見える私と聞こえる転校生

柚木ゆず

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第12話 届いて 真鈴視点(3)

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「ママ。パパだよ。パパが言ってる」

 最初に反応したのは、春斗くん。水前寺くんを見つめながら、何度も何度もコクコク頷いた。

「だって松久選手のサインのことって、誰にも言ってないもん! サインをもらったのは言ってるけどサインをもらってきてくれたのは言ってない! 知ってるからパパなんだよっ!」
「………………」
「それにほらっ、喋り方がパパだしっ。途中で、何回も『うん』って言ってる! パパが話してるみたいだった! 全部パパだよっっつ! パパなんだよパパ!」

 水前寺くんは、内容だけじゃなくて喋り方まで本人を真似してる。話し方の特徴とか癖は、家族が一番知ってるよね。

「前に来た悪いやつはこんな風に言わなかった! 悪いやつと全然違うよ! 僕、お兄ちゃんとお姉ちゃんを信じるっ! ママも信じようよっ!」
「私も、裕介さんが身体を借りて喋っているように感じました。本人から聞かないとここまでできませんよ」
「澄香もっ。裕介おじちゃんだと思いましたっ」
((……やっぱりすごいよ、水前寺くん))

『自分の中で言い換えてしまったら、ちゃんとその人の気持ちが100パーセント届かないと思うんですよ。一度しっかり伝えられなかった時に、後悔しまして……。元々記憶力はよかったのですが、入院中に更に記憶力を高められるように特訓したんです』

 どこまでも、相手のことを考えてる。
 すごい、よね。こんなにも優しい人、見たことないよ。

「ママ」「奈々子さん」「奈々子おばちゃん」

 春斗くんと穂波さんと澄香ちゃん。3人の視線が奈々子さんに向く。
 これだけ情報があって知り合いや子どもがこう言っているのなら、きっと――

「…………信じれないわ」

 ――…………駄目、だった。
 奈々子さんは、首を右と左に振った。

「ママっ!?」「奈々子さん……」「奈々子おばちゃん……」
「裕介くんの喋り方とそっくりだったし、わたし達しか知らないことも知っていた。分かってる! 分かってるけど……。それでも、信じられない……。だってこの子達に幽霊が見えてるかなんて、証明できないんですもの……。あの時とは違うやり方でわたしを――わたし達を騙そうとしてるかもしれない。目に見える証拠がないと、信じられないわ……」

 頭の中が、ごちゃごちゃになってるんだと思う。奈々子さんは頭をかきむしって涙を流し、苦しそうに身体を揺らして――

「分かりますよ。その気持ち」

 ――私は気が付くと、ひとりでにそう言っていた。

「一回、嫌な――滅茶苦茶辛いことがあると、信じられなくなりますよね。私もずっと、そうでした」

 小学生の頃に親友に『幽霊が見えるんだ』って伝えて、気持ち悪がられて、言いふらされて、学校中に広まって、ひとりぼっちになって、いっつも泣いていて。

 苦しかった。

 言葉では表しきれないくらい、キツかった。
 だから、どうしても信じられなかった。

『転校生だよねっ? ヨロシク! あたし、佐々岡林檎っていうんだ! 仲良くしてね~っ!』

『真鈴ちゃんって呼んでいい? 呼ぶね! 困ったことがあったら何でも聞いてよ! ガンガン答えるから!』

『そうそう、そうだよ。こないだ帰り道で助けたけがをした子猫、ウチで引き取ることにしたんだ。一人ぼっちで放っておけなかったからさ~!』

 林檎は転校してきた私に親切にしてくれた、誰にでも優しい女の子。
 林檎だけじゃなくて、転校してから沢山の友達ができた。みんな良い人だった。
 でも。
 誰にも幽霊の話はしなかった。だって、怖いから。前みたいに急に態度が変わってしまうかもしれないって思いがあって、林檎たちを心から信じられなかったから。

「……あなた……」
「私達が幽霊を見えて声が聞こえる、その証拠を出すことはできません」

 私が見えている景色をそのまま見せるなんてできないし、水前寺くんが聞こえている音をそのまま聞かせるなんてできないから。

「でも、それに近いものならお見せできます。今日は――準備が必要なので、明日になります。明日、また伺わせてください」
「………………わ、分かりました」

 よかった。『次』のチャンスがある。

「ありがとうございます。またお邪魔します」

 今はこれ以上、何も言えないもんね。水前寺くん、穂波さん、澄香ちゃんにお礼を言って、私達は北山家を出たのでした。
 そうして解散をしたあと、私は急いで家に戻って――


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