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それぞれの悪巧み編
episode293
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「おかえりなさいませ、お嬢様」
玄関ロビーに居並ぶ使用人たちを代表して、ハウスキーパーのリトヴァが喜色を浮かべて挨拶を述べた。
「ただいま」
ベルトルドの腕にしがみつくようにしていたキュッリッキは、はにかむようにして挨拶を返していた。
「準備は終わったか?」
すこぶる機嫌の良い主(あるじ)の言葉に、リトヴァは頷いた。
「はい。滞りなく整っております」
「そうか」
満足そうに笑みを深めるベルトルドの顔を見上げ、キュッリッキは不思議そうに小さく首を傾げた。ベルトルドはそれに微笑む。
「おいで、リッキー」
ベルトルドに手を引かれ屋敷の奥へ進んでいく。やや不安げにアルカネットの顔を見上げると、無言で優しい笑みが向けられた。
大きく広い屋敷なので、全部を把握しているわけではなかったが、キュッリッキは初めて来る場所だった。
長い廊下の突き当たりに、一際大きな扉があった。その前に3人が立つと、扉はゆっくりと内側に開いていった。
開かれた扉の中を見たキュッリッキは、圧倒されたように目を大きくして息を飲んだ。
「おかえりなさい、キューリさん」
ずらっと居並ぶライオン傭兵団の皆の前に立ち、カーティスがにこやかに言った。
「そして、お誕生日おめでとうございます、リッキーさん」
笑顔のメルヴィンに言われて、キュッリッキは「え?」と小さく呟いた。
「今日は7月7日、リッキーの誕生日だろう?」
ベルトルドにもにこやかに言われて、キュッリッキは困ったようにアルカネットを見る。
キュッリッキの困惑したような視線を受けて、アルカネットはクスッと笑いかけた。
「リッキーさんのお誕生日を、みんなでお祝いしようと準備をしていたんですよ。退院祝いも兼ねて。ほら、プレゼントもたくさんありますからね」
背中をそっと押され、キュッリッキは部屋に入っていった。
病院でリハビリをして、ゆっくりとだが歩けるまでに回復していた。
とても広いこの部屋は、パーティールームだった。室内装飾もやや華美なものが多く、あちこちに花が活けられ、窓は全て開け放たれてとても明るい光で満ちていた。
真っ白なクロスのかけられた大きな長方形のテーブルの上には、いい匂いを放つご馳走がひしめく様に並んでいる。そして中央には酒樽くらいあるケーキが、ドンッと構えていた。
そのそばに置かれた別のテーブルの上には、綺麗なラッピングが施されたプレゼントの箱で、山が築かれている。開けるのに時間がかかりそうな量だ。
(アタシのお誕生日…、お祝い…)
この部屋の中にあるものが、煌く宝石のように見えた。眩しいほど輝いているのだ。
ずっと、夢見ていたもの。無論ご馳走や、プレゼントの山ではない。
自分が生まれてきたことを、祝ってくれる仲間たちが居る。
これまで生まれたことを後悔したことはあっても、喜んだことは一度もなかった。
誰からも祝福されたことが、なかったからだ。
誕生日が巡ってきても、それは年を重ねただけのこと、胸躍るものではない。自分は孤独なんだと、確認するだけの事象だった。
ふいにキュッリッキの目から大粒の涙が溢れ出し、床にいくつも小さく弾けた。後から後から涙は溢れ出していく。
突然泣き出したキュッリッキに、ライオン傭兵団の皆はギョッとしてどよめいた。
「お、おい、そこまで泣かなくっても?」
俯くキュッリッキの顔を覗き込むように、ザカリーは困ったように頭をかいた。
おろおろと取り囲む仲間たちの中に立ち、キュッリッキは両手で涙を拭いながら泣き続けた。
その小さな後ろ姿を見つめ、ベルトルドとアルカネットはキュッリッキの心の声を理解していた。
言葉には言い表せないほどの喜びと、叫びだしたいほどの幸せに満たされていることを。
サイ《超能力》など使わずとも、判ることだった。
「さすがに泣き止ませないと、泣き疲れて寝てしまいそうだな。主役が抜けたらパーティーにならん」
苦笑混じりにベルトルドが言うと、アルカネットも「そうですね」と笑みを滲ませた。
「ほらリッキー、ケーキのローソクの火を消す儀式があるぞ。あれはリッキーしかできない儀式だ。泣いてばかりいると、ローソクのほうが溶けてしまう」
優しく頭を撫でられ、涙に濡れた顔をベルトルドに向け、そしてケーキに視線を向けた。
四角い3段積みのケーキには、バラの花をかたどったクリームに、火の点ったローソクが立っていた。
ケーキのそばまで歩み寄り、両手で目をゴシゴシと擦る。
ローソクは19本あった。キュッリッキは今日で、19歳になったのだ。
生まれて初めて体験する儀式。
キュッリッキは大きく空気を吸い込み、願いと感謝を込めて、満遍なくローソクの火を吹き消した。
「おめでとう!!」
無数に鳴るクラッカーの音と共に、仲間たちの祝いの声が、室内に大きく轟いた。
玄関ロビーに居並ぶ使用人たちを代表して、ハウスキーパーのリトヴァが喜色を浮かべて挨拶を述べた。
「ただいま」
ベルトルドの腕にしがみつくようにしていたキュッリッキは、はにかむようにして挨拶を返していた。
「準備は終わったか?」
すこぶる機嫌の良い主(あるじ)の言葉に、リトヴァは頷いた。
「はい。滞りなく整っております」
「そうか」
満足そうに笑みを深めるベルトルドの顔を見上げ、キュッリッキは不思議そうに小さく首を傾げた。ベルトルドはそれに微笑む。
「おいで、リッキー」
ベルトルドに手を引かれ屋敷の奥へ進んでいく。やや不安げにアルカネットの顔を見上げると、無言で優しい笑みが向けられた。
大きく広い屋敷なので、全部を把握しているわけではなかったが、キュッリッキは初めて来る場所だった。
長い廊下の突き当たりに、一際大きな扉があった。その前に3人が立つと、扉はゆっくりと内側に開いていった。
開かれた扉の中を見たキュッリッキは、圧倒されたように目を大きくして息を飲んだ。
「おかえりなさい、キューリさん」
ずらっと居並ぶライオン傭兵団の皆の前に立ち、カーティスがにこやかに言った。
「そして、お誕生日おめでとうございます、リッキーさん」
笑顔のメルヴィンに言われて、キュッリッキは「え?」と小さく呟いた。
「今日は7月7日、リッキーの誕生日だろう?」
ベルトルドにもにこやかに言われて、キュッリッキは困ったようにアルカネットを見る。
キュッリッキの困惑したような視線を受けて、アルカネットはクスッと笑いかけた。
「リッキーさんのお誕生日を、みんなでお祝いしようと準備をしていたんですよ。退院祝いも兼ねて。ほら、プレゼントもたくさんありますからね」
背中をそっと押され、キュッリッキは部屋に入っていった。
病院でリハビリをして、ゆっくりとだが歩けるまでに回復していた。
とても広いこの部屋は、パーティールームだった。室内装飾もやや華美なものが多く、あちこちに花が活けられ、窓は全て開け放たれてとても明るい光で満ちていた。
真っ白なクロスのかけられた大きな長方形のテーブルの上には、いい匂いを放つご馳走がひしめく様に並んでいる。そして中央には酒樽くらいあるケーキが、ドンッと構えていた。
そのそばに置かれた別のテーブルの上には、綺麗なラッピングが施されたプレゼントの箱で、山が築かれている。開けるのに時間がかかりそうな量だ。
(アタシのお誕生日…、お祝い…)
この部屋の中にあるものが、煌く宝石のように見えた。眩しいほど輝いているのだ。
ずっと、夢見ていたもの。無論ご馳走や、プレゼントの山ではない。
自分が生まれてきたことを、祝ってくれる仲間たちが居る。
これまで生まれたことを後悔したことはあっても、喜んだことは一度もなかった。
誰からも祝福されたことが、なかったからだ。
誕生日が巡ってきても、それは年を重ねただけのこと、胸躍るものではない。自分は孤独なんだと、確認するだけの事象だった。
ふいにキュッリッキの目から大粒の涙が溢れ出し、床にいくつも小さく弾けた。後から後から涙は溢れ出していく。
突然泣き出したキュッリッキに、ライオン傭兵団の皆はギョッとしてどよめいた。
「お、おい、そこまで泣かなくっても?」
俯くキュッリッキの顔を覗き込むように、ザカリーは困ったように頭をかいた。
おろおろと取り囲む仲間たちの中に立ち、キュッリッキは両手で涙を拭いながら泣き続けた。
その小さな後ろ姿を見つめ、ベルトルドとアルカネットはキュッリッキの心の声を理解していた。
言葉には言い表せないほどの喜びと、叫びだしたいほどの幸せに満たされていることを。
サイ《超能力》など使わずとも、判ることだった。
「さすがに泣き止ませないと、泣き疲れて寝てしまいそうだな。主役が抜けたらパーティーにならん」
苦笑混じりにベルトルドが言うと、アルカネットも「そうですね」と笑みを滲ませた。
「ほらリッキー、ケーキのローソクの火を消す儀式があるぞ。あれはリッキーしかできない儀式だ。泣いてばかりいると、ローソクのほうが溶けてしまう」
優しく頭を撫でられ、涙に濡れた顔をベルトルドに向け、そしてケーキに視線を向けた。
四角い3段積みのケーキには、バラの花をかたどったクリームに、火の点ったローソクが立っていた。
ケーキのそばまで歩み寄り、両手で目をゴシゴシと擦る。
ローソクは19本あった。キュッリッキは今日で、19歳になったのだ。
生まれて初めて体験する儀式。
キュッリッキは大きく空気を吸い込み、願いと感謝を込めて、満遍なくローソクの火を吹き消した。
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