無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる

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第五十一話

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「税収を上げるのにどうして税を撤廃するんだ! 矛盾しているだろう!」

 フーガ様が大きな声をあげた。
 あら? デイズさんから説明があったと思っていたけど、どうやら前半部分しか読まれていないようね。
 デイズさんが慌ててフーガ様をなだめます。

「お待ちくださいフーガ様、結果的に税収は上がるので、まずは最後までお読みください」

 そう言われて資料を読み始めます。
 読んでいただければ理解してくれるはず。
 しばらくすると険しい表情ではなくなったけど、少し悩むような難しい顔になりました。

「シルビア、この、えーっと、付加価値税? というものを導入するために人頭税と施設使用税を無くすのか?」

「はい。人頭税と施設使用税は毎年一定の額を見込めますが、付加価値税は買い物をした際に一定の割合を税として徴収します。これはフーガ領に住む者全てであり例外はありません」

「人頭税も施設使用税も残したまま付加価値税を取ればよいではないか」

「それでは領民は反発します。たとえ元々の税金が安かったとしても、増税という言葉に市民は敏感に反応してしまうのです」

「う、うむ~、それは確かにそうだが……」

「私の試算ですと、二つの税を無くしたとしても、付加価値税を取る事で税収は二割ほど上がります」

「君の言い分だと結果的に領民は多くの税を払う事になるが、二つの税を無くすことで反発を抑えられる、という事か?」

「その通りです。そして何より人頭税はあまり良い税金とは言えませんから、それを無くすことで領民の気持ちは軽くなるはずです」

 人頭税は年齢に応じて一定の税を払う必要がある。
 お金持ちでも貧乏でも同じ額を払うので、お金持ち優遇税とも言われている。
 それに比べて付加価値税は沢山買い物をして、沢山お金を使った人が多くの税金を払う事になる。
 人頭税よりもよっぽど人道的だわ。

 フーガ様は資料を食い入るように読んでいる。

「……少し時間をくれないか」

 執務室から出てきました。
 デイズさんは部屋に残っているので、二人で話合うのでしょう。

 三日が過ぎました。
 フーガ様とデイズさんに呼ばれて執務室へと向かいます。

「よく来てくれた。前にシルビアが出してくれた税制改革案、多少の変更はあったが施行する事になった」

「ありがとうございますフーガ様。微力ながらお力になれて光栄です」

 よかった、この改革案がダメだったら単純な増税を行うしかなかった。
 反発は必ずあるだろうから、ただでさえ税収の少ないフーガ領ではかなりの痛手になる。

「それでいつからですか?」

「うむ、二か月後の納税日を最後に人頭税・施設使用税を撤廃し、それ以降は付加価値税を導入する事になる」

 二か月後ですか、思ったよりも猶予がありますね。
 私が知る最速は通達が来た当日から変更、というのがありました。
 あれは本当に困りましたが、貴族からの命令には従わないといけません。
 ただやはり領民の負担は増えますので、その反応が気になります。

 二か月後。
 付加価値税が導入されましたが、思った程混乱はありません。
 そして予想通り、付加価値税があっても商品の値段は変わりませんでした。
 これは付加価値税が安いため、値上げして他店にお客さんが流れるのを警戒したためでしょう。

 四ヶ月後。
 商人、特に大手商会は気が付いていたでしょうが、他の市民も気が付き始めました。
 負担が増えたのは知っていても、より多く払うのはお金持ちだという事に。
 割合は同じですが、額としては大きな差があります。
 多少負担は増えても金持ちから巻き上げるならいいや、こう思ってもらえれば成功です。
 領民が減らない限り大手商会は店を出し続けますから。

「うん、街の様子は落ち着いてるし、多少の納税額違いはあっても大きな問題にはなってないわね。フーガ様宛に何通か苦情が来たけれど、差出人は予想通りだわ」

 そんな苦情は気にする必要は無いし、今まで美味しい思いをしてきたんだから、これからはやっと普通になるだけ。
 後は段階的に税率を上げればいいけど、この調子ならまだ何年も先になるだろう。

 ふふっ、これでメイド業に専念できるわね。

 そう思っていた矢先でした。
 ええ、ええそうですとも、まだまだフーガ領での期間は残っているのに、もう次のお勤め先が指定されました。

「レパード公爵領、ですか?」

「そうだ。こちらでの君の働きを陛下へいかに報告した所、レパード公爵邸へ赴く様にとの命令だ」

 レパード公爵領と言えば王都のおひざ元、エルグランド王都の次に栄えている場所だわ。
 でもいくら何でも早すぎないかしら、二年という約束はどこへ?

「私もデイズも君には感謝しているし、本当ならこのままいて欲しいのだが……陛下へいかの命令ではどうしようもないのだ。わかって欲しい」

 わかってる、私を様々な場所で働いて経験をさせ、メイドとしての実績を積まないといけません。
 これでも王族預かりの身なので諦めは付いています。

「わかっていますフーガ様、陛下へいかの御命令には逆らえません。それでいつごろ出発したらよいでしょうか」

「準備ができ次第、だ」

 それから二日間、私は荷物をまとめて仕事の引継ぎをし、お世話になった方に挨拶に回りました。

「シ~ル~ビ~ア~! なんで行っちゃうのよ~!」

「泣かないでピノ、命令だから仕方がないの」

 ささやかながらお別れ会をしてくれましたが、ぼっちゃんの姿が見えません。
 どこに行かれたのでしょうか、きちんとお別れを言いたかったのですが。

「それでは皆さん、短い間でしたがお世話になりました」

 大勢の方々が見送りに来てくださいました。
 フーガ侯爵家、デイズさん、使用人の方々……ぼっちゃんは……若旦那様の後ろで泣いているわ。

「ぼっちゃん、お元気で」

「うう、ううっ! しうびあ、きっと、きっと迎えに行くからね! 立派な貴族になるからね!」

「ありがとうございます、その言葉だけで十分です」

 馬車に乗り、数日かけてレパード領へと入りました。
 馬車での長旅……私のお尻は限界を迎える直前でした。
 レパード領は王都に負けない程に人が多く店も多い。
 ここではどんな人たちが待っているのでしょうか。

「はじめまして。シルビアでございます」

「よく来たな。私がレパードだ」

 大豪邸といっていい邸宅の玄関で、レパード公爵が出迎えてくれました。
 貴族との繋がりが多かったから麻痺してたけど、私は王族に雇われている身だから、公爵と言えど挨拶をしてくれるのでしょうね。

 そしてお屋敷に入ろうとした時でした、勢いよく私のスカードがめくり上げられました。

「キャア! な、なんですか!?」

「へっへーん、田舎娘が色気づいてんじゃねーよ!」

 慌ててスカートを抑えると身なりの良い少年? 十五歳前後の少年が走ってお屋敷に入っていきました。
 い、田舎娘⁉ そりゃ確かに田舎出身ですけど!

「……すまないなシルビア。アレは私の愚息だ」

「え、ええっ!? レパード様のご子息ですか!?」

「そうだ。そして今日から君にはアレの家庭教師をしてもらう」

「……へ?」
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