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混迷の遺跡編
episode156
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10時間以上にも及ぶ大手術になった。空はすでに夕闇に染まり、することもなく待ち続けていた一同は、マルヤーナから手術成功の報を受けて、張り詰めていた緊張を解いて安堵した。
「よかったあ~~」
「キューリちゃん助かったあ」
大騒ぎして喜び合うよりも、力が抜けるように安心していた。
手術に立ち会い、手伝いをしてくれていたマルヤーナの顔には、疲労の色が濃かったが、それ以上にキュッリッキが助かったことを喜ぶ表情に満ちていた。
術後の経過はウリヤスが見ることになり、アルカネットに連れてこられた医師2人は、近くの宿で休むよう指示を受けて、すでに向かっている。
あまり大勢で押しかけるのもなんだしということで、カーティスとメルヴィンの2人が代表で病室を訪れた。
薬の臭いが満ちる薄暗い部屋の中には、ベッドに横たわるキュッリッキと、その傍らに座るアルカネットがいた。
「お疲れ様です。キューリさんはまだ目を覚ましませんか?」
「じき覚ますでしょう。本当に、よく頑張りましたよ」
アルカネットは手術中魔法をかけ続けていたのもあり、僅かに疲労感を滲ませていた。
小さな左手を両手で包み込むように握り、アルカネットはキュッリッキの顔を見つめている。
「こんなに細い身体で…さぞ、怖かったことでしょう」
返す言葉もなく2人は黙り込む。事の次第は、ベルトルドから聞いているようだ。
「予期せぬ事故とはいえ、あなた方の責任ですよ」
「申し訳ありません」
アルカネットの手の中で、か細い指が微かに動く。
やがて小さく呻いたあと、キュッリッキはうっすらと目を開いた。
「リッキーさん」
アルカネットが顔を覗き込む。カーティスとメルヴィンも、それぞれ身を乗り出した。
「……アルカネットさん?」
「はい。よく頑張りましたね」
優しく微笑むと、そっとキュッリッキの額にキスをした。
「アタシどうしたんだろう…」
掠れ声で呟くと、まだ記憶が定かではないようで、目だけをゆっくり巡らせていた。
「カーティス、メルヴィン」
足元の方に立つ2人を見つけ、キュッリッキの表情が安堵したように和らいだ。
「酷い怪我でしたが、もう大丈夫です。ただ、当分は絶対安静にしなくてはいけませんけどね」
「怪我……」
ぼんやりと繰り返す。
次第に記憶の蓋が開けられ、ぼやけていたものがフラッシュバックして全てが鮮明になった。その瞬間キュッリッキの顔が強張り、大きく見張った目からは涙が流れ出し、か細い悲鳴を喉から迸らせた。
「――助けていやあっ!」
「リッキーさん!!」
左半身で身体を仰け反らせて暴れだしそうになるキュッリッキを、アルカネットが慌てて抑え込んだ。その拍子に傷口に触ってしまい、身体を貫いた痛みのあまり、顔を苦悶に歪めてキュッリッキは唇を噛んだ。
「すみませんっ、落ち着いてください、もう大丈夫です、大丈夫ですから」
いつになくアルカネットは慌て、カーティスとメルヴィンもどうしていいか判らず、傍らで困惑の表情を浮かべるだけだった。
「よかったあ~~」
「キューリちゃん助かったあ」
大騒ぎして喜び合うよりも、力が抜けるように安心していた。
手術に立ち会い、手伝いをしてくれていたマルヤーナの顔には、疲労の色が濃かったが、それ以上にキュッリッキが助かったことを喜ぶ表情に満ちていた。
術後の経過はウリヤスが見ることになり、アルカネットに連れてこられた医師2人は、近くの宿で休むよう指示を受けて、すでに向かっている。
あまり大勢で押しかけるのもなんだしということで、カーティスとメルヴィンの2人が代表で病室を訪れた。
薬の臭いが満ちる薄暗い部屋の中には、ベッドに横たわるキュッリッキと、その傍らに座るアルカネットがいた。
「お疲れ様です。キューリさんはまだ目を覚ましませんか?」
「じき覚ますでしょう。本当に、よく頑張りましたよ」
アルカネットは手術中魔法をかけ続けていたのもあり、僅かに疲労感を滲ませていた。
小さな左手を両手で包み込むように握り、アルカネットはキュッリッキの顔を見つめている。
「こんなに細い身体で…さぞ、怖かったことでしょう」
返す言葉もなく2人は黙り込む。事の次第は、ベルトルドから聞いているようだ。
「予期せぬ事故とはいえ、あなた方の責任ですよ」
「申し訳ありません」
アルカネットの手の中で、か細い指が微かに動く。
やがて小さく呻いたあと、キュッリッキはうっすらと目を開いた。
「リッキーさん」
アルカネットが顔を覗き込む。カーティスとメルヴィンも、それぞれ身を乗り出した。
「……アルカネットさん?」
「はい。よく頑張りましたね」
優しく微笑むと、そっとキュッリッキの額にキスをした。
「アタシどうしたんだろう…」
掠れ声で呟くと、まだ記憶が定かではないようで、目だけをゆっくり巡らせていた。
「カーティス、メルヴィン」
足元の方に立つ2人を見つけ、キュッリッキの表情が安堵したように和らいだ。
「酷い怪我でしたが、もう大丈夫です。ただ、当分は絶対安静にしなくてはいけませんけどね」
「怪我……」
ぼんやりと繰り返す。
次第に記憶の蓋が開けられ、ぼやけていたものがフラッシュバックして全てが鮮明になった。その瞬間キュッリッキの顔が強張り、大きく見張った目からは涙が流れ出し、か細い悲鳴を喉から迸らせた。
「――助けていやあっ!」
「リッキーさん!!」
左半身で身体を仰け反らせて暴れだしそうになるキュッリッキを、アルカネットが慌てて抑え込んだ。その拍子に傷口に触ってしまい、身体を貫いた痛みのあまり、顔を苦悶に歪めてキュッリッキは唇を噛んだ。
「すみませんっ、落ち着いてください、もう大丈夫です、大丈夫ですから」
いつになくアルカネットは慌て、カーティスとメルヴィンもどうしていいか判らず、傍らで困惑の表情を浮かべるだけだった。
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