隣にある古い空き家に引っ越してきた人達は、10年前に縁を切った家族でした

柚木ゆず

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プロローグ ジュリエット・バワウット視点(1)

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「かんぱいっ!」
「かんぱいっ!」

 8月19日。今日はガスパールくんとわたしにとって、とても大事な日。特別な記念日を祝うグラスの音色が、ディナーを始めたダイニングに心地よく響き渡りました。

「あれから、もう10年になるんだね。短かったような長かったような、振り返ってみると不思議な気分になるわ」
「……そうだね、あの日からもう10年。色んなことがありすぎちゃって、ごちゃまぜになっちゃうね」

 今から10年前の8月19日――わたし達が17歳で、わたしがラオイア男爵令嬢の長女リーリス、ガスパールくんがラオイア家のシェフ見習いオルズくんだった頃。人生が一変する出来事が発生しました。

((大変……! お父様達は、オルズくんを売ろうとしている……!!))

 子どもであるわたしが呆れてしばしば苦言を呈するほどに、お父様とお母様はお金遣いが荒く――そんな二人の影響を受けて、1つ下の妹リノンエもそっくりな人間に成長してしまいました。
 4人中3人が後先考えず使う。
 どう考えても入って来るより出ていく額の方が多く、ご先祖様が遺してくださっていたものを日々消費していっている状態。いわずもがなそちらは有限で、案の定『貯蓄の底』が見え始めてきてしまいました。

 ――マズイ、なんとしないと――。
 ――金を生む方法はないか?――。
 ――そうだ、オルズを売ろう――。
 ――若いし顔が良いから高値が付くぞ――。

 オルズくんのお父様であるロードンさんは病気で亡くなられてしまったウチの元チーフシェフで、彼は生前の約束によってウチで引き取り住み込みで働くようになった天涯孤独の子。身寄りがなく処理を非常にしやすいため目をつけられ、崖から落下して死んだように見せかけて売ろうとしていたのです。

((なんとことを……。止めないといけない、けど……。もう、無理ですね……))

 わたしが知ったら反対するため、この計画はお父様とお母様とリノンエの間だけで共有されて進められてきた。酔った拍子にお父様がうっかり一片を零しわたしが悟った頃には計画が最終段階に入っていて、使用人達も全員買収済みでした。
 親族を頼れるのなら話は変わるのですが、あの人達はお父様と似たようなもの。味方になってくれる人はおらず、阻止は不可能だったのです。

((力づくで止められないし、公にもできないようになっている……。…………なら、逃げるしかありませんね))

 力のない正義は、無力。子どもであるわたしには戦うことができず、部屋にある貴金属を――かつておじい様とおばあ様にいただいたものを持って、夜中にコッソリとお屋敷を抜け出したのです。

(リーリス様っ、これでは貴方様の人生も滅茶苦茶になってしまいます! 脱出させていただいただけで充分ですのでお戻りください!!)
(駄目、何のツテもない子どもが一人で生きてなんていけないわ。……『人生を終える時、自分の人生を心から誇れるような生き方をしなさい』、だもの。オルズくんを放っておけないし、あんな人達と一緒には居られないわ)

 今は亡きおばあ様の口癖を教訓として生きてきていましたし、自分のために他者の人生を平然と狂わせられる人達と一緒に居たくないし、5年も一緒に過ごしてきた人を見捨てられない。
 そんな理由であの日わたしは、ラオイアの姓を喜んで捨てて――


 
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