フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

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喝采の陰で

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 249 喝采の陰で

 用意していた食材がなくなり、本日の閉店時間だ。
 ラッセルさんはなんか興奮して飲めないお酒を一気飲みしたらしい。
 気絶したラッセルさんは冒険者数人に担ぎ上げられてどこかに運び去られた。

 領都でいろんな美味しい料理を食べているというラッセルさんに鯛めしの感想を聞きたかったのにな。ちゃんと街の名物になるだろうか。支配人は相当乗り気なんだけど。
 
 天ぷらは好評で、あっという間になくなってしまった。
 サクサクって食感がいいからな。いくつも食べたくなっちゃう。
 試作だからあまりたくさんの量を用意できなかった。でも工夫次第でいろいろ天ぷらを提供できたはず。ちょっと反省だ。

 フライや天ぷらなど、衣をつけて油で揚げるという文化がないのかみんな驚きながらも喜んで食べている。
 こういうのも名物料理になったりしないのかな。
 鯛めしもいいけど、もっと庶民的な料理もいい。

 このあとみんなに配る鯛めしは、取り分けてもうおにぎりにしてしまっている。
 残しておいたハンバーガーを作って今日はおしまい。
 お世話になっている人たちにこれから届けようと思う。
 
 屋台を片付けて冒険者たちに挨拶をする。ガンツももう帰るみたい。ガンツは一度工房に戻ってから宿に戻るそうだ。夕飯の時には部屋に行くと伝えておいた。

 手分けして渡しに行っても良いけれど、せっかくなのでフェルと2人で一緒に配って回ることにする。
 一緒に屋台を戻しに行って入金を済ませた。

 まず受付のマリアさんにハンバーガーを渡した。忙しくてなかなか屋台に行けないのだとマリアさんが謝っていた。
 少しマリアさんと話をしていたら、前にポーションを渡した串焼き屋のおじいさんの腰の痛みがなくなったって教えてもらった。どうやらあのやばいポーションが効いたみたいだ。
 じゃあ屋台をやめなきゃいけないの?
 そう思ったけど、どうやらちがうみたい。
 だけど近々屋台に挨拶に来るそうだ。
 なんかトラブルにならなきゃいいんだけど。

 次はどこから行こうかな?とりあえず近いところから行けばいいか。
 まずはフリオさんに挨拶に行こう。
 パン屋のおばさんの名前はわからないけど、これまでだいぶお世話になっている。
 パンの量を日によって増やしたり減らしたり、定まってなかったからいろいろ面倒だったと思う。

 店の奥からフリオさんが出てきた。こないだ食べてもらえなかったからと言って、ハンバーガーを渡す。

「わざわざすまないね。ああ、そうだ。いきなりパンを届ける時間を変えたりしてすまなかった。実はトビーがね。パン作りを教えてくれって昨日急に言い出して。せめて自分が屋台で売る分は自分で作りたいんだってそう言うんだ。きっと君がいい刺激になっているんだと思うよ」

 トビーは親父さんにこき使われてるみたいなことを言っていたけど、本当はそうじゃなかったんだな。

 そのあとマリーさんの肉屋でハンバーガーと鯛めしのおにぎりを渡して市場に向かう。2人とも喜んでくれた。

 おっちゃんの魚屋に着いた頃には市場の営業はほとんど終わっていた。
 後片付けを始めていたセシル婆さんを手伝う。

 営業の終わったおっちゃんの店に椅子を並べて、まずは先にハンバーガーを食べてもらう。
 今日はチェスターさんがまだ帰らずに残ってくれていた。ジェイクのおっちゃんが声をかけてくれていたらしい。

 ハンバーガーはみんな喜んで食べてくれた。チェスターさんは家族に持って帰りたいと言ってる。
 帰りに今度必ず買いに行くと言ってくれた。

「あんたすごいねえ。あのクライブの弟子なんだって?王都のお店はさぞ繁盛してるんだろうねえ」

「セシル婆さん、師匠のことを知ってるの?」

「当たり前さ。この領都の英雄の1人じゃないか。あん時はみんなして交代で看病したもんだよ。とにかくひどい大怪我してたからねえ。聖女様が知らせを聞いて領都に駆けつけてなかったらほんとに危ない状態だったんだよ」

 そんなにひどい怪我だったんだ。あの時戦ってた人に犠牲は出なかったって言ってたけど、戦争だったんだもんな。そんな甘いものじゃなかったはずだ。

 師匠もサンドラさんも領都での戦争のことは話したことがない。
 ガンツもライツも参加してたと思うけど何も聞かされてない。
 話したくないような出来事が、たぶんいろいろあったんだろうな。

 僕の父も昔、冒険者だったと言ってた。そのころ父はどういう生き方をしてたんだろう。
 父の冒険者時代のことは何も知らなかった。

 鯛めしのおにぎりを少し蒸す感じで温め直す。ほんのりと温めたくらいの鯛めしをお皿に盛り、スプーンと一緒にみんなに提供した。

「兄ちゃん……。こりゃ……なんだ……?こんなに美味い魚の料理なんて食ったことないぜ。渡した鯛は確かに上等なものだったが……。これは美味い。丸ごと鯛を食ってるみてえだ」

「あたしはさっきの料理ですっかりお腹いっぱいになったと思ってたんだけどね。なんだかまだまだ食べられそうだよ。それにしても優しい味だねえ。昔の知り合いが作ってくれた料理に似ているよ」

「ケイくん?こんなに美味しい料理をご馳走になって良いのかい?こんなのお店で食べたらいくらするかわからないよ」

 チェスターさんは驚いた様子でお金を払わなくていいのかと聞いてくる。

「この料理は、たぶん皆さんと出会えなかったら生まれなかったと思います。スティーブさんの魚の煮込みを食べて、そのあとみなさんと出会えて。おっちゃんに生きのいい鯛を見せられて。はじめは本当になんとなく、スティーブさんみたいな料理を作ってみたいなって思って作ったら、スティーブさんと銀の鈴の支配人がこの料理はもっと美味しくなるって言ってくれて……」

 まだひと月も経っていないけど、出会った人たちの顔が浮かんでくる。
 ガンツに放り投げられて、それからいろんな人と出会って、そしてスティーブさんにいろいろ指導を受けて出来上がった鯛めしのレシピ。

 僕1人では完成しなかった。この領都でいろんな人に出会って影響を受けたから作れたと胸を張って言える。

「スティーブさんには本当にいろんなことを教えてもらってます。だけど皆さんが売ってくれる食材があってはじめてそれ工夫が活かせることを改めて感じて……。とにかく皆さんには……」

「いいって。兄ちゃん、それ以上は言わなくていい。聞いてると恥ずかしくなっちまう。こっちこそ感謝してるぜ。俺たちの売ってるもんををこんな美味いものにして持ってきてくれるなんてな。これじゃもう兄ちゃんなんて気軽に呼べねーな。もういっぱしの料理人じゃねーか」

「いや!そこは今まで通りにお願いします。完成できたのはスティーブさんのおかげだし、まだ一人前の料理人なんて恥ずかしくて言えません。そんな扱いされたらお店に行きづらくなっちゃう」

 あわてておっちゃんにそう言うとみんなが少し笑った。

「兄ちゃんはなんつーか……。まあいいか。これからもよろしくな。今まで通り欲しいものがあったらなんでも言ってくれ」

 そう言うおっちゃんと握手をする。おっちゃんの手の感触はなんだか懐かしい気がする。手のひらは硬くて、あちこちに傷がある。そういえば少し、父さんに似てるかも。

「あ、言ってなかったが、明後日からちょっと仕入れに行くからな。2日ほど休みにするぜ。たまに港町に行って仕入れたい魚を選んでくるんだ。なんか欲しいものがあれば明日にでも言ってくれ。兄ちゃんが教えてくれた昆布な、あれから少しずつ売れてるんだ。兄ちゃんの屋台の辺りでスープを売ってる奴がいるだろ?あいつも最近仕入れて使ってるみてーだぜ。兄ちゃんが料理に使えるって言い出したら今まで売れなかったもんも売れるようになる気がするんだ」

 おっちゃんの言う、奴って言うのは、僕の屋台の隣のスープを売ってる屋台のおじさんのことだ。
 昨日冒険者たちが毎日宴会を開くから開店前に謝りに行った。
 おじさんはうちの売り上げもつられてあがってるから気にするなって言ってたけど、僕が一生懸命頭を下げてると、なら俺にも試作の料理を食わしてくれと言い出したから今日の料理を差し入れた。

 宿に戻ったのはすっかり暗くなってからだった。エドさんの果実水の屋台はもう終わって片付けられていた。
 エドさんにも鯛めしを渡す予定だったけど間に合わなかった。

 余った鯛めしは3男に食べさせた。

「ケイくーん!これすごいよー。何?何?領都の名物にするの?それいいじゃない。ケイくんが考えたの?あ、支配人?えー、僕もちょっと協力したいな。いやいや、そんなでしゃばったりしないよ。ちょっと僕にも考えてたことがあってさ。心配しないで、ケイくんに迷惑なんてかけないから大丈夫」

 そう言って3男は夕食を食べた後、席を立って支配人のところに向かった。
 僕はガンツと少し話す。

「なんじゃ……クライブの話か?まあ気にせんでもいいと思うぞ。何があったかなんてオヌシならだいたい想像できておるのじゃろ?」

 ガンツはそう言って僕を見た。その優しい眼差しの奥に少しだけ暗い影が感じられる。うまく言えないけれどガンツはそんな目をしてた。

「……ワシはな。あの当時のことでワシが何かを言うべきではないとそう思っとる。ワシはドワーフだ。人よりも長く生きておる。今までいろいろな国を見て来た。帝国にも住んでいたこともある。そんなワシがあまり偉そうに当時のことを語るべきではないとそう思っとるんじゃ。じゃからワシがオヌシらに話せることは何もない。オヌシたちにとって10年は長い時間かも知れんが、ワシらの感覚ではまだ10年しか経っておらんのだ。そしてその10年でこの国は少しずついい方向に変わりつつある。ワシの話を聞くよりも、ケイ、それはオヌシがゆっくり自分でこれから考えて行けば良い」

 そうガンツは少し寂しそうに言った。
 僕は何も言えなくてそのあと沈黙が続く。
 こんな時に3男がいてくれたら良かったのにな。きっとその場を明るく変えてくれたと思う。

 部屋に戻り着替えてベッドに入る。

「ケイ」

 そう言ってフェルが僕のことを抱きしめて包み込む。

「ドワーフとは我々とは違う長い年月を生きる者たちだ。それがいいことばかりではないことを彼らはよく知っている。ガンツの昔のことは知らないが、きっとこれまでいろいろなことがあったのだと私も思う」

 そしてフェルは優しく僕を抱きしめる。

「今まで家族のように接していたガンツが急に遠くに感じられたのであろう?人とは違う時間に生きてる種族とは考え方も人とは異なるのだ。お互い真に分かり合えることなどないのかもしれない。お前はそれが寂しく感じられるのだろうが、違うぞ。ケイ……。ケイがガンツやライツにこうして受け入れられているのはケイが正しく生きてその優しい心で接していたからであろう?そのことを忘れてはいけないと思うのだ。私も……。これまでケイとは違う世界で生きてきた……。そこは……ケイが思うような良い場所ではけして無かった……。ガンツに比べたら大したことでもないのかもしれないが、現実は……ケイが思うよりもっとひどいものだ……」

 フェルは僕を胸に抱きしめてたどたどしく話を続ける。

「私は……、ケイと出会えて心から良かったと思う……。ケイの周りには優しい人が不思議と集まるのだ。ゼン殿には王都でケイの護衛をすると言っていたのにな。実際そんな必要なんて全くなかった。……それは。上手く言えないがケイが引き寄せたものだと思うぞ……。普通ドワーフが我々人族にここまで心を開くことはない。それはガンツたちが少し変わっているのもあるかもしれんが……。つまり……。その……、今のガンツとの付き合いを、だな。もっと大事に思うべきだ。長命種ということは重要ではない。今こうして繋がりを持つ、持っているそのことが大切なことだと私は思うのだ」

 僕はフェルを抱きしめている手に少しだけ力を込める。

 今までガンツと種族が違う、考えが違うなんて考えたこともなかった。ガンツが少し悲しそうな顔をして、その顔を見たら何も言えなくなってしまった。

「私だってそうだ。私はケイとは違う国で育った。考え方や好き嫌いなどまるで違う。王国に比べて私の育った隣国は治安もよくなかった。信じられるか?隣国の王都では死体を見る日など日常のことだった。私は……騎士として……」

 抱きしめる手の力を抜き、フェルの顔を見る。
 ありがとうって気持ちを込めてフェルに優しくキスをした。

「……領都を守れたことで街は、王国は拍手喝采であったであろう。その喝采の陰でそれぞれがいろんな想いを抱えていた。その中にはクライブも、きっとサンドラもいた……。皆がそれぞれ思い合うことで今があるのだ。そして大切なのは今、どうあるべきなのかということだと、まず私は思うのだ。だがすまぬ、これ以上は上手く言えない」

 そう言ってフェルは目を背ける。
 
 なんて言葉をかけていいかわからなかったけど、一番大事なことは伝えたいと思った。

「ありがと。フェル……大好きだよ」

 そう言って優しく抱きしめあってその日は眠った。

  
 

  
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 
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