片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
311 / 882
それぞれの悪巧み編

episode292

しおりを挟む
 病室では、キュッリッキ、アリサ、ヴィヒトリが迎えを待っていた。

 キュッリッキは淡い若草色のノースリーブのワンピースに身を包み、膝にフェンリルを乗せてソファに座っていた。

「そろそろ迎えが到着する頃だね。あんまり早く着すぎるなって言っておいたから」

 ヴィヒトリは白衣の胸ポケットに入れていた懐中時計を出して、時間を確かめる。10時を少しばかり回っていた。

「いつも、くるの凄い早かったもんね…」

 入院していた最中、見舞いに来るベルトルドの来院時間は朝7時。当然そんな早い時間に見舞いなどは禁止されているが、特権を振りかざして強行していた。普段からこうしてすぐ起きればいいのに、とアリサとため息をついたものだ。

 断れば後が怖い病院側は、無茶な我が儘にも泣く泣く目を瞑った。

 毎朝喜び勇んで病室に来るやいなや、低血圧のベルトルドは朝食を摂るキュッリッキのベッドに潜り込んで、すぐ寝てしまう。

 検査や怪我の処置のために病室を空けていると、ベルトルドは不満そうにベッドに横になってキュッリッキを待ち、消灯時間ギリギリまで居座った挙句、アルカネットにしょっ引かれて帰っていった。

 その時の様子を走馬灯のように思い出し、キュッリッキは口の端を引きつらせた。

 3人が疲れたような溜め息を揃って吐き出していると、ノックもなしに威勢良く病室の扉が開かれた。

「迎えに来たぞリッキー!」

「ノックぐらいしてください全く」

 元気いっぱいのベルトルドの背後から、呆れた声を出すアルカネットが続く。

 ベルトルドはキュッリッキの座るソファまでスタスタ歩み寄り、素早くキュッリッキを抱き上げた。

「さあ、帰ろう!」

 満面の笑みで言われて、キュッリッキは面食らって無言で頷いた。

「乱暴に扱わないでください、驚いているじゃないですか」

 先を越されてムッとしているアルカネットは、不意をつかれてキュッリッキの膝から落ちかかって、ワンピースにしがみついてるフェンリルを抱き上げると、キュッリッキの腕の中へ戻してやった。

 それをチラッと見て、ベルトルドはフンッと鼻を鳴らす。

「なんだ、犬のほうか」

「違いますよ」

 ああ言えば、こう言う。なノリの2人の顔を交互に見ながら、キュッリッキは苦笑して肩をすくめた。

 待っていると、迎えに来てくれる人が居る。「帰ろう」と言ってくれる人がいて、帰る場所がある。

 待つことが嬉しい。それは、なんと幸せに感じることなんだろう。今までずっと、なかったものだ。

 家族がいて、迎える人がいて、帰る場所がある。ささやかな幸せを当たり前のように持っている人々を、ずっと妬んでいる自分がいた。

 本当なら自分にも、そんな世界があったのかもしれない。しかし片翼が奇形だった為に、両親に拒まれ捨てられた。アイオン族という同族からも嫌われ、拒まれ否定されてきた。

 ずっと居場所がなかった。我が身を守るために心を閉ざして、どこにも居場所を作ろうともしなかった。

 でも今は違う。自分にもささやかな幸せが、こうして現れたのだから。

「早く帰ろ」

 ベルトルドの首に両腕を絡ませ、キュッリッキは甘えるように抱きしめた。

 突然のことに僅かに目を見張ったが、キュッリッキの心が流れ込んできて、ベルトルドはこれ以上にないほどの優しい笑みを浮かべた。

「ああ、帰ろう」



「なあ、ビールのおかわりあるかー?」

 ソファにだらしなく座りながら、ザカリーはビール瓶を振った。

「今から酔ってると、アルカネットさんに叱られますよ」

 ザカリーの向かい側に座っているカーティスは、長すぎる前髪をかきあげながら、軽く嗜める。

「ビールじゃ酔わねえよ。水がわりだ、水がわり。――あ~あ、キューリのやつまだ帰ってこねーのかなあ…」

 ザカリーのぼやきに、カーティスは暖炉の上の置時計に目を向けた。

「そろそろじゃないですかね。昼前には連れて帰ってくると、ベルトルド卿がおっしゃっていたから」

「おい、キューリたち帰ってきたぞ」

 開けっ放しの扉の向こうからギャリーの声が聞こえる。部屋にいる仲間たちに報せて回っているようだった。

「お」

 ザカリーは嬉しそうに立ち上がると、スキップでも踏みそうな軽快な足取りでサロンを飛び出していった。

 その様子を苦笑いしながら見ていたカーティスも、立ち上がってサロンを後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...