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26:パワーストーン
しおりを挟む何か起こるのではないかと心配していたのだが、思ったよりも眠ることができた。目覚めはすっきりしている。
柚梨はもちろん、他の二人も覚悟が決まったからなのか、寝不足にはなっていないようだった。
チェックアウトを済ませた俺たちは、車に乗って近くのコンビニに立ち寄る。
そこで購入したおにぎりを朝食にしながら、最初の目的地についてを話し合っていた。
「ここ、邪気を祓うパワーストーンが有名らしいです」
「こういうのはパチモンくせェが……ネットの評判は悪くねェな」
「怪異を邪気ってカテゴライズしていいのかって話だけど、とりあえず行ってみるよ!」
場所が近かったこともあって、まずはその場所に向かってみることにする。
パワーストーンを取り扱っているのは、小さな神社だった。だが、想像以上に多くの人で賑わっている。
前方を歩いている女性グループの話に耳を傾けてみると、どうやら著名な人物がこのパワーストーンについてを、SNSに書き込んだらしい。
その影響もあって、人が多く集まっているのだとわかった。
「柚梨、はぐれないように気をつけろよ」
「うん、……わっ!」
言っている傍から、柚梨は人の波に押し流されて離れていきそうになっている。
伸ばされた腕を咄嗟に掴むと、俺は彼女を引き寄せてそのまま購入の列に並ぶことにした。
「あ、ありがと……」
「あんま離れると、何かあった時に守ってやれねえだろ」
「ヒューウ♪ お熱いですねえお二人さん」
「からかうな葵衣!」
葵衣たちも同じように並んでいるので、当然その光景はすべて見られていた。
後ろから囃し立てる葵衣を一喝しつつ、俺たちは順番が回ってくるのを待つ。
中には大量購入をしている人間もいるようなのだが、あれは転売屋というやつだろうか?
「ったく、ああいうの迷惑だよなあ」
「まさか売切れたりしないわよね?」
「そしたらあの野郎しばき倒して奪い取ってやる」
血の気の多い丈介の発言は聞かなかったことにして、少しずつ進む列と共に移動していく。
あまり行列に並ぶのは得意ではないのだが、もう少しで自分たちの順番が回ってくる。
そう思って気を抜いた時だった。
「ッ……!?」
俺の前には、三人組の女性グループが並んでいる。
恐らく二十代前半くらいかと思われるのだが、そのうちの一人の肩に、黒いモヤのようなものが見えた気がしたのだ。
始めは気のせいかと思ったそれは、次第にはっきりとした形を成していく。
やがてその女性よりも頭ひとつ分大きい人型になったモヤは、女性に正面から抱き着くような体勢で、長い舌を垂らしたまま俺たちの方を凝視している。
正確には、眼球が無いので『そう見える』という状態なのだが。
どうやら彼女たちにも他の客たちにも、その姿は見えていないようだ。
三人グループは、楽しそうに会話を続けていた。
繋いでいる手が、強く握り返されたことに気がつく。柚梨にも、その姿が見えているのだろう。
そして、俺たちの後ろにいる二人にも。
この場を逃げ出すべきかと思ったが、影が襲ってくる気配はない。
俺たちのことを見ているだけの今の状態は、下手に刺激をしない方がいいかもしれない。
そんな風に感じて、俺はそのまま気づいていないふりをして、並び続けることにした。
「樹……」
「もう少しで順番だな。何色かあるみたいだけど、柚梨はどれにするか決めたか?」
「あっ! アタシは紫がいいな、丈介は緑が良さそう」
「えっ……私、は……ピンクかな」
「じゃあ俺は青にしようかな」
俺が普通に話しかけるものだから、柚梨は驚いたようだった。
けれど、その意図にいち早く気がついた葵衣が、俺に話を合わせてくれる。
そのことで少し動揺を飲み込むことができたらしい柚梨もまた、会話に加わってきて、俺たちは売り場に到着するまでぎこちない雑談を続けていた。
「コレ……あんまり意味無かったみたいね」
「やっぱりパチモンだったか。つーか何でオレまで買わされてんだ」
無事にパワーストーンを購入することができた俺たちだったが、早速それを身に着けてみて、効果が無いことが判明した。
なぜなら、あの人型の怪異は抱き着く相手を変えて、俺たちの傍をずっと離れなかったからだ。
さり気なくパワーストーンを着けた腕を近づけてみても、苦しんだり消えるような様子も見られなかった。
幸いだったのは、あの怪異がどういうわけだか襲ってこなかったということだ。
これまでは明らかに柚梨を狙ったり、祓おうとした相手に攻撃的になっていたりしたというのに。
「呪離安凪さんのお祓いが効いてて、力が出せない状態だったのかな?」
そんなことを言ったのは柚梨だったのだが、確かにその可能性もあるのかもしれない。
実際、彼女のお祓いは少なからず効いていたのだ。魔法陣にだって立ち入ることができなかったのだし、このパワーストーンとは違う。
どのような理由があるにしろ、俺たちにとっては良いことだ。
「とにかく、まだ時間はあるってことだ。次の場所に行ってみよう」
「怪異もどっか行ったみたいだし、今のうちかもね」
あの怪異は、いつの間にか姿を消していた。
存在に気がついていないふりをしていたことに効果があったのかはわからないが、それが功を奏したと思っておくことにする。
俺たちの次の目的地は、ある人物のところだ。昨晩のうちにコンタクトを取ってあるので、再び車に乗って待ち合わせ場所に向かう。
次の手段として俺たちが挙げたのは、アプリの不審死事件についてのブログを開設していた、あの人物だ。
ダメ元でとメールを送ってみたのだが、これまでにあった詳細を記したのが良かったのかもしれない。
すぐに連絡が返ってきて、俺たちの話を聞いてくれるといった。
「情報、何でもいいから得られるといいね」
「俺たちが調べ始めるよりも前から、あのブログで情報募ってたみたいだし。知らない情報も掴んでるかもしれない。会ってもらえるとは思わなかったけど」
少なくとも、パワーストーンのような不確かなものよりも、信頼できる情報を持っているように思える。
周囲で不審死を遂げた人物がいるという話は、詳細を聞けばすぐに嘘かどうかわかるのだ。
だからこそ、少なくとも本当に事件についての調査をしている人物であることは間違いない。
今度こそ解決に繋がるような情報を掴めれば良いのだが。
そうこうしているうちに、待ち合わせ場所として指定された公園に到着する。
車を停められる場所が無かったので、丈介には路上で車中待機をしてもらうことにした。
それなりに広さのある公園の中には、ブランコや滑り台などの定番の遊具が置かれている。
平日の昼間ということもあってか、遊んでいる子供の姿は無いが、ベビーカーを押して歩く女性や談笑する老人の姿はちらほらと見て取れる。
「時間は間違ってないけど……連絡してみようか」
「そのブログの人に、容姿とか聞いてないの?」
「知らない人にアレコレ教えるのは抵抗あるって言われて……」
「会う約束までしてんのに、見た目ごときでアレコレも無いでしょ!?」
スマホを見ると、丁度待ち合わせを予定している時刻だ。遅刻魔でもない限り、到着していてもおかしくはないのだが。
辺りを見回しても、それらしい人物を見つけることができない。
俺はメールを送ってみようと、画面を起動したのだが。
「あ、あの……河瀬樹さん、ですよね?」
「え?」
声が聞こえたのは、俺たちの背後からだった。
振り返ってみると、そこにはいつの間にやら一人の男性が立っている。俺の名前を知っているということは、間違いなく彼が目的の人物だと察した。
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