなり無理をしていたのだろう。参加してた子爵家の令嬢が、吐きながら崩れ落ちてしまったのだ。

「きゃぁぁぁっ!」
「まぁ……っ! 大丈夫かしら……」
「心配、ですわね……」

 すぐにそういった声が上がるが、周囲の人間は誰も助けようとしない。なぜならその令嬢は、吐瀉物でまみれているから。汚いから、自分が汚れてしまうから。

((くっ、彼女は倒れているんだぞ! 周りの者達は何をやっているんだっ!?))

 俺は少々離れた地点にいたため、舌打ちをしながら床を蹴る。そうしてその令嬢へと駆け寄って――いる最中、だった。

「ご安心くださいっ。大丈夫ですよっ」

 一人の令嬢が――エマ・サーレルという名の令嬢がしゃがみ込み、介抱を始めた。

「ぅ……。ぅぅ……。ごめ、な、さい……」
「困ったら助ける、当然のことです。私はお医者様ではありませんが、応急処置の知識はございます。心配要りませんよ」

 ドレスに吐瀉物が付着しても、悪臭が漂っていても、一切気にしない。相手を気遣う笑顔を作り、背中を支えつつ励ましの言葉を送る。

「お熱があるようですので、風邪が原因だと思います。休息をとれば、すぐに治りますよ」

「私は昔体が弱く、もどすこともありました。誰にでも起きる可能性のあることの一つです。少しも恥ずかしいことではありませんよ」

 あのような姿。あのような表情。このような声。
 それらを見て聞いてしまったのだから、その結果は至当といえる。俺はこの瞬間、エマ・サーレルという人に恋をしてしまったのだ。


 だが――。


 残念なことに、その数日前に告白をされていたと知る。ランドル侯爵家のケヴィンという相手がいることを、知った。
 そのため俺はこの感情に蓋をして、彼女の幸せを願うと決めたのだった――。


 〇〇


((よかった。エマ様はお元気そうだ))

 パーティー会場で挨拶を行い、彼女と別れたあとのこと。その際の様子を振り返り、俺は密かに安堵の息を吐いていた。
 相手に幻滅したとはいえ、裏切られた事実はある。その傷が心配だったが、直接確認をしてみた結果、そういったものは一切感じられなかった。

((……客観的に見て……。これなら、挑戦できそうだ))

 念のため更に数回様子を確認し、間違いなく不愉快を生んでしまうことはないと確信する。

 ――あの時できなかった、一歩を踏み出してもいい――。
 ――あの日心にはめた蓋を、はずしてもいい――。

 できることなら、すぐ動き出したい。けれど今は、友人を祝うパーティーの最中だ。
 そのため気持ちを抑え、動くのは別の機会にすると決める。俺は後日、彼女が住む邸宅を訪れることにしたのだった。

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