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混迷の遺跡編
episode155
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愛しい少女の目を背けたくなるほどの酷い(むごい)傷を見て、アルカネットは沈痛な面持ちで顎を引いた。
右の肩から胸のあたりまでの肉が、ごっそり抉りとられ骨が見えている。膨らみこそ小さいその乳房も、上半分が無残に削り取られていた。
これだけの深い傷を負って事切れなかったのは、奇跡であり幸運といってよかった。それに、ランドンが長い時間回復魔法をかけ続けていたのが幸いしているようだ。傷口は綺麗なままに保たれている。
「どれほど怖い思いをしたのでしょう…。さぞ痛かったでしょうに」
透視することはできないが、これだけの傷を見ればある程度想像はつく。
血の気がひいて真っ白なほどに白くなったキュッリッキの頬にそっと触れ、次いで傷口に触れる。すると痛むのか、意識のないキュッリッキが小さく呻いた。
その様を見て、アルカネットは身震いした。そして何かを堪えるように手を握ると、背後に控える医師を振り返る。
「早急に治療を始めてください。けっして、死なせてはいけませんよ」
アルカネットが魔法でサポートに入り、連れてきた医師らが外科処置を行う。ウリヤスとマルヤーナも雑用を手伝うために残った。
ライオン傭兵団とハドリーとファニーは、手術の邪魔にならないように病院の外で所在無げにだべっていた。研究者たちは近くの宿に泊まっているようで、この場には居ない。
ルーファスと入れ替わるようにランドンが眠りにつき、ルーファスは疲労困憊の抜けない顔で輪に加わっていた。じめじめと暑くて寝てらんないとぼやく。
「それにしてもびっくりしたよねえ…、アルカネットさんのあのカッコ、魔法部隊の軍服じゃん」
ルーファスのぼやきに、シビルとカーティスが同時に頷く。
「しかも長官におなりで」
「魔法部隊でもいいけど、拷問・尋問部隊じゃねーのな」
「つか軍に復帰したのかよ…」
「ベルトルド卿からお話が何もなかったので、急なことだったんじゃないでしょうかねえ。どうにもきな臭い」
「アルカネットさんが魔法部隊(ビリエル)の長官になっているってことは、問答無用で現職の長官を降格させ地方に飛ばしたのでしょうねえ。誰がやったかは明白です」
「酷い……」
ファニーがぼそりと呟く。
「まあ、魔法部隊の長官に据えたのは正解かもしれません。あの方の右に出る魔法スキル〈才能〉持ちなんて、どこにも居ないですからね」
「ボクの魔法なんて、子供の火遊びみたいに思えるほど、雲泥の差があるもんなあ」
悔しそうに言って、ハーマンは尻尾をそよがせた。
「本気でやりあったら、世界中どこを探しても、あの方に勝てる人は誰もいないでしょうね」
「そんなに凄いんですか?」
ハドリーには魔法分野のことはよく判らない。
「あんたも戦場とかで魔法使いみたことあんだろ。あんなの幼児レベルだと笑うくらい差があるぜ」
「使う魔法は最高位魔法ばかり。攻撃・防御・回復、どれをとってもレベルが高すぎて、比較対象者がいないくらい」
「うほ」
彼らの説明に、ハドリーは想像の上でなんとなく納得する。
「手術、どのくらいかかりますかね…」
みんなが意図的に避けていた内容を、あえてメルヴィンが口にした。
「アルカネットさんが連れてきた中にヴィヒトリがいましたか。彼がきた時点で、キューリさんの生存は100%保証されました。大丈夫ですよ」
「…そうですね」
血だまりの中で痛みに耐え、動くこともできないキュッリッキを見て、己の無力さをメルヴィンは痛感した。何もしてやれなかったことが、本当に悔しくてならない。
気持ちは皆同じで、とくにザカリーの落ち込み度は半端なかった。慰める言葉すら見つからないほどである。
「あと、どれくらいで終わりますかねえ…」
どこまでも青い空を見上げ、カーティスは壁にもたれて目を細めた。
右の肩から胸のあたりまでの肉が、ごっそり抉りとられ骨が見えている。膨らみこそ小さいその乳房も、上半分が無残に削り取られていた。
これだけの深い傷を負って事切れなかったのは、奇跡であり幸運といってよかった。それに、ランドンが長い時間回復魔法をかけ続けていたのが幸いしているようだ。傷口は綺麗なままに保たれている。
「どれほど怖い思いをしたのでしょう…。さぞ痛かったでしょうに」
透視することはできないが、これだけの傷を見ればある程度想像はつく。
血の気がひいて真っ白なほどに白くなったキュッリッキの頬にそっと触れ、次いで傷口に触れる。すると痛むのか、意識のないキュッリッキが小さく呻いた。
その様を見て、アルカネットは身震いした。そして何かを堪えるように手を握ると、背後に控える医師を振り返る。
「早急に治療を始めてください。けっして、死なせてはいけませんよ」
アルカネットが魔法でサポートに入り、連れてきた医師らが外科処置を行う。ウリヤスとマルヤーナも雑用を手伝うために残った。
ライオン傭兵団とハドリーとファニーは、手術の邪魔にならないように病院の外で所在無げにだべっていた。研究者たちは近くの宿に泊まっているようで、この場には居ない。
ルーファスと入れ替わるようにランドンが眠りにつき、ルーファスは疲労困憊の抜けない顔で輪に加わっていた。じめじめと暑くて寝てらんないとぼやく。
「それにしてもびっくりしたよねえ…、アルカネットさんのあのカッコ、魔法部隊の軍服じゃん」
ルーファスのぼやきに、シビルとカーティスが同時に頷く。
「しかも長官におなりで」
「魔法部隊でもいいけど、拷問・尋問部隊じゃねーのな」
「つか軍に復帰したのかよ…」
「ベルトルド卿からお話が何もなかったので、急なことだったんじゃないでしょうかねえ。どうにもきな臭い」
「アルカネットさんが魔法部隊(ビリエル)の長官になっているってことは、問答無用で現職の長官を降格させ地方に飛ばしたのでしょうねえ。誰がやったかは明白です」
「酷い……」
ファニーがぼそりと呟く。
「まあ、魔法部隊の長官に据えたのは正解かもしれません。あの方の右に出る魔法スキル〈才能〉持ちなんて、どこにも居ないですからね」
「ボクの魔法なんて、子供の火遊びみたいに思えるほど、雲泥の差があるもんなあ」
悔しそうに言って、ハーマンは尻尾をそよがせた。
「本気でやりあったら、世界中どこを探しても、あの方に勝てる人は誰もいないでしょうね」
「そんなに凄いんですか?」
ハドリーには魔法分野のことはよく判らない。
「あんたも戦場とかで魔法使いみたことあんだろ。あんなの幼児レベルだと笑うくらい差があるぜ」
「使う魔法は最高位魔法ばかり。攻撃・防御・回復、どれをとってもレベルが高すぎて、比較対象者がいないくらい」
「うほ」
彼らの説明に、ハドリーは想像の上でなんとなく納得する。
「手術、どのくらいかかりますかね…」
みんなが意図的に避けていた内容を、あえてメルヴィンが口にした。
「アルカネットさんが連れてきた中にヴィヒトリがいましたか。彼がきた時点で、キューリさんの生存は100%保証されました。大丈夫ですよ」
「…そうですね」
血だまりの中で痛みに耐え、動くこともできないキュッリッキを見て、己の無力さをメルヴィンは痛感した。何もしてやれなかったことが、本当に悔しくてならない。
気持ちは皆同じで、とくにザカリーの落ち込み度は半端なかった。慰める言葉すら見つからないほどである。
「あと、どれくらいで終わりますかねえ…」
どこまでも青い空を見上げ、カーティスは壁にもたれて目を細めた。
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