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プロローグ
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「あの日から、ちょうど1年経っていたのですか。随分前のことに感じますね」
4月9日のお昼。テルエス子爵家邸の2階――自室で過ごしていた私は、卓上に置いてあるカレンダーを眺めていました。
去年の4月9日。それは私にとって、非常に大きな事件が起きた日でした。
『エメリー。お前との婚約を解消する』
11か月前に夜会で知り合って交際が始まり、3か月前に婚約者となっていたオーレン伯爵家のガエル様。愛していた人に、突然別れを宣告されたのです。
『ガエル、さま……。理由は、なんなのでしょうか……?』
『レステラ侯爵家の長女、ファスティーヌ様。あの御方が、俺に好意を抱いてくださっていた。昨夜秘めた想いを打ち明けてくださり、そう知ったからだ』
『そうして俺はファスティーヌ様を詳しく知る機会を得て、更に理解をした。あの御方は家柄だけでなく内外共に、お前よりも優れているのだとな』
『…………』
『わざわざ2番を選ぶ酔狂なヤツはいない。そこで、今日でお前との縁は切る。お前なんかに会いに来ることは、二度とない』
真の愛と出逢えた記念に、慰謝料は言い値で払ってやる――。だから双方の合意のもとの解消にしろ――。話は以上で終わりだ――。彼は一方的にそう告げると、一度も振り返ることなく去って行ったのです。
『…………そんな……。そんな……』
こういったことを平然と仰る方だとは知らず、離縁自体は良い出来事でした。ですが……。
――裏切られた――。
その事実が辛くて苦しくて、ショックで私は暫く寝込むことになってしまったのです。
「……あの頃は、酷く落ち込んでしまっていて。毎日が真っ暗でした」
でも。突如闇が訪れてしまったのなら、突如光が訪れてくれることもあるのですね。
その日から2か月後に、ある出会いが待っていました。
『突然失礼致します。僕はこの国に属するルクナ侯爵家の長男、ベルナールと申します』
『え……? はっ、はいっ! 私はこの国のテルエス子爵家の一人娘、エメリーと申します……っ。ど、どうされたのでしょうか……!?』
『お顔の色と表情が気になってしまい、お声をかけさせていただきました。余計なお世話かもしれませんが――。こうしてお会いしたのも、何かの縁でしょうし。よろしければ僕を、貴方のお話相手にさせてはいただけないでしょうか?』
お父様とお母様が『気晴らしに』と提案してくださって、この国の西部にある景色と空気が綺麗な場所を訪れていた時でした。この場所を好かれているベルナール様が偶然いらっしゃられていて、私の日常は再び一変することになります。
無条件で安心できてしまう、優しいお声。心と体を包み込んでくださるような、柔らかく温かな眼差し。そして――。初対面にもかかかわらずお声をかけてくださる、そのお人柄。
それらに触れさせていただいたのですから、そうなるのは当然でした。時間の経過と共に心は明るくなっていって、またお会いしたくなって。勇気を出してお願いをしたら快く受け入れてくださって、ベルナール様とのご縁が生まれました。
そうして同じ時を過ごしていくうちに、『人』として抱いていた好意はやがて『異性』としての好意に姿を変えて。幸せなことに、ベルナール様もやがて、私を好きになってくださって。
真っ暗だった毎日は眩しく輝くものになって、とても幸せで充実した――あの日から1年経ったと忘れてしまうほどに、幸福に満ちた日々を過ごせるようになっていたのです。
「……ベルナール様。こうして普段通りに4月9日を迎えられたのは、貴方様の存在があるからです。いつもありがとうございます」
左手の薬指にあるリング――先日いただいたエンゲージリングに感謝をお伝えし、ドアへと歩き出します。
今日はお庭でお茶をするお約束をしていて、あと三十分程でいらっしゃられます。ですのでそろそろ、お茶の準備を――
「エメリーっ! 俺だっ!! オーレン伯爵家のガエルだっ!! エメリーに会いに来たんだっ! 俺の話を聞いてくれっ、俺に会ってくれっ!! 助けてくれっ!!」
――お茶の準備をしようと思っていたら、窓の外から大声が響いてきたのでした。
4月9日のお昼。テルエス子爵家邸の2階――自室で過ごしていた私は、卓上に置いてあるカレンダーを眺めていました。
去年の4月9日。それは私にとって、非常に大きな事件が起きた日でした。
『エメリー。お前との婚約を解消する』
11か月前に夜会で知り合って交際が始まり、3か月前に婚約者となっていたオーレン伯爵家のガエル様。愛していた人に、突然別れを宣告されたのです。
『ガエル、さま……。理由は、なんなのでしょうか……?』
『レステラ侯爵家の長女、ファスティーヌ様。あの御方が、俺に好意を抱いてくださっていた。昨夜秘めた想いを打ち明けてくださり、そう知ったからだ』
『そうして俺はファスティーヌ様を詳しく知る機会を得て、更に理解をした。あの御方は家柄だけでなく内外共に、お前よりも優れているのだとな』
『…………』
『わざわざ2番を選ぶ酔狂なヤツはいない。そこで、今日でお前との縁は切る。お前なんかに会いに来ることは、二度とない』
真の愛と出逢えた記念に、慰謝料は言い値で払ってやる――。だから双方の合意のもとの解消にしろ――。話は以上で終わりだ――。彼は一方的にそう告げると、一度も振り返ることなく去って行ったのです。
『…………そんな……。そんな……』
こういったことを平然と仰る方だとは知らず、離縁自体は良い出来事でした。ですが……。
――裏切られた――。
その事実が辛くて苦しくて、ショックで私は暫く寝込むことになってしまったのです。
「……あの頃は、酷く落ち込んでしまっていて。毎日が真っ暗でした」
でも。突如闇が訪れてしまったのなら、突如光が訪れてくれることもあるのですね。
その日から2か月後に、ある出会いが待っていました。
『突然失礼致します。僕はこの国に属するルクナ侯爵家の長男、ベルナールと申します』
『え……? はっ、はいっ! 私はこの国のテルエス子爵家の一人娘、エメリーと申します……っ。ど、どうされたのでしょうか……!?』
『お顔の色と表情が気になってしまい、お声をかけさせていただきました。余計なお世話かもしれませんが――。こうしてお会いしたのも、何かの縁でしょうし。よろしければ僕を、貴方のお話相手にさせてはいただけないでしょうか?』
お父様とお母様が『気晴らしに』と提案してくださって、この国の西部にある景色と空気が綺麗な場所を訪れていた時でした。この場所を好かれているベルナール様が偶然いらっしゃられていて、私の日常は再び一変することになります。
無条件で安心できてしまう、優しいお声。心と体を包み込んでくださるような、柔らかく温かな眼差し。そして――。初対面にもかかかわらずお声をかけてくださる、そのお人柄。
それらに触れさせていただいたのですから、そうなるのは当然でした。時間の経過と共に心は明るくなっていって、またお会いしたくなって。勇気を出してお願いをしたら快く受け入れてくださって、ベルナール様とのご縁が生まれました。
そうして同じ時を過ごしていくうちに、『人』として抱いていた好意はやがて『異性』としての好意に姿を変えて。幸せなことに、ベルナール様もやがて、私を好きになってくださって。
真っ暗だった毎日は眩しく輝くものになって、とても幸せで充実した――あの日から1年経ったと忘れてしまうほどに、幸福に満ちた日々を過ごせるようになっていたのです。
「……ベルナール様。こうして普段通りに4月9日を迎えられたのは、貴方様の存在があるからです。いつもありがとうございます」
左手の薬指にあるリング――先日いただいたエンゲージリングに感謝をお伝えし、ドアへと歩き出します。
今日はお庭でお茶をするお約束をしていて、あと三十分程でいらっしゃられます。ですのでそろそろ、お茶の準備を――
「エメリーっ! 俺だっ!! オーレン伯爵家のガエルだっ!! エメリーに会いに来たんだっ! 俺の話を聞いてくれっ、俺に会ってくれっ!! 助けてくれっ!!」
――お茶の準備をしようと思っていたら、窓の外から大声が響いてきたのでした。
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