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If ローズの恋と変わる心 俯瞰視点(3)
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「おい、お前。立てるか?」
笛によって仲間を呼び、ダージスや賊達が連行されたあとのこと。ローズが未だにへたり込んでいると右手が伸びてきて、野性味を含んだ整った顔が覗き込んできました。
「は、はい。あ……。ありがとうございま――」
「俺はあのじいさんを追っていて、お前を助けたのは偶々だ。礼は要らねー。その代わり、その分までこちらの方々に礼と詫びを入れとけ」
彼が一瞥したのは、ローズの護衛たち。
しかしながらローズにはその言葉の意味が分からず、そうしていると彼は呆れの息を大きく吐き出しました。
「お前がまんまと引っかかったせいで、一緒に殺されるところだったんぞ。んでもってこちらの方々にも、家族や大切な人がいる。何かあったら、その人達が悲しむ。分かるよな?」
「……は、はい……。わかり、ます……」
「護衛は使い捨ての駒じゃねー。お前とおんなじで、替えが効かない人間なんだ。次からは周りのことも考えて行動しろ。護衛は立場上お前に強く言えねーんだから、お前がちゃんとしろ。いいな?」
「は、はい……。はい。わかり、ました……」
この人は、命の恩人であること。そしてその目が厳しさと優しさで満ちていること。そんな要素がローズを素直に頷かせ、彼女は自分の護衛に深々と頭を下げたのでした。
「……よし、多少はマシになったみたいだな。んじゃ、次の話に移ろうか。…………俺はリオン騎士団第3部隊隊長、フェシタル侯爵家の次男レオスだ。アンタの名前と身分は?」
「あ、あたしは……。隣国ブランシュ子爵家の次女・ローズと申します」
正体を明かしたくはありませんでしたが、視線には有無を言わせないものがありました。そのためローズは正直に打ち明け、身分を明らかにしました。
「あ、あの……。お父様やお母様…………当主には、このことは――」
「書物の取引は違法じゃねーし、この護衛の数、どうせ親には内緒なんだろ? バカな娘の行動で親が迷惑をこうむるのは、気の毒だからな。お前のためではなく当主殿のために、報告はしない」
だが――。またこんな真似をするなら、話は別だ。二度とするんじゃねーぞ?
レオスは改めて念を押し、ローズにそんなつもりは微塵もない――する勇気などないため、即座に何度も何度も首肯しました。
「分かればいい。じゃあ俺は、もういく。気を付けて帰れよ」
「は、はい。お世話をおかけしました、ふぇ、フェシタル様。このご恩は、決して忘れません。後日、お礼をさせて――」
「さっきも言ったように、これはついでの行動だ。それに…………お前みたいに腹黒い心を持ったヤツとは、関わりたくはない。俺に礼をしたいというのなら、お父上やお母上――家族のために、その心を改めろ」
レオスはローズの胸元を――その奥にある心を見据えて首を振り、護衛達に折り目正しく会釈をしたあと、踵を返して去ってゆきました。
そうして絶体絶命の状況から救われたローズは家へと戻り、やがて――。そんなローズの心に、とある感情が芽生えるのでした。
笛によって仲間を呼び、ダージスや賊達が連行されたあとのこと。ローズが未だにへたり込んでいると右手が伸びてきて、野性味を含んだ整った顔が覗き込んできました。
「は、はい。あ……。ありがとうございま――」
「俺はあのじいさんを追っていて、お前を助けたのは偶々だ。礼は要らねー。その代わり、その分までこちらの方々に礼と詫びを入れとけ」
彼が一瞥したのは、ローズの護衛たち。
しかしながらローズにはその言葉の意味が分からず、そうしていると彼は呆れの息を大きく吐き出しました。
「お前がまんまと引っかかったせいで、一緒に殺されるところだったんぞ。んでもってこちらの方々にも、家族や大切な人がいる。何かあったら、その人達が悲しむ。分かるよな?」
「……は、はい……。わかり、ます……」
「護衛は使い捨ての駒じゃねー。お前とおんなじで、替えが効かない人間なんだ。次からは周りのことも考えて行動しろ。護衛は立場上お前に強く言えねーんだから、お前がちゃんとしろ。いいな?」
「は、はい……。はい。わかり、ました……」
この人は、命の恩人であること。そしてその目が厳しさと優しさで満ちていること。そんな要素がローズを素直に頷かせ、彼女は自分の護衛に深々と頭を下げたのでした。
「……よし、多少はマシになったみたいだな。んじゃ、次の話に移ろうか。…………俺はリオン騎士団第3部隊隊長、フェシタル侯爵家の次男レオスだ。アンタの名前と身分は?」
「あ、あたしは……。隣国ブランシュ子爵家の次女・ローズと申します」
正体を明かしたくはありませんでしたが、視線には有無を言わせないものがありました。そのためローズは正直に打ち明け、身分を明らかにしました。
「あ、あの……。お父様やお母様…………当主には、このことは――」
「書物の取引は違法じゃねーし、この護衛の数、どうせ親には内緒なんだろ? バカな娘の行動で親が迷惑をこうむるのは、気の毒だからな。お前のためではなく当主殿のために、報告はしない」
だが――。またこんな真似をするなら、話は別だ。二度とするんじゃねーぞ?
レオスは改めて念を押し、ローズにそんなつもりは微塵もない――する勇気などないため、即座に何度も何度も首肯しました。
「分かればいい。じゃあ俺は、もういく。気を付けて帰れよ」
「は、はい。お世話をおかけしました、ふぇ、フェシタル様。このご恩は、決して忘れません。後日、お礼をさせて――」
「さっきも言ったように、これはついでの行動だ。それに…………お前みたいに腹黒い心を持ったヤツとは、関わりたくはない。俺に礼をしたいというのなら、お父上やお母上――家族のために、その心を改めろ」
レオスはローズの胸元を――その奥にある心を見据えて首を振り、護衛達に折り目正しく会釈をしたあと、踵を返して去ってゆきました。
そうして絶体絶命の状況から救われたローズは家へと戻り、やがて――。そんなローズの心に、とある感情が芽生えるのでした。
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