私を利用するための婚約だと気付いたので、別れるまでチクチク攻撃することにしました

柚木ゆず

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第10話 束の間の喜び エリック視点

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「………………」

 部屋の中央で天井を眺めていたら、いつの間にか窓から斜陽が差し込んでいた。

「………………」

 あれからどのくらい、俺はこうしていたのだろう。

 リウ……。最愛の人……。

 大事な人を失ってしまってから、何時間経ったのだろう?
 途中で父さんが入ってきた気がして、何か呟いて追い返した気がするが……。よく分からない。
 いや。違う。今の俺は、全てにおいて分かろうとしてはいないんだ。

 どうでもいい。
 なにもかも、どうでもいい。

 リウがいなくなった日常は、無味で。心にぽっかりと穴が開いたようで。
 葡萄畑がどうだとか製造所がどうだとかも、興味がなくなってしまった。

「………………………」

 そういえば。業者と流通ルートの相談などをしたりしていたし、始末屋に話をつけていたりもした。
 だけどそれももう、どうでもいい。
 儲け話を考えるのは、あんなのに楽しかったのに。あの親子を殺して所有権を得る時が、あんなにも楽しみだったのに。

 何の感情も湧かない。

 今し方の出来事が、俺からあらゆる『人らしさ』を奪ってしまったようだ。

「………………………」

 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。

「………………………」

 気が付いたら更に時間が経っていたようで、窓の外は真っ暗。知らぬ間に太陽が沈んでいたらしく、室内も黒一色になっていた。

「………………………………夜、か。そういえば、去年の今頃。こんな時間に、リウに告白したんだったな」

 昔から葡萄畑に目を付けていて、ずっと結婚をして奪い取るつもりだった。だから他者との交際は危険。避けなければならないことだったのだけれど、彼女を見つけてしまったんだ。
 パーティーで偶然出会ってから恋に落ちるまで、一瞬だった。爆発的な速度で俺の中はリウ・マーズで一杯になり。リスクを承知で全てを伝え、交際を始めた。

「……彼女は、利口で……。俺の企みを知っても、白い眼をしなかった。いい作戦だと笑ってくれた」

 俺達は、相性ピッタリ。最高のカップルで、やがては最高の夫婦になることは確定的だった。

「……でも今日、その未来は崩壊した……」

 どこで俺は、間違ってしまったのだろうか?

「…………悲劇の始まりは、一週間前。アイツに引き留められて、リウとの食事に遅れた時なんだろうな……」

 あの時、『一族と一族だけの、内密な話があるから』とでも言っておけばよかったんだ。間抜けに動揺してしまったから、こうなってしまったんだ。

「…………あの日に、戻りたい……。戻って、リウと一緒の毎日を取り戻したい……」

 俺には、彼女が必要なんだ。今の俺は、彼女が生き甲斐なんだ。

「また、笑顔のリウに会いたい……。…………神様、ご先祖様、さっきは申し訳ありませんでした……。心から謝罪をしますから……。願いを叶えてください……」

 理不尽に罵ってすみません。反省、していますので。
 奇跡を起こして、リウと会わせてください。

「お願いします。お願いします……っ。お願いします……っっ。どうか、どうか……っっっ。最愛の人と、再び会わせてください――」
「エリック……」

 涙を流しながら懇願していると、部屋の扉が独りでに開いて――。ツリ目が可愛らしい世界一の美少女、リウが入ってきた。

「ぁ、ぁぁ……っ。やった……っっ。やった……っっっ」

 頬っぺたをつねっても、痛みはある。これは夢じゃない!
 きっと彼女は、言い過ぎたと感じてっ。これまで共に過ごした日々を思い出してくれてっ! ヨリを戻しに来てくれたんだっっ!!

「ありがとうっ! ありがとうっ! 俺も、ずっと会いたかったよ――」
「ははは。それはよかった。わたしもずっと、貴様に会いたかったぞ」

 ……え……?
 大急ぎで駆け寄っていると、新たな人物が入ってきた。
 コイツは――この御方は、マティス・グエールズ大公。どうして閣下がこんな場所に――ぇ?

「「エリック……」」

 閣下、だけじゃない。父さんと母さん…………閣下の兵士に拘束された二人が、現れて……。最後には――

「エリックさん。昨日ぶりですね」

 ――最後には……。リナ・サーハルが、入ってきた。

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