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第2話 撤回の理由 フェルナン視点(1)
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((よし、上手くいったぞ。これで『選択ミス』をなかったことにできた))
パーティー終了後。表向きは被害者であるジュリーを馬車へと送りながら、俺は心の中でほくそ笑んでいた。
アンリエット――アロメリアス伯爵家との政略的な婚約は、珍しく犯してしまった判断ミスだった。
確かにアロメリアス伯爵家が所有する山や畑は非常に魅力的だし、アンリエットは顔も身体も良い100点の女だった。
だが1か月前に招待されたパーティーで、もっと『上』の存在を見つけた。
隣国にあるヴァーラリアス伯爵家の長女、マリア。ヴァーラリアス家が所有する漁船を上手く使えば遥かに良い利益をあげられるし、マリア自身も120点の顔と身体を持っていた。
そういった理由でどうにかアンリエットを捨て、マリアを新たな婚約者とする手段を考えていたのだ。
((そんな時、この女――学院時代から密かにアンリエットに嫉妬していたジュリーの存在を思い出し、接触して利用することにした))
嫉妬に狂った女ほど、操りやすいものはない。
利害が一致していると気付くや、コイツは嬉々として協力すると言ってきて――
(フェルン様。ひとつ心配事がありますの)
――噂をすればなんとやらだ。鼻で笑っていたら、ジュリーがこちらを向いた。
(心配事? なんだ?)
(アンリエットがわたくしに嫌がらせをしていた、その明確な証拠はなくていいと仰りましたが……。本当に、それでよろしいのでしょうか? 貴方様が見て聞いたと主張するだけでは、弱いのではないのでしょうか……? いずれわたくしが、嘘を吐いていると疑われるのではないでしょうか……?)
だから事前にわたくしが用意していた、捏造した嫌がらせの証拠を使いませんか? 周囲を見回し盗み聴きを警戒しながら、そんな提案をしてきやがった。
(はぁ。そんなものは不要で、そいつは即刻破棄しろと言ったはずだぞ。……いいか、ジュリー。捏造はどんなに巧妙に準備しても、所詮は偽物。徹底的に調べたら何かしらが露見し、墓穴となりかねないんだ)
(そ、それはそうなのですが……。さきほど――)
(ああ、少々予想外の出来事があったな。だがそれも恐れることはない。お前が勝手に用意していたあの物的証拠を使わなくても、この計画を貫けば最後まで問題なく進める)
というのは、半分ウソ。
当然物的証拠があった方がいいに決まっているし、俺が用意すれば本物同然な捏造の証拠を作れる。しかしながらそうすると、『もしも』の時にトカゲの尻尾切りができなくなる。『フェルナンはジュリーに騙されていた』として被害者のひとりになれないから、これでいいのだ。
(お前はこれから先も、何も考えず俺のシナリオ通り動いていればいい。アンリエットをどん底に陥れたいのならば、余計な自我を――)
「フェルナン! こんなところに居たのかっ! 早々だが場所を移そうっ! お前に知らせたい大ニュースがあるのだ!!」
余計な自我を持つな。改めてピシャリと釘を刺そうとしていたら、父上が満面の笑みで走り寄って来た。
わざわざパーティー会場に来るだなんて、よほど良いことがあったみたいだな。いったい、なにがあった……?
パーティー終了後。表向きは被害者であるジュリーを馬車へと送りながら、俺は心の中でほくそ笑んでいた。
アンリエット――アロメリアス伯爵家との政略的な婚約は、珍しく犯してしまった判断ミスだった。
確かにアロメリアス伯爵家が所有する山や畑は非常に魅力的だし、アンリエットは顔も身体も良い100点の女だった。
だが1か月前に招待されたパーティーで、もっと『上』の存在を見つけた。
隣国にあるヴァーラリアス伯爵家の長女、マリア。ヴァーラリアス家が所有する漁船を上手く使えば遥かに良い利益をあげられるし、マリア自身も120点の顔と身体を持っていた。
そういった理由でどうにかアンリエットを捨て、マリアを新たな婚約者とする手段を考えていたのだ。
((そんな時、この女――学院時代から密かにアンリエットに嫉妬していたジュリーの存在を思い出し、接触して利用することにした))
嫉妬に狂った女ほど、操りやすいものはない。
利害が一致していると気付くや、コイツは嬉々として協力すると言ってきて――
(フェルン様。ひとつ心配事がありますの)
――噂をすればなんとやらだ。鼻で笑っていたら、ジュリーがこちらを向いた。
(心配事? なんだ?)
(アンリエットがわたくしに嫌がらせをしていた、その明確な証拠はなくていいと仰りましたが……。本当に、それでよろしいのでしょうか? 貴方様が見て聞いたと主張するだけでは、弱いのではないのでしょうか……? いずれわたくしが、嘘を吐いていると疑われるのではないでしょうか……?)
だから事前にわたくしが用意していた、捏造した嫌がらせの証拠を使いませんか? 周囲を見回し盗み聴きを警戒しながら、そんな提案をしてきやがった。
(はぁ。そんなものは不要で、そいつは即刻破棄しろと言ったはずだぞ。……いいか、ジュリー。捏造はどんなに巧妙に準備しても、所詮は偽物。徹底的に調べたら何かしらが露見し、墓穴となりかねないんだ)
(そ、それはそうなのですが……。さきほど――)
(ああ、少々予想外の出来事があったな。だがそれも恐れることはない。お前が勝手に用意していたあの物的証拠を使わなくても、この計画を貫けば最後まで問題なく進める)
というのは、半分ウソ。
当然物的証拠があった方がいいに決まっているし、俺が用意すれば本物同然な捏造の証拠を作れる。しかしながらそうすると、『もしも』の時にトカゲの尻尾切りができなくなる。『フェルナンはジュリーに騙されていた』として被害者のひとりになれないから、これでいいのだ。
(お前はこれから先も、何も考えず俺のシナリオ通り動いていればいい。アンリエットをどん底に陥れたいのならば、余計な自我を――)
「フェルナン! こんなところに居たのかっ! 早々だが場所を移そうっ! お前に知らせたい大ニュースがあるのだ!!」
余計な自我を持つな。改めてピシャリと釘を刺そうとしていたら、父上が満面の笑みで走り寄って来た。
わざわざパーティー会場に来るだなんて、よほど良いことがあったみたいだな。いったい、なにがあった……?
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